
※本記事は、ESG Journal編集部が注目のニュースを取り上げ、独自の視点で考察しています。
2025年2月26日にオムニバス草案が公表されてから約1か月以上が経過し、ESRS(欧州サステナビリティ報告基準:European Sustainability Reporting Standards)の改訂に向けた動きが本格化しつつある。4月8日、EFRAG(欧州財務報告諮問グループ)は、ESRSの簡素化と見直しに向け、関係者からのフィードバックの募集を開始した。なお、今回のフィードバックでは、一般募集はするものの、主に2024年の報告でESRSを初めて適用した企業(初期導入企業)からの実務的な意見を重視するとしている。
本稿では、公開された質問一覧から質問の意図や目的を考察し簡素化の方向性を読み解く。
Q1 一般目的の報告において重要性が低い、または問題のあるデータポイントの特定
→ 目的:過剰な情報開示を抑え、実務的な報告に焦点を当てること。報告対象が過剰であったり、実務上意味の薄い情報の開示を求めていないかを検証。開示項目数が減ることが推測される。
Q2 規定の不明瞭さに関する修正提案
→ 目的:解釈のばらつきを減らし、ガイドラインとしての明確性を高めること。「表現が曖昧」「どう解釈すればよいか分からない」といった指摘に応じ、文言や構造の明確化を目指す。あいまいな開示項目が減少する可能性がある。
Q3 他のEU法との整合性向上の提案
→ 目的:EU法内での一貫性を保ち、重複報告の回避を促進すること。SFDRやEUタクソノミーなどとの重複や矛盾を回避したものになる。
Q4 マテリアリティ評価プロセスの改善案
→ 目的:重要な情報に絞った合理的な評価基準を整備すること。ダブル・マテリアリティの枠組みをより明快で実務的なものとし、企業が確信をもって判断できるようになる。
Q5 国際基準(ISSB、GRI等)との整合性強化
→ 目的:国際報告基準との整合性を高め、企業の負担軽減と制度の国際競争力向上を図ること。複数基準を並行適用する企業にとっての実務的な負担を低減させるためにISSB基準との整合性が高まる。
Q6 基準の構成や表現方法の簡素化に関する提案
→ 目的:企業がESRSをより使いやすいと感じるようにすること。構造や文体を見直し、可読性やナビゲーションの向上が進む。
Q7 その他、グリーンディール目標を損なわない範囲での簡素化案
→ 目的:制度の柔軟性と実効性を両立させ、より多くの企業が実践可能な仕組みとすること。過度な細則や冗長な要件を見直し、グリーンディールの理念を保ちながら制度の最適化を図る。
ISSB基準との整合性強化
欧州委員会はEFRAGに対し、ISSB基準との戦略的整合性を検討するよう助言している。グローバルに事業を行う企業は、地域ごとに異なる報告義務に対応する必要があるなど、「重複」は大きな負担となっている。今回の見直しでは、基準間の互換性(interoperability)を高め、一つの報告で複数の基準に対応できるよう考慮されるだろう。
>>>開示基準(ESRS/IFRS/GRI)の対応関係を説明>>>開示基準の早見表
次のステップ
EFRAGはESRS簡素化に向けた技術助言を2025年10月に欧州委員会へ提出予定であり、意見募集の締切は5月6日である。
文:竹内愛子(ESG専属ライター)
【参考ページ】