エネルギー需要の逼迫を解決!分散型エネルギーと地域マイクログリッドとは
こんにちは!ESG Journal Japan編集部です!
近年、エネルギー問題に対する国際的な危機感が非常に高まっています。背景としては、気候変動によるエネルギー消費量の増大や、ロシアのウクライナ侵攻があります。
実際に経産省によると、夏季・冬季共に10 年に一度の猛暑・厳寒を想定した場合、電力需要量に対し安定供給が可能な電力量は非常に厳しい見通しとなっています。また、ロシアは世界の石油の12%、天然ガスの25%ほどの輸出を占めるエネルギー大国であるため、現在の世界的なエネルギー供給は、非常に不安定になっており、特に欧州のガス価格は過去にもほぼ例を見ないほどの異常な高値となっています。
こうした危機感の高まりを受けて、経産省は「エネルギー白書2022」において、省エネの更なる強化や、エネルギー源と調達先の一層の多様化・分散化等により、エネルギー需給構造を質と量の両面で強靱化していく必要があると述べています。
そこで今回は、エネルギー問題の一つの解決策である分散型エネルギー・地域マイクログリッドに焦点を当てて、日本や世界でのエネルギー先進地域例をご紹介します!
【参考記事】
経産省、エネルギー白書2022を閣議決定
経産省、電力不足の可能性を踏まえ各自治体に節電要請
ロシア・ウクライナ情勢と欧州の脱炭素
分散型エネルギーの概要
分散型エネルギーとは、「比較的小規模で、かつ様々な地域に分散しているエネルギーの総称であり、 従来の大規模・集中型エネルギーに対する相対的な概念」です。地域に存在する再生可能エネルギーや未利用熱を一定規模のエリアで工夫して、うまく利用するようなシステムが分散型エネルギーシステムと言われています。
分散型エネルギーを構成する設備形態 (引用:総合資源エネルギー調査会 長期エネルギー需給見通し小委員会(第6回会合) 資料1)
なぜ分散型エネルギーへのシフトが求められるのか?
分散型エネルギーは、地域の特徴も踏まえた多様なエネルギー供給力(再生可能エネルギー、コージェネレーション等)をバランス良く活用します。それによって、エネルギー供給のリスク分散や非常時のエネルギー供給による「レジリエンス強化」と、地域のエネルギーをその地域で消費する地産地消を行うことによる「省エネルギー効果」を実現します。また、再生可能エネルギーを用いた分散型エネルギーシステムの構築は地域に新しい産業を起こし、まちづくりと一体して導入を進めることで「地域活性化」にも繋がります。
地域マイクログリッドの概要
分散型エネルギーシステムを構築するにあたっては、電力自営線を敷設することによる高額な導入コスト、工事の大規模化が普及する上での難点となっています。そこで、系統線等の既存の設備を活用し、電力自営線敷設にかかる導入コストの低減や工事の簡便化を可能にしたのが、地域マイクログリッドです。
地域マイクログリッドによって得られる恩恵はさまざまにありますが、経産省によると、「再生可能エネルギーの有効活用」、「レジリエンスの強化」、「地域の活性化」、 既存の系統線を活用することによる、「構築コストの低減」といった特徴があるとされています。
これまでの送配電システムでは、大規模な発電所が集中的に発電する「大規模・集中型」が主流でした。しかし、気候変動による災害の増加や再生可能エネルギーの普及、エネルギーへの危機感が伴って、分散型電源を活用しやすい地域マイクログリッドという送配電システムが注目を集めています。(マイクログリッドの仕組みは下図参照)
マイクログリッドの仕組み(引用:経産省 地域社会における持続的な再エネ導入に関する情報連絡会(第4回) 資料6より)
地域マイクログリッドのモデルは、送配電ネットワークの密集度や非常時に期待される役割が、郊外・半島部・山間部、離島全域、都市部でそれぞれ異なるため、対象エリアの特性によって分類されます。そこで今回は、それぞれの地域における地域マイクログリッドの意義と例について紹介します。
【参考記事】
エネルギーの地産地消に貢献!停電被害も軽減するマイクログリッドとは?
地域マイクログリッド 構築のてびき
①非都市部(郊外・半島部・山間部等)における地域マイクログリッド例
非都市部である郊外や半島の先端・山間部等では、災害発生時の送配電線事故などにより停電等の被害が長期化するおそれがあります。こうした地域は、電力系統網の末端に位置することが多いこともあり、都市部と比して地域マイクログリッドの発動が実施しやすく、一時的に電力供給等を行える地域マイクログリッドを構築することは有効な手段です。
以下では大衡村と西粟倉村における地域マイクログリッドの例を紹介します。
仙台北部工業団地における「F-グリッド構想」の実現にむけた検討を開始【トヨタ自動車/セントラル自動車】より引用
2015年に運用開始された宮城県仙台市の北に位置する大衡村では、地域マイクログリッドの取り組みとして、第二仙台中核工業団地の「F-グリッド」があります。
「F-グリッド」の目的は、工業団地及び地域コミュニティーにおけるエネルギーの 「セキュリティ向上」、「環境性の向上」、「経済性の確保」です。そのために、この事業では、トヨタの工場を核として、EMS(エネルギーマネジメントシステム)と蓄電池を導入し、分散型電源(コージェネレーション・太陽光)で作った電気と熱を工業団地内・地域内でかしこく使うことで地域マイクログリッドを実現する取組みを実施しています。
【参考記事】仙台北部工業団地における「F-グリッド構想」の実現にむけた検討を開始【トヨタ自動車/セントラル自動車】
また、西粟倉村では、森の百年構想プロジェクトとエネルギー自給に同時に取り組んでいます。森の百年構想では、過去に植林された森を百年後も持続的な森であるための管理を目指しており、適宜伐採した木材を木質ペレットとして活用することで、エネルギー自給にも取り組んでいます。さらに小水力発電や太陽光発電も組み合わせており、将来的には地域でのエネルギー自給率を100%にすることを目指しています。
【参考記事】「再エネで、村のエネルギー自給率を100%に」西粟倉村役場・白籏佳三さん(私と百森vol.10)
②非都市部(離島)における地域マイクログリッド例
非都市部である離島も、基本的には郊外・半島部・山間部等と同様に災害発生時の孤立化が長期化する可能性があり、離島ゆえに台風等による罹災リスクも高いです。しかし、比較的小規模な離島の場合では、島全体を地域マイクログリッド化するという発想をベースに、多くの離島で地域マイクログリッド化の実証実験などが行われています。
中でもオーストラリアのキング島における地域マイクログリッドはその好例です。キング島では、風力発電とディーゼルエンジンを協調させてディーゼル燃料を削減するマイクログリッドを構築するとともに、それをパッケージにして同国他地域や海外輸出展開を目指しています。
再生可能エネルギーを導入する以前、キング島では、ディーゼルエンジンだけで電力を供給していましたが、燃料代が非常に高くなり、輸送費などのコストが本島の倍以上になっていました。
そこでタスマニア州政府は、風力発電を中心に再生可能エネルギーを有効利用することによって燃料費を減らすプロジェクト「KIREIP」をスタートし、これまでダイナミックレジスター、蓄電池、ディーゼルUPS、スイッチングギアの基本部分を20フィートコンテナに収納して、各コンテナを各地域の状況に応じて増設して設置することにより、簡単にマイクログリッドシステムを組める手法を開発し、燃料費減を実現しています。(図9)
【参考記事】第14回 オーストラリア・タスマニア州キング島――風力発電を活かしてエネルギーコストを削減
③都市部における地域マイクログリッド例
都市部では、停電時の一次的な避難施設などへの電力供給などを目的とした地域マイクログリッドが構想されています。具体的には、非常時に送配電ネットワークから切り離すポイントや、非常時のみ開放される電力との接続など、複雑な工事が必要になるとされています。そのためか、国内の都市部における地域マイクログリッドは構想段階のものが多く、今後実用化が進むとみられています。
最後に
化石燃料の枯渇や再生可能エネルギーによる生態系への影響など、エネルギー問題を考える上では、考えるべき情報が非常に多く、解決のためには一つ一つの課題に地道に取り組んでいくしかありません。
今回紹介した、地域マイクログリッドのような新たな動きは、まだ世界中でのムーブメントにはなってないものの、近年のエネルギー問題への危機感が急速に高まった背景を考えると、各自治体や地域でのエネルギー問題の解決策の一つとして導入が活発化する可能性が高いと言えます。ESG Journalではこれからも、エネルギー問題に関する国内外の最新動向を定期的に配信しますので、今後のエネルギー関連の記事も是非ご覧ください。