ESGスコアとは?サステナブル担当者が知っておくべき基本的知識を解説

近年、企業に投資する観点として「ESGスコア」の重要度が高まっている。2020年代以降、世界的にESGへの取り組みへの関心はさらに高まっているものの、その基準は様々な評価機関によって異なり、スコアにもばらつきがある点が課題とされている。これを受け、欧米では基準統一化の動きが進展している他、ESGスコアを意識した情報開示も主流化している中、ESGスコアへの正しい認識ができているか不安な場合もあるだろう。本稿では、ESGスコアの基本的な概念および評価機関など、改めて情報を整理しつつ、自社の経営に寄与する評価の選定を考える観点について紹介する。

ESGスコアとは

ESGスコア/評価項目

ESGスコアとは、企業によるESG活動の取り組み度を示す数値である。環境・社会問題の解決に貢献する活動を経営に取り込み、中長期的に取り組む企業は、ESGスコアが相対的に高い。

ESGスコアは、シンクタンクや評価会社などが算出している。多くは、同セクターの複数社間等で比較可能なESGスコアランキングとして発表される。

ESGスコアは、算出方法によって以下の2つに区分される。

  • 統合型:特定のテーマに偏らず、ESGの全要素を総合的に評価
  • テーマ型:投資先の特徴的な取り組みを評価し、特定のテーマについてスコアリング

投資家がESGスコアを利用するようになった背景には、ESG投資の普及がある。ESGスコアは非財務情報が可視化されているため、効率的なESG投資先の選定が可能だ。

ESG評価機関

ESG評価機関は以下が主要とされる。

MSCI米国約70を超える国・地域の企業について調査・格付け・分析を提供
FTSE Russell英国多様な資産クラスの指数を提供
Sustainalytics米国ESG調査・レーティング・データを提供
S&P Global米国SAM Corporate Sustainability Assessment(CSA)を活用したESG評価のデータを提供
日本経済新聞社(日経NEEDS)日本上場企業の数値・テキストデータを収集した「日経ESGデータ」を提供
株式会社グッドバンカー日本個別銘柄の定量評価データを提供

日本企業のESGスコア

ESGスコアの代表的な評価機関は「FTSE」(ロンドン証券取引所)「MSCI」(モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル)といわれており、多くの企業がスコアをベンチマークしているのではないだろうか。ESGスコアの取得状況は次のとおりである。

FTSEスコア

FTSEは、2001年から「FTSE4Good Index Series」を提供しており、企業のESG情報を指数化している評価機関の代表格だ。主に、ESGレーティングなどのデータ、業種分類(ICB)、銘柄コード(SEDOL)、分析ツールを提供している。FTSEのESGスコアは、投資家の間でも信頼されているので、企業が重要視している指数でもある。

FTSEスコアでは、日本企業は4.7〜2.0のレンジで評価されている。

企業名インデックスにおけるウェイトESGスコア
日本電気0.30%4.7
トヨタ自動車4.63%4.3
ソニーグループ3.10%4.3
ファーストリテイリング1.06%4.2
東京電力ホールディングス0.14%3.9
三菱フィナンシャルグループ2.07%3.6
出典:FTSE Blossom Japan Sector Relative Index Constituents June 2023 Review

FTSEスコアにおけるESGテーマは、FTSE4Goodインデックスを監督する機関であるFTSE ESG Advisory Committeeが特定している。テーマの特定は、世界経済フォーラム等が認識する長期のグローバルリスクの情報や、様々な国際機関での情報などから項目を洗い出し、機関投資家や各分野の専門家と協議している。

選定されたESG評価項目は、以下の合計14のテーマで構成。現在、「環境」「社会」で5つのテーマ、「ガバナンス」で4つのテーマが選定されている。

環境気候変動
水利用
生物多様性
汚染と資源
環境的サプライチェーン
社会健康、安全
労働基準
人権と地域社会
顧客に対する責任
社会的サプライチェーン
ガバナンス腐敗防止
税の透明性
リスクマネジメント
コーポレートガバナンス

評価プロセスは、「①企業のエクスポージャーの特定」「②企業のテーマ・スコアの評価」「③企業のESGスコアの算出」の3つから成る。

①企業のエクスポージャーの特定

企業が活動する業種や地域、企業構造などによって適用されるESGテーマを決め、FTSE独自の基準(マテリアリティマトリックス)に基づき、エクスポージャーを特定する。300以上の個別評価項目の中から企業が活動するセクターや地域などを配慮し評価した後、企業ごとのテーマ・エクスポージャーを付与。最もリスクが高ければ3が付与される仕組みだ。

②企業のテーマ・スコアの評価

マネジメントの質やそのアプローチを評価する定性的指標と、企業の開示やパフォーマンスを判断するための定量的指標などから企業を勘案・評価する。テーマ・スコアの付与は、企業のテーマ・エクスポージャーが1以上であるテーマに限られる。取り組みが進んでいる企業ほど評価は高く、最大5、そのテーマに関する開示がない場合は0となる。

③企業のESGスコアの算出

環境、社会、ガバナンスの各ピラー・エクスポージャーが加重されたピラー・スコアの平均によりESGスコアが算出される。企業のESG評価は、報告書等の発行時期に合わせて年に1度行われている。

MSCIスコア

MSCIは、世界中の企業のESGスコアを評価している機関のひとつであり、信頼性が高いことから企業から重要視されている。

MSCIスコアでは、時価総額上位10社の半分がESGリーダーとなるAA及びAAAの格付けがなされている。投資家等のステークホルダーによるESG取り組みへの要求は、規模の大きい企業ほど強くなる傾向を示唆した結果と捉えられる。

企業名ESG格付け
第一三共AA
ファーストリテイリングAA
リクルートホールディングスAA
ソニーグループAAA
KDDIAAA

ESG評価の項目は、「環境」「社会」「ガバナンス」の3つの大項目(Pillar)、10のテーマ、37の詳細な項目(Key Issue)から構成されている。環境、社会では4テーマ、ガバナンスでは2テーマを選定している。

大項目テーマ詳細項目
環境気候変動炭素排出エネルギー
効率製品のカーボンフットプリント
環境インパクトのファイナンス
気候変動に対する脆弱性
自然資源水ストレス
生物多様性と土地利用
原材料の調達
汚染及び廃棄・有害物の排出と廃棄
包装材廃棄物
電子部品の廃棄
環境の機会クリーン技術の機会
グリーン・ビルディングの機会
再生エネルギーの機会
社会人的資本労働マネジメント
健康と安全
人材開発
サプライチェーン先の労働基準
製造責任製品の安全性と品質
化学的安全性
財務的な製品の安全性
プライバシーとデータ・セキュリティ
責任投資
健康と人口統計的リスク
ステークホルダーへの対応紛争メタルへの関与
社会の機会コミュニケーションへのアクセス
ファイナンスへのアクセス
ヘルスケアへのアクセス
栄養・健康へのアクセス
ガバナンスコーポレート・ガバナンス・取締役会
・報酬
所有権
会計
企業の行動・ビジネス倫理反
競争的行為
汚職と安定性
金融システムの安定性

評価は、「①Key Issueの選定とウェイトの評価」「②企業の評価」「③スコアの算出」の3つのプロセスに沿って行われる。

①Key Issueの選定とウェイトの評価

上記37のKey Issueから業種別に3〜7項目を選定する。選定された項目は必ずしも全業種に同じ影響を与えるとは限らないため、項目ごとにウェイトを付与する。短期的に重要かつインパクトの大きいKey Issueである場合、付与されるウェイトは大きい。

②企業の評価

①で選定されたKey Issueについて、「リスクエクスポージャー」と「リスクマネジメント」の2つについて企業ごとに評価し、スコアを付与する。リスクエクスポージャー評価は、Key Issueのリスクの程度を「事業セグメント」「創業する地域」「その他の要因」の3つの視点、リスクマネジメント評価は「組織の能力や経営陣のコミットメント」「問題に対する具体的な取り組みやパフォーマンスの改善目標」「Key Issueについて取り組んだ際の結果」の3つの視点と「企業不祥事」の状況を勘案した上で実施する。

③スコアの算出

②で付与される2つのスコアと①のウェイトからESGスコアが算出される。

ESGスコアの課題と開示対応の判断

ESGスコアの課題

ESGスコアの課題として、企業の情報開示基準と投資家向けの評価基準の双方で統一化が図られていないことが挙げられる。実際に、ESG情報の収集項目や重視項目はESG評価機関により異なっている上、同じ企業であってもESG評価機関ごとに評価が大きく分かれるケースも散見される。

複数の機関が様々な情報開示基準を設定・公表しているために、かえってそれらの乱立を招き、企業は混乱に陥っているのが現状である。投資家にとっても、異なる基準を跨いだ企業比較は困難となる。

スコアが大きく異なる場合には、業種や業態が正確に理解されておらずポイントを損失している場合もある。評価機関へは申し立てができるので、一度確認してみるとよいだろう。

一方で、評価機関が企業に何を求めているのかしっかりと理解して、開示やデータ提供を見直すことも重要だ。

情報開示のプロセス

ESG情報開示にあたっては、以下のプロセスに沿って行うことが望ましい。

  1. 改善を目指すESG評価機関の特定
  2. 当該レポートの分析(指摘事項の整理)
  3. 社内対応体制の整備
  4. 開示対応

2. と3. の間においては、評価機関との対話が必要とされる場合もある。ESG情報開示に対する事実誤認の是正や、ESGデータ更新時期の確認などがそれに該当する。

3. では、マテリアリティの特定や非財務KPIの策定、部門別アクションプラン、資金計画等を含めた長期ビジョン・中期経営計画等との連動も推奨される。

評価機関の特定

上記4つのステップの中でも特に重要なのが「ESG評価機関の特定」である。

多くのESG評価機関が存在することは先述した通りであるが、その全てに対応するのは実務的に難しい。そのため、改善に向けた対応を優先すべきESG評価機関を絞る必要が生じる。

その際、評価を受ける目的を明確にした上で評価機関を特定することが望ましい。ESGスコアの改善を目指す理由や投資家の評価、自社のスコア状況を踏まえ、重視する評価機関を特定する。一例として、GPIFのESG指数採用を目的とする場合、FTSEやMSCI、さらにはグローバルな大手機関投資家等から定評のあるSustainalyticsの選択が考えられる。

全体的な傾向として、ESGスコアに初期的に対応する多くの上場企業においては、まずFTSEを1つの目安としている。FTSEのESGスコアリング手法はシンプルである上、参照した開示資料の説明もなされるため、自社のESG対応の課題点を整理しやすいことが理由として挙げられる。また、一定のスコアを獲得した場合、ESGインデックスであるFTSE Blossom Japan等の構成銘柄に選ばれるため、ESGスコアを改善した成果が分かりやすいという特徴もある。

まとめ

ESG投資の普及に伴い、あらゆるステークホルダーからESGへの取り組みを含めた非財務情報の開示に対する要求は高まる一方である。そのような状況に付随し、企業のESGへの取り組み度を客観的・定量的に測る手段として、ESGスコアは有効である。現在、ESG評価機関は乱立しているものの、自社内でスコアリングの目的を明確化した上で評価機関を特定することで、ESGへの取り組み開示における混乱を回避することが可能だ。企業のサステナビリティ推進に向け、ESGスコアのさらなる導入及び適切な活用に期待したい。

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