欧州環境庁、気候変動と自然破壊が最も深刻な課題に

9月29日、欧州環境庁(EEA)は欧州の環境の現状を分析した包括的報告書「Europe’s Environment 2025」を発表し、大気汚染や温室効果ガス削減では進展が見られる一方で、自然破壊の進行や気候変動の加速により、欧州の環境全体の状態は「決して良好とは言えない」と警告した。報告書は、こうした環境負荷が欧州の経済競争力や生活の質に直接的なリスクをもたらすと指摘している。

EEAは報告書の中で、欧州は2005年以降、化石燃料依存を減らしつつ再生可能エネルギーの割合を倍増させ、廃棄物リサイクルや大気の質改善でも成果を上げたと評価した。一方で、生態系は依然として過剰な利用や汚染にさらされ、生物多様性の喪失が顕著だと警鐘を鳴らした。さらに、「欧州は世界で最も急速に温暖化が進んでいる大陸」と強調し、山火事や洪水などの異常気象が頻発する中、社会全体の適応力強化が急務だと訴えた。

気候・エネルギー政策を担当するリベラ欧州委員会副委員長は「自然が損なわれ気候影響が激化すると繁栄や安全保障が脆弱になる。自然保護はコストではなく競争力と市民の幸福への投資だ」と強調。ロスウォール環境担当委員も「健全な自然は健全な経済の基盤であり、環境保護と経済成長を対立軸ではなく相互補完関係として捉えるべきだ」と述べた。

報告書はまた、食料システムに象徴される持続不可能な生産と消費が自然環境への最大の圧力源であると分析。水資源も厳しい状況にあり、欧州人口の3分の1が水ストレスに直面していると指摘した。

EEAのレーナ・ユラ=モネン事務局長は「環境報告は過去30年にわたり科学的知見を積み重ねてきた。いま必要なのは行動だ」と訴え、欧州グリーンディールで合意済みの政策を迅速に実施するよう各国に呼びかけた。

報告書は、温室効果ガスの削減や循環経済の推進、自然ベースの解決策による生態系回復などを通じて「環境の回復なくして競争力も生活の質も維持できない」と結論づけている。

(原文)State of Europe’s environment not good: threats to nature and impacts of climate change top challenges

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