10月24日、国際エネルギー機関(IEA)は、エネルギー分析と予測をまとめた「世界エネルギー見通し(WEO)」の2023年版を発行した。EVが10倍近く普及し、再生可能エネルギーが世界における電力の半分に迫るが、1.5℃目標のためにはより強力な政策が必要であるとした。
世界エネルギー見通し2023によると、現在進行中の大きなシフトにより、この10年の間に、世界のエネルギーシステムは大きく変化するという。世界中でほぼ10倍の数のEVが走行し、太陽光発電が現在の米国の電力システム全体の発電量を上回り、世界の電力に占める自然エネルギーの割合が現在の約30%から50%に近づくと予測。新しい洋上風力発電プロジェクトへの投資に関しては、新しい石炭火力発電所やガス火力発電所への投資の3倍に達すると見込む。
クリーンエネルギー技術の勢いの高まりと世界的な経済構造シフトにより、石炭、石油、天然ガスの世界需要はピークアウトすると予想。世界のエネルギー供給に占める化石燃料の割合は、ここ数十年80%前後で推移してきたが、2030年までに73%まで低下し、エネルギー関連のCO2排出量は2025年までにピークに達する。
一方、地球温暖化を1.5℃に抑えるという目標達成に向けては、化石燃料の需要が高止まりしてしまい、現在の政策設定よりもさらに強力な対策が必要であると主張。
WEO-2023は、2030年までの世界戦略を提案している。「世界の再生可能エネルギー容量を3倍」「エネルギー効率改善率を2倍」「化石燃料事業からのメタン排出量を75%削減」「新興国や発展途上国におけるクリーンエネルギー投資を3倍にするための革新的で大規模な資金調達メカニズム」「化石燃料の使用を秩序正しく減少させるための対策(停止していない石炭火力発電所の新規認可の停止を含む)」の5つから成る。
WEO-2023は、世界エネルギー危機で特に大きな打撃を受けたエネルギー市場の一分野が、数年後には圧力が緩和されることを強調。天然ガス市場は、ロシアが欧州への供給を削減した後の安全保障と価格高騰への懸念に支配され、市場バランスは不安定なままであった。しかし、2025年以降に開始される液化天然ガス(LNG)の新規プロジェクトが前例のないほど急増することで、2030年までに年間2,500億立方メートルを超える新規生産能力が追加される見通し。これは現在の世界のLNG総供給量の約45%に相当する。
WEO-2023では、今後数年間のエネルギー市場の大きな変動要因についても詳しく考察している。中国のエネルギー総需要は、この10年の半ば頃にピークに達すると予測しており、クリーンエネルギーが引き続き大幅に成長することで、化石燃料の需要と排出量は減少に転じるという。
また、この10年で太陽光発電がさらに成長する可能性にも言及。再生可能エネルギーは、現在の政策設定のもとでは2030年までに新規発電容量の80%に貢献するとされており、太陽光発電だけで半分以上を占める。しかし、WEOの分析によれば、このシナリオは太陽光発電のポテンシャルの一部しか考慮していないとし、この10年の間に、世界は年間1,200ギガワット(GW)を超えるソーラーパネルの製造能力を持つことになるが、2030年に実際に導入されるのは500GWに過ぎないと予測されている。
【参照ページ】
(原文)The energy world is set to change significantly by 2030, based on today’s policy settings alone
(日本語参考訳)IEA、「世界エネルギー見通し2023」発行