目指すは建設業界の人的資本の最大化。助太刀が推進するESG・サステナビリティ経営

2022年10月、建設業界向けマッチングプラットフォーム「助太刀」を運営する株式会社 助太刀は、「マテリアリティ(重要課題)」の特定と、持続可能な社会の実現に向けた取り組みをまとめた「サステナビリティサイト」を公開した。

近年、企業においてESG・サステナビリティ経営を追求する動きが加速しているが、直近のトレンドの一つとして、助太刀のように特定の業界に深く入り込み、バーティカルにサービスを展開する企業・スタートアップにおいても、ESG・サステナビリティ経営を推進する動きが広がり始めている。

ESG Journal編集部は、「建設現場を魅力ある職場に」というミッションを掲げ、建設業界の社会課題解決に真正面から取り組む助太刀の取締 CFOである金谷圭晃氏に、今回のマテリアリティ特定とサステナビリティサイトの公開にいたるまでの道のりについて詳しくお話を伺った。



3ヵ月で実行したマテリアリティの特定とサステナビリティサイトの公開

ー マテリアリティ特定とサステナビリティサイトの公開を終えられて、今の率直なご感想をお聞かせ下さい。

【金谷】これまで弊社では、「建設現場を魅力ある職場に」というミッションの実現を目指し、建設業界の様々な課題を解決してきましたが、今回のプロセスを通じて、自分たち自身が取り組んでいる大きな社会課題を見つめ直し、その解決方法とESG・サステナビリティ経営の推進を結びつけて言語化することの難しさを改めて感じました。一方で、主要なステークホルダー・株主であるはたらくFUND様や新生銀行様、MPower Partners様がESG・サステナビリティ推進に必要な知見を持っていたこともあり、彼らの協力も得ながら思考を整理することで、今後弊社として目指すべき方向性をクリアにすることができたと考えています。

反響という面では、建設業界向けにサービスを展開するスタートアップが、こうした取り組みを行うこと自体が珍しかったということもあり、業界新聞などのメディアに取り上げていただけたことは一つの大きな収穫でした。

また、その他の株主やスタートアップからの反響も大きかったです。やはり近年ではスタートアップの段階からESG・サステナビリティ経営を推進する動きがスタンダード化しつつあり、弊社のようにESG・サステナビリティ視点から自分たちが今何に取り組んでいるのかを改めて言語化し、メディアやサステナビリティサイトを通じて発信するような動きはこれからも増えていくだろうと感じました。

ー 今回の発表にいたるまでにどの程度の期間を要したのでしょうか。

【金谷】はたらくFUND様やMPower Partners様からの出資が決まったのが2022年の春でしたが、出資前の段階から両VCとはサステナビリティサイトの構築やESG経営推進の方針についてディスカッションを重ねており、出資完了後に新生銀行様も本プロセスに加わったことで、3ヶ月ほどで今回の発表に至りました

ー「3ヶ月」という期間は他の企業様と比べても非常にスピード感がある印象を受けます。

【金谷】はい、スタートアップとしての意思決定の早さは勿論ですが、出資前後で知見のあるステークホルダーが参画したことで、一気に公開にまで漕ぎ着けることができました。

特にESGのSocialの部分はかねてより助太刀が取り組んできた「建設現場の人手不足」という社会課題とも非常に親和性が高く、スムーズに特定プロセスを進めることができたと感じています。

ー 最初から最後まで大きな障壁もなくプロセスを進めることができたということですね。

【金谷】そうですね。一方で、EnvironmentやGovernanceについては、「マテリアリティマップにどう落とし込むか」「優先順位はどうすればいいか」という観点で難しさを感じたことも事実です。最終的には新生銀行様を中心に多くのアドバイスをいただいたことで、納得のいく結論を出すことができました。

※株式会社助太刀が公開したマテリアリティ



目指すは助太刀を通じた建設業界全体の労働環境の改善

ー 続いて、御社のターゲットである建設業界における社会問題についていくつかお伺いしたいと思います。御社はサステナビリティサイト上で建設業界における課題の一つに「平均賃金の低さ」を挙げていました。人手不足であれば賃金は上昇すると思うのですが、賃金上昇に繋がらない原因はどこにあるのでしょうか。

【金谷】仰るとおり、本来であれば建設業界は常に人手不足であるため、職人さんの賃金は上昇して然るべきだと思っています。しかしながら、そうなっていないのが現状です。

その理由として、「出し手と受け手の流動性の低さ」が挙げられます。職人さんは契約で縛られているわけではないのですが、多くても2〜3社の特定の建設会社としか取り引きを行いません。これまで関係を築いてきた取引先との関係を続けたい方が多い、つまり、既存の取引先に依存してしまっている現状によりバーゲニング・パワーが生まれず、適切な取引関係を実現できていないのです。

賃金が上がるのは流動性が担保されていることが前提ですが、流動性が悪く、労働力の需給バランスが担保されていないために賃金の上昇に繋がらない構造となっています。そこで我々は適切な流動性を確保するために、建設会社と職人さん双方のマッチングの場を提供しています。

ー 助太刀を利用して、エリアや取引先を大きく変えるなど高単価な取引を見つける職人の方々も増えているのでしょうか。

【金谷】ケースとしてはありますね。とはいえ建設業はローカル色が強い職業なので、まずは自分のエリアの中で建設会社との接点を多く持ち、仕事を増やしていく職人さんが多い印象を受けます。

一方で、建設会社サイドはより多くの人材確保を目的として、助太刀を通じた新しい職種や異なるエリアの開拓・進出を積極的に行っています。

ー 御社のマッチングサービスによって、「価格交渉力の乏しさ」は解消されているのでしょうか。

【金谷】そうですね。多くの職人さんから安定した仕事の受注が可能になったという声をいただいており、中には1ヶ月で10〜20のスカウトを受けた方もいらっしゃいます。建設業界の中での助太刀のプレゼンスが上がっていることで、より安定した受注の実現に貢献できていると感じています。

ー マッチングによる人手不足の解消の仕組みについてよく理解できました。しかし、給与水準や労働環境が改善されなければまた離れてしまうと感じます。そのような構造的問題を解消するアプローチはあるのでしょうか。

【金谷】はい、「助太刀」には職人と建設会社の相互評価の機能があります。職人さんのコミュニケーション能力や建設会社の労働環境などを相互に評価可能な機能を提供することで、建設会社に対しては改善のアドバイスを行い、職人さんに対しても建設会社の魅力を啓蒙することで両者にインセンティブが働く仕組みになっています。

建設会社・職人双方にとってブラックボックスになっている点を明らかにし、情報格差を埋めていくことで、業界全体の労働環境を改善することが大事だと考えています。

今後は建設業界全体の人的資本の最大化を

ー 建設業界における人材の開発・育成で着手されている点や注力している点があればお聞かせください。

【金谷】ESG的な視点では「人的資本」、具体的には「建設業界全体の人的資本の最大化」に貢献したいと考えています。特に職人さんのキャリアアップに着手し続けることは我々の大きなミッションの一つです。職人さんの取引先を増やし、より正当に評価してもらえる機会を設けるなどキャリアの選択肢を増やすことや、独立支援にさらに力を入れたいと考えています。そのためには、職人さんのスキルの可視化やランク付け、また建設会社の情報の可視化が重要になってきます。

そのような観点の取り組みの一つとして、国土交通省が主導するCCUS(建設キャリアアップシステム)が挙げられます。これは建設業界のマイナンバーカードのようなものと想像していただきたいのですが、職人さんの就業実績や資格を登録し、技能の公正な評価、工事の品質向上、現場作業の効率化などにつなげるシステムであり、助太刀のプロダクト内部にも連携して実装しています。

国や財団法人と我々の手段は異なるものの、「建設業界の人的資本の最大化」という観点で捉えれば、目指す場所は一緒だとも言えますね。職人さんにとっても、登録することで信頼性が担保されるので、助太刀上でCCUSに登録していることを積極的にアピールいただいています。

CEOを中心にわかりやすさに徹底的に拘ったサステナビリティ・サイト 

ー 御社が今回公開したサステナビリティサイトはこれまでのお話を非常に分かりやすくまとめており、かつ具体的な構成になっていると感じています。

【金谷】ありがとうございます。サステナビリティサイトの構築にあたっては新生銀行様による現状評価やQ&A、フィードバックも参考にしましたし、ESGに先進的に取り組む企業様のサステナビリティサイトなども参考にしました。全体的な作り込みに関してはCEOの我妻が全面的に主導しましたね。

ー 知見のある第三者とのディスカッションの中から、サイトに盛り込む内容が整理されたということでしょうか。

【金谷】その通りです。彼らとのディスカッションを通して得られたことが大きく分けて2つあります。1つ目は、建設会社と職人さんの2軸に分けて考えることです。我々が価値提供できるのは、建設会社と職人さんという2つのステークホルダーであり、それぞれのポジティブインパクトを分けて考えることが重要であると認識できました。

2つ目は、先にも述べたように本プロセスを通じて、サステナビリティの取り組みと弊社の事業の関連性をうまく言語化できるようになったということです。

ー 我妻CEOは具体的にどの部分にこだわったのでしょうか。

【金谷】内容の分かりやすさに尽きると思います。我妻の「シンプルに、わかりやすく」伝えたいという想いをサステナビリティサイト全体に反映することを最重視しました。

建設業界の方々がチャレンジするのは単なる人手不足の解消だけでなくその先の労働環境の改善など他の問題もあります。今回のサステナビリティサイトにもこうした内容を盛り込むこともできました。

また「インパクトロードマップ」なども作成したのですが、初見の方にはその複雑性を理解いただくのが困難であると感じたため、今回は公開していません。また別の機会に出そうと思っています。

加えて、留意した点として、ESG、SDGsなどサステナビリティ関連の用語は似て非なる概念が多いので、社内の中で使い方をブレないようにしました。取り組みが表面的にならないように、自分達が実際にやろうとしていること・できることを「自分達の言葉で語る」ことを意識しています。

ようやくスタートライン、今後はインパクトの定量化・可視化を

マテリアリティの特定やサステナビリティサイトを公開した今、次のマイルストーンや展望はありますか。

【金谷】今回の取り組みを通じて、ESG・サステナビリティ経営の推進を通じて弊社が目指す姿を多くの方々に知っていただくことができました。ただ、これはスタートにしか過ぎないので、今後は社会全体やステークホルダーに対して継続的に取り組みの進捗を伝える必要性があると思っています。そのためには「インパクトの定量化・可視化」が次のマイルストーンだと思っており、準備を進めています。

ネガティブインパクトを減らしていくにしても、ポジティブインパクトを増やしていくにしても、まだまだ難しいと捉えられている定量化やインパクト測定に対して、いちスタートアップとして積極的にチャレンジしていきたいですね。

さいごに 

今回の取材を通じて、ESG・サステナビリティ経営の推進が、各業界においても深く浸透しつつあり、今後は単なる目標設定に留まらず、取り組みの進捗をインパクトという観点で測る流れも加速していくのではないか、そんな印象を金谷CFOとのお話から感じた。

スタートアップとして建設業界に深く入り込み、今後はインパクトの定量化・可視化にも挑んでいく株式会社助太刀にこれからも注目したい。

【参照ページ】
株式会社助太刀 サステナビリティサイト

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