10月25日、シンガポールのローレンス・ウォン副首相は、2050年までにネット・ゼロを達成するという公約を強化する一環として、11月に開催されるCOP27気候会議でより野心的な排出量削減目標を提出する予定であると発表した。ウォン副首相はまた、シンガポールの気候変動対策の一環として、今世紀半ばまでに国内の電力供給の半分を水素に移行することを目指した「国家水素戦略」を発表した。
ウォン副首相は先週開催されたシンガポール国際エネルギー・ウィークでの講演で、シンガポールのNDC更新となる新たな2030年排出量削減目標を明らかにした。シンガポールはこれまで、2030年頃に排出量のピークを迎え、CO2換算で6,500万トンとする目標を掲げていた。新しい目標では、より早く排出量のピークを迎えることを目指し、2030年にCO2換算で約6,000万トンを達成することを目指す。
副首相は、2050年のネット・ゼロはシンガポールにとって「ストレッチ・ターゲット」であり、特にシンガポールには再生可能エネルギーを大規模に展開する選択肢が限られているため、太陽光や風力を大規模に展開できる土地や水力発電用の川がないと指摘した。
水素戦略に関しては、気候変動目標を達成するためにシンガポールが目指す戦略をいくつか紹介した。シンガポールの排出量の約40%は電力が占めており、電力セクターは現在、天然ガスに大きく依存している。再生可能エネルギーによる発電やクリーンエネルギーの輸入には限界があるため、ウォン氏は、クリーンエネルギー源として水素の活用を目指している。燃料として使用する際にCO2を排出しない、多様な供給国から輸入できる、航空・船舶など電化が難しい分野の原料として利用できるなどの利点があると指摘した。
しかし、低炭素型水素を大規模に展開するには、技術開発やインフラ整備など、多大な投資と前進が必要である。シンガポールの新しい水素戦略には、大規模展開の可能性を理解するための主要な水素技術とキャリア経路の調査、水素研究開発の支援、低炭素水素の世界貿易の促進とサプライチェーンの確立に向けた産業界や国際パートナーとの協力、低炭素水素の長期展開に必要な土地やインフラの調査、水素移行に備えた労働力の整備が含まれている。
さらに副首相は、低炭素社会への移行を促進するために必要な何兆円もの資金を調達するためのグリーンファイナンスの重要性を強調した。シンガポールは、アジア市場で拡大するESGと持続可能な金融の機会を活かそうとする金融サービス企業やESGに焦点を当てたデータプロバイダーのハブとして浮上しており、テクノロジーとデータを活用し、より透明で信頼性が高く効率的なESGエコシステムを構築することによってグリーンおよび持続可能な金融の資金動員を支援する「プロジェクト・グリーンプリント」など、いくつかのイニシアティブを立ち上げている。また、シンガポールは最近、初のグリーンボンドを発行し、国の持続可能な移行戦略の資金として最大350億シンガポールドルを調達することを目的とした複数年計画の幕開けとなった。
【関連記事】
シンガポールが初のグリーンボンドを発行
シンガポール、初のグリーンボンド募集で約2,300億円を調達
MAS、シンガポール初のソブリン・グリーンボンド発行に着手
副首相が強調したその他の取り組みには、炭素税の引き上げや新たな公共部門のコミットメントなどがある。
シンガポールは2019年に炭素税を導入し、最低レベルを超える排出量に1トン当たり5ドルの価格を設定した。先日発表されたシンガポールの2022年度予算では、炭素税を2024年にトン当たり25ドル、2026年に45ドル、2030年にはトン当たり50ドルから80ドルと大幅に引き上げる計画である
また、2045年頃までに公共部門全体でネット・ゼロエミッションを達成し、2035年までにすべての公共部門の自動車をクリーンエネルギーで走行させるという政府の新たな公約も掲げられている。