3月6日、米国証券取引委員会(SEC)は、待望の米国上場企業向け気候関連開示規則を承認したことを発表した。本規則は、企業が年次報告書や登録届出書において、事業が直面する気候変動リスクやそのリスクへの対応計画、悪天候による財務的影響、場合によっては事業活動から排出される温室効果ガスに関する情報を提供することを初めて義務付けるものである。
企業がサステナビリティに関連する報告を行う動きが高まる中、最終化されたSEC規則は、SECの当初提案の要件を大幅に縮小している。特に、企業が直接事業以外のバリューチェーンで発生するスコープ3排出量について報告する要件を削除している。
新規則の報告要件には、事業戦略、業務、財務に重大な影響を与える気候変動リスクの開示、気候変動リスクを軽減または適応させるための計画の重要な支出または財務への影響に関する定量的・定性的な説明、取締役会による気候変動リスクの監督、リスクの評価・管理における経営者の役割、重要な気候変動リスクを特定、評価、管理するための会社のプロセスが含まれる。また、ハリケーン、山火事、洪水、干ばつなどの悪天候やその他の自然現象に起因する費用や損失、カーボンオフセットや再生可能エネルギークレジットが、気候変動に関連する目標を達成するための企業計画の重要な要素として使用されている場合、それらに関連する費用についても報告することが求められる。
SECは、2022年3月に気候変動開示規則の草案を公表しており、草案の開示要件には、企業の取締役会や経営陣による、気候変動関連リスクに対する監督とガバナンス、特定された気候変動関連リスクが、戦略、ビジネスモデル、見通しにどのような影響を与えるか、企業がこれらのリスクを特定、評価、管理するために使用しているプロセスに関する情報が含まれる。
当初の提案では、企業に対し、スコープ1とスコープ2(直接事業からの排出量とエネルギー購入を通じて間接的に創出された排出量)の排出量と、大企業で重要な場合、またはスコープ3を含む排出量削減目標を掲げている場合には、スコープ3の排出量を報告するよう求めていた。
ゲーリー・ゲンスラーSEC委員長は、最終規則の公表を発表する発言の中で、企業、投資家、その他の利害関係者から寄せられた24,000件のコメントを含む、提案に寄せられた重要なフィードバックについて言及し、新しい報告規則を遵守するためのコストに関する多くのコメントの懸念に対処することを目的とした、最終要求事項の変更につながったと述べた。
最も重要な変更点のひとつは、スコープ3排出量の報告義務がすべての報告者から削除されたことである。また、SEC規則は、スコープ1と2の排出量に関する要求事項を縮小し、大規模な提出企業にのみ適用され、それらが重要であると判断された場合にのみ適用される。さらに、排出量の報告が義務付けられている企業については、年次報告書ではなく、第2四半期の財務報告書で報告することを認めるなど、時間的余裕を持たせている。10月に発表されたゲンスラーのコメントでは、投資家のコメントはスコープ1と2の排出量報告を広く支持しており、多くの企業はスコープ3の報告も支持していたが、多くの企業はスコープ3の要件を警戒していた。
最終規則では、スコープ1と2の報告が義務付けられる時期を2026年まで延期し、保証要件を緩和し段階的に導入する。
追加的な変更点としては、悪天候の項目レベルの財務影響報告の要件を、より負担の少ない細分化されたコスト報告に置き換えることなどがある。
SECの新ルールでは、一部の企業にはスコープ1や2の排出量の報告、どの企業にもスコープ3の報告が義務付けられることはないが、ゲンスラー氏は、他の管轄区域で導入される報告要件に準拠するため、多くの企業がこれらの分野の開示を求められることになると指摘した。例えば、EUのCSRD(Corporate Sustainability Reporting Directive)では、EU域内で1億5,000万ユーロ(約242億円)以上の売上を計上する非欧州企業にも報告義務が拡大され、スコープ3の報告も含まれている。同様に、カリフォルニア州知事のギャビン・ニューソムは、州内で事業を行う米国の大企業に、バリューチェーン全体の排出量を開示することを事実上義務付ける法案に最近署名した。
【参照ページ】
(原文)The Enhancement and Standardization of Climate-Related Disclosures: Final Rules