EU、排出権取引収益48億ユーロを活用しネットゼロ実現へ

10月23日、欧州委員会は、EUの気候目標達成を推進するため、48億ユーロを85のネット・ゼロプロジェクトに助成することを発表した。今回の助成は欧州域内排出量取引制度(EU ETS)からの収益を基にしたイノベーションファンドを通じて実施され、クリーンテック製造や産業炭素管理、再生可能エネルギー分野での革新を加速させる。今回の助成は、2020年に始まったイノベーションファンド史上最大規模で、助成総額が120億ユーロに増加した。

選ばれたプロジェクトは、ベルギー、ドイツ、スペイン、フランス、イタリア、スウェーデンなど18カ国にまたがり、エネルギー集約産業、再生可能エネルギー、エネルギー貯蔵、産業炭素管理、再生可能水素、そして海上・航空モビリティの分野を含む多様な領域にわたっている。これらのプロジェクトは2030年までに操業を開始し、最初の10年間でCO2換算で約4億7,600万トンの削減が見込まれ、特に脱炭素が難しいセクターでの排出削減に貢献する。具体的には、電解槽やヒートポンプの主要部品の製造能力増強により、EUにおける太陽光発電の製造能力を300万kW、電解槽の製造能力を930万kW向上させることが期待されている。

各分野の主要施策

  1. クリーンテック製造の推進: 風力・太陽エネルギーやヒートポンプの主要部品、電解槽、燃料電池、バッテリーの部品の製造に助成が配分され、EUのクリーンエネルギーインフラの強化を図る。
  2. エネルギー集約型産業: リサイクルや再利用、熱エネルギーの貯蔵、再生可能エネルギーの統合を含むさまざまな技術に助成し、エネルギー集約産業での排出削減を目指す。
  3. 産業炭素管理: CO2を回収し、年間少なくとも5000万トンを貯蔵することで、セメントや精製、化学産業などからの排出削減を促進し、EUのネット・ゼロ目標達成に寄与する。
  4. 再生可能水素: 年間61キロトンの再生可能燃料(RFNBO)供給を目標とし、産業や輸送における水素の利用を推進する。
  5. ネット・ゼロ・モビリティ: 海運業や道路輸送向けのRFNBO燃料・電力を活用する船舶建造や持続可能な輸送燃料の生産を支援し、年間525キロトンの再生可能燃料の供給に寄与する。

STEPシールと今後の展望

今回、助成を受けられなかったものの品質基準を満たした64件のプロジェクトには「STEPシール」が授与され、これにより追加の資金調達の機会が広がる。これらのプロジェクト情報は2024年11月末にSTEPポータルで公開され、イノベーションファンドの次回提案募集は2024年12月初旬に開始される予定である。

EU ETSによる収益を活用したイノベーションファンドは、世界最大規模のネット・ゼロ技術支援プログラムであり、これまでに72億ユーロを120を超える革新プロジェクトに供与してきた。欧州グリーンディール産業計画の一環として、クリーンテック分野での技術的リーダーシップの確立と、持続可能な産業基盤の強化を目的としている。

【参照ページ】
(原文)EU invests €4.8 billion of emissions trading revenues in innovative net
zero projects

関連記事

おすすめ記事

  1. 【最新】TISFDとは?概要・指標から国内外基準との関連まで徹底解説

    2025-9-11

    【最新】TISFDとは?概要・指標から国内外基準との関連まで徹底解説

    気候変動や自然資本など、環境領域に関する開示が進みつつある中、次なるテーマは「社会」の領域。TIS…
  2. 2025-8-14

    特別対談:TISFD運営委員・木村武氏 × シェルパCSuO中久保菜穂 「サステナビリティ情報開示の新潮流:TISFDが示す設計思想と、日本企業の対応意義を問う」(前編)

    本記事は、ESG Journal を運営するシェルパ・アンド・カンパニー株式会社のCSuOが、サス…
  3. 2025-8-14

    特別対談:TISFD運営委員・木村武氏 × シェルパCSuO中久保菜穂 「サステナビリティ情報開示の新潮流:TISFDが示す設計思想と、日本企業の対応意義を問う」(後編)

    本記事は、ESG Journal を運営するシェルパ・アンド・カンパニー株式会社のCSuOが、サス…

ピックアップ記事

  1. 2025-10-29

    イベントレポート サステナビリティ経営フォーラム2025

    『本質に迫る対話とデータ活用 ~信頼を築く情報開示と戦略の再構築~』 ESG Journal…
  2. 【2026年本格適用】CBAM(炭素国境調整メカニズム)への実務対応ガイド

    2025-10-27

    【2026年本格適用】CBAM(炭素国境調整メカニズム)への実務対応ガイド

    2026年1月からEUでは炭素国境調整メカニズム(Carbon Border Adjustment…
  3. 2025-10-27

    GRIとCDP、環境報告の共通化へ―新マッピングでデータ活用を促進

    10月21日、国際的なサステナビリティ報告基準を策定するGlobal Reporting Init…

““登録01へのリンク"

ページ上部へ戻る