6月16日、スイスの有権者は、2050年までに温室効果ガス(GHG)排出量をネット・ゼロにするという同国の約束を承認し、国民投票で59%が気候・革新法を支持した。
気候法には、国やセクターごとの中間的な排出削減目標、エネルギー消費削減のための取り組み、産業、建物、家庭を化石燃料を使用した電力から移行させるためのインセンティブなど、ネット・ゼロ目標の達成を目的とした幅広い施策が盛り込まれている。
また、2050年までにすべての企業がネット・ゼロ・エミッションを達成することを義務付けることも盛り込まれている。
新法は、温室効果ガスの排出削減やCO2を回収・貯蔵する技術の導入、気候変動の影響に適応するための対策、低炭素で気候変動に強い開発への資金フローの調整など、一連の目標を掲げている。
2050年までに、スイスの気候法に基づき、連邦政府は、温室効果ガスの排出を可能な限り削減し、残りの排出を炭素回収・貯留(CCS)や直接空気回収・貯留(DACCS)などの「負の排出技術」によって相殺した上で、スイスがネット・ゼロ排出を達成するよう義務づけられる予定である。スイスの気候戦略では、2050年に約700万トンのCO2回収・貯留の必要性を想定している。
新法が設定した暫定目標には、2019年基準で、2031年から2040年の間に平均64%のGHG削減、2040年には少なくとも75%削減、2041年から2050年の間に平均89%以上の削減が含まれている。2050年以降は、除去・貯蔵されたCO2が残りのGHG排出量を上回ることが法律で定められている。
また、炭素集約型セクターの目標も設定されており、建築セクターでは2040年までに82%、2050年までに100%、運輸セクターでは2040年までに57%、2050年までに100%、工業セクターでは2040年までに50%、2050年までに90%の排出削減を義務付けている。
本法律の承認は、2030年までに排出量を削減するために、気候変動に配慮した活動には報酬を、飛行機を頻繁に利用するなどの炭素集約的な活動にはコストを課すなどの措置を盛り込んだ「スイスCO2法」が2021年に僅差(51.6%対48.4%)で敗北したことを受けたものである。新法は主に炭素削減のインセンティブに焦点を当て、産業の脱炭素化を加速するための新技術・新プロセスに6年間で12億スイスフラン(約1,900億円)、建物内の化石燃料を使用した暖房の代替を支援するために10年間で20億スイスフラン(約3167億円)など32億スイスフラン(約5,067億円)の資金を盛り込んだ。
また、ネット・ゼロ気候法は、スイス気候保護協会が2019年に提案した、2050年までにスイスで化石燃料を使用しないことを提唱する一連の施策「氷河イニシアティブ」の代替案として提案された。新法は化石燃料の使用を減らすことを目的としているが、2050年の全面的な禁止は定めていない。
同法の成立を受け、反対運動を主導していたスイスの最大政党SVPは、求められる化石燃料の削減量に代わる再生可能エネルギーの規模を拡大する確固たる計画がないまま、この結果は国を「エネルギー危機」に陥れると警告し、補うために原子力の利用を直ちに増やすよう呼びかけた。
【参考ページ】
(原文)Switzerland backs net-zero climate law in referendum
(日本語訳)スイス、国民投票でネット・ゼロの気候変動法を支持