今後はトランジション・ファイナンスが主流に!EUタクソノミーと日本の脱炭素化に向けた取り組み

こんにちは!ESG Journal Japan編集部です!

これまでESG投資や企業の事例について、様々な角度からコラムにまとめてきましたが、本コラムではトランジション・ファイナンスについて解説します。トランジション・ファイナンスはサステナブル・ファイナンスの一ファイナンス手法ですので、まずサステナブル・ファイナンスの全体感を知りたいという方はこちらの記事も是非ご覧ください。

サステナブル(ESG)投資とインパクト投資の違いとは?サステナブルファイナンスの全体像を把握しよう!


トランジション・ファイナンスとは

トランジション・ファイナンスの定義

金融庁・経済産業省・環境省が2021年5月に公表した「クライメート・トランジション・ファイナンスに関する基本方針」によると以下のように定義されています。

「トランジション・ファイナンスとは、気候変動への対策を検討している企業が、脱炭素社会の実現に向けて、長期的な戦略に則った温室効果ガス削減の取組を行っている場合にその取組を支援することを目的とした金融手法をいう。特に日本においては、2050年カーボンニュートラルの実現を目指すため、パリ協定に整合的な目標設定を行い、本基本指針に定める要素を満たした上で、資金調達を行う動きを支援するためのファイナンス(資金供給)として位置付けられる。なお、今後我が国では脱炭素に向けた移行の取組について、業種別のロードマップを策定予定であるが、企業自身の戦略構築や気候変動対策の検討に当たり、当該ロードマップ制定後はこれを参照することができる。」

出所:「クライメート・トランジション・ファイナンスに関する基本方針」(2021年5月 金融庁・経済産業省・環境省)

グリーン・ボンド等のその他のサステナブル・ファイナンス手法とは何が違うのでしょうか。より簡単にまとめるとトランジション・ファイナンスは一般的に、二酸化炭素排出量等の観点からグリーン・ボンドの発行基準を満たさないものの、低炭素経済社会に以降(トランジション)するためのプロジェクトを資金使途とするファイナンスです。

サステナブル・ファイナンスのコラムでも掲載した図を再掲しますが、グリーン適格・ソーシャル適格にならずとも、脱炭素化に必要な投資・支出であれば資金調達ができる、ということですね。

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出所:ニッセイアセットマネジメント資料を基にESG Jornal作成

トランジション・ファイナンスの誕生背景

2016年11月に発行したパリ協定では「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする」という「2℃目標」が打ち出されました。二酸化炭素等のGHG排出量を可能な限り減らす低炭素化に向けた取り組みを政府や企業、金融機関は現在求められています。

この低炭素経済社会への「移行」は、企業や金融機関にとってはリスクであると同時に事業機会にもなると考えられています。そして低炭素経済社会への「移行」に関するリスクや機会の把握等を含めて、EUを中心に様々な検討が進められてきました。

EUタクソノミーと日本版トランジション・ファイナンス

EUではサステナブルファイナンスのアクションプランに基づき、環境上サステナブルな経済活動を分類・定義した経済活動のリストである「タクソノミー」を策定、2022年より規則の適用が開始されました。

EUタクソノミーは環境目的に資する経済活動を示した分類的枠組みであり、投資家や企業が環境に優しい経済活動への投資を決定する際の一助となる指標として位置づけられています。EUタクソノミーでは、環境面でサステナブルな経済活動の種類として、6つの環境目的に実質的に貢献する活動(気候変動緩和、気候変動適応、水・海洋資源の持続可能な利用と保護、循環経済への移行、汚染の予防と管理、生物多様性及び生態系の保全と回復)に加えて、低炭素経済社会への移行を目的とした活動も含まれました

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出所:経済産業省 2021年4月「気候変動政策を巡る動向について」P.8

本EUタクソノミーへ対応すべく、日本でも金融庁・経産省・環境省において議論が重ねられましたが、グリーンか否かの二元論で整理するタクソノミーを完全に受け入れるのではなく、パリ協定に向けては脱炭素に向けた省エネやエネルギー転換などの「移行」に焦点を当て、そこに資金供給を促す「トランジション・ファイナンス」を推進する、という方針になりました。

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出所:経済産業省 2021年4月「気候変動政策を巡る動向について」P.9

脱炭素化の実現に向けたトランジション・ファイナンス

今後、日本のトランジション・ファイナンスにおいては、各分野(産業)別にロードマップを作成して移行を支援するやり方になるとみられています。

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出所:環境経済室 2021年6月「トランジション・ファイナンスについて」P.3

また本ロードマップは、①CO2多排出産業であること、②CO2排出ゼロのための代替手段が技術的・経済的に現状利用可能ではなく、トランジションの重要性が高いこと などを理由に、今年度は鉄鋼、化学、セメント、電力、ガス、石油の以下7分野が選定されました。

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出所:環境経済室 2021年6月「トランジション・ファイナンスについて」P.5

日本企業とトランジション・ファイナンス

三井住友FG

2021年9月、三井住友フィナンシャル・グループは2050年までのカーボンニュートラル実現に向け、グループのシンクタンク機能も活用して企業の事業構造転換を支援し、トランジション・ファイナンスへの取り組みの重要性の発信も積極的に行うと発表しました。

三井住友FG、ネット・ゼロの実現に向けて中堅・中小企業を支援。トランジション・ファイナンス重視の姿勢

日本郵船

今年7月、日本郵船は200億円のトランジションボンドを国内で初めて公募形式で発行すると発表しました。

日本郵船は本社債の発行により、資金調達リソースの拡大を図るとともに、資金使途を通じた低炭素ソリューションの拡充、並びに脱炭素ソリューションの開発と導入による温室効果ガス排出削減の取り組みを加速させるとしています。

日本郵船、トランジションボンド200億円発行を発表

川崎汽船

また川崎汽船も今年9月、脱炭素への推進に向け、トランジション・リンク・ファイナンス・フレームワークを策定し、トランジション・リンク・ローン(TLL)による調達を行うと発表ました。資金使途としてはLNG船の購入が主となります。

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出所:環境経済室 2021年6月「トランジション・ファイナンスについて」P.13

本TLLは経済産業省の「令和3年度クライメート・トランジション・ファイナンスモデル事業」への申請が行われ、モデル事例として選定されています。

川崎汽船、トランジション・リンク・ローン(TLL)の組成を決定

最後に

トランジション・ファイナンスに関する日本の現状や、各企業の取り組みについてまとめましたがいかがでしたでしょうか。現在は日本郵船や川崎汽船など船舶業界でのファイナンス事例が多いですが、2050年のカーボン・ニュートラル達成に向け、製油所や発電所などCO2多排出産業においても、トランジション・ファイナンスが主流になると予想されます。

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次回も上場企業のESG開示やESGの最新トレンドについて、詳しく紹介していきたいと思います。

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