
8月15日、欧州中央銀行(ECB)は、欧州議会議員らからの書簡に対する回答の中で、気候変動リスクを金融システムに適切に反映させるための新たな措置を明らかにした。ECBは、ユーロシステムの担保枠組みに「気候ファクター(climate factor)」を導入する計画を発表しており、2026年後半に実施する見通しとなっている。
ECBはすでに2021年以降、金融政策の枠組みに気候変動の影響を組み込む方針を打ち出しており、リスク評価ツールの改善や担保措置の改定を進めてきた。2024年末からは気候関連リスクを国別中央銀行の信用評価に反映、また2021年からはサステナビリティ連動債(SLB)の担保受け入れを開始している。
今回打ち出された「気候ファクター」は、非金融法人が発行する市場性資産に適用され、発行体や資産特性に応じて担保価値が減額される仕組み。グリーン移行に伴う不確実性によるリスクに対して金融システムを守る「バッファー」として機能することを狙っている。導入後もデータやモデルの改善に応じて見直しを行う予定だ。
ECBは2022年にハイカーボン企業の担保使用を制限する仕組みを検討したが、必要な詳細データ不足により断念。その代替策として新たに設計されたのが今回の「気候ファクター」であり、ECBの「気候・自然プラン(2024–2025)」の一環と位置づけられている。
ただし、こうした取り組みを進めるためには企業のサステナビリティ報告に関する十分なデータが不可欠である。現在進行中の「CSRD(企業サステナビリティ報告指令)」および「CSDDD(企業サステナビリティ・デューディリジェンス指令)」改正を含む「オムニバス提案」は、データ入手可能性に大きく影響を与える可能性がある。もし対象企業範囲が縮小されれば、ECBのリスク評価能力が弱まり、担保枠組みにおける気候関連措置の実行にも支障を及ぼしかねないとECBは警鐘を鳴らしている。
ECBは今後も、データ基盤の充実と制度的枠組みの整備を通じて、物価安定と金融システムの安全性維持という使命を遂行しながら、気候変動および自然環境悪化が及ぼす影響に対応していく考えを示している。