1月9日、格付・リサーチ・リスク分析のMoody’s Investors Serviceが新たに発表したレポートによると、2023年に企業およびソブリンの信用の質は、ESGリスクの高まりによる影響を受ける可能性が高いという。その要因としては、気候関連計画に対する監視の強化、ロシア・ウクライナ紛争および進行中のパンデミックの影響から生じるマクロ経済および地政学の問題によって悪化する規制・政治圧力の高まりなどが挙げられる。
本レポート「2023 ESG Outlook」では、Moody’sが今年クレジットに影響を与えると予想する4つの主要なESG関連トレンドを挙げている。その中には、企業の脱炭素化計画に対する監視の高まり、高い生活費への懸念による社会的リスクの上昇、ガバナンス上の課題を抱える低格付けの発行体に対する借り換えリスクの増大、複雑化するESG規制と政治情勢が含まれている。
脱炭素化の面では、二酸化炭素排出量削減のリスクに大きくさらされるセクターのうち、石油・ガス、鉱業、農業など、まだ詳細な移行計画を公表していないセクターが直面する可能性のある圧力に注目している。これらのセクターの企業は、投資家や金融機関が独自のネット・ゼロ・コミットメントを実施し始めることによる資本コストの増加や、スコープ3排出量への取り組みが活発化する中で企業がサプライチェーンを精査し始めることによる需要圧力に直面する可能性があるとしている。全体として、Moody’sは、5兆ドル(約661兆円)近い負債を抱える16のセクターが、炭素移行リスクに対して高または非常に高いエクスポージャーを内在していると推定している。
報告書によれば、信用に影響を与える社会的リスクは、エネルギーや食糧コストの高騰など、基本的なサービスへのアクセスや購入可能性に影響を与える問題から生じ、ロシア・ウクライナ紛争によって悪化し、脆弱な人々を支援するためにパンデミックの影響を受けた財政状態の回復にまだ取り組んでいる政策立案者への圧力となるものである。Moody’sによれば、これらの動向は、新興市場の政府、政府の風評税に直面するエネルギーおよび電力部門、購買力の低下と物価上昇を受け入れる意欲に直面する消費者部門など、幅広い事業体に影響を及ぼすと思われる。
Moody’sによれば、外部からの衝撃を受けやすい環境において、レバレッジの高い資本構成や脆弱なリスク管理方針など、より厳しいガバナンスの特性を示す傾向があるため、流動性と借り換えのリスクが高い低格付け企業の信用リスクが最も高まるとされている。報告書は、消費財、外食、小売などのセクターに属する投機的等級の非金融企業や、2023年の満期が大きい低格付けのソブリンに特にリスクがあることを強調した。
例えば、企業は多くの国・地域で持続可能性に関連する慣行に対する圧力の高まりに直面している一方、米国の一部の州では事業や投資の意思決定にESGを考慮することを最小限に抑えようとする圧力に対処している。より広範には、ESG関連開示の要求が高まることで、企業のESGの位置づけや、特に金融機関にとっては、金融規制当局がグリーンウォッシュの懸念に対処することに焦点を当てる中、虚偽表示の可能性と同様に、法的、規制的、評判的リスクが高まることが予想される。
2023年の信用力に影響を与える要因に加え、本レポートでは、物理的な気候リスクと適応の財務コストに対する理解の強化、エネルギー移行計画におけるジャスト・トランジション(公正な移行)への配慮の統合、自然資本と生物多様性の問題に対する規制の高まり、廃棄物とコンテンツの再利用を減らすための循環経済の実践に対する企業への圧力の上昇など、将来の信用力に影響を及ぼす一連の「注目すべきESGトレンド」を特定している。
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(原文)2023 Outlook – Macroeconomic challenges to exacerbate ESG credit risks