10月、グローバル・プロフェッショナル・サービス・ファームであるPwCが、米国を対象とした新しい年次企業取締役調査の結果を公表した。本調査によると、企業の3分の2以上の取締役会が、自社に影響を与えるESGリスクを十分に理解していないことがわかった。
PwCは本調査のために、12以上の業種にまたがる米国の上場企業の取締役600人以上を対象に調査を行った。調査対象者の73%が売上高10億ドル(約1,498億円)以上の企業を代表し、64%が5年以上取締役を務めている。
調査によると、地政学的な混乱が続き、「ESGアジェンダ」を投資家に押し付ける政治的圧力が高まる中、米国の取締役会は、ESG課題への注力を小幅に減らしている。しかし、こうした圧力があっても、調査対象となった取締役の半数以上(52%)は、ESG課題が定期的に取締役会の議題の一部になっていると回答しており、昨年の55%から若干減少したものの、2019年の取締役の報告34%を大きく上回っている。
女性取締役は、ESG課題を企業戦略と結びつけて考える傾向が高く、男性取締役の51%に対し67%がこの結びつきを報告している。同様に、調査対象となった女性取締役の61%が、ESG課題は会社の業績に財務的な影響を与えると思うと回答したのに対し、このスタートに同意した男性取締役は35%にとどまった。
しかし、ほとんどの取締役会がESG課題について議論し、企業戦略に結びつけている一方で、大多数が持続可能性に関連する重要事項についての理解が不十分であることを認めている。調査回答者のうち、自社に関連するESGリスクを「非常によく理解している」と回答した取締役会はわずか31%で、自社の全体的なESG戦略については42%、ESGの機会については27%にとどまっている。
取締役は、「人材と企業文化」や「データプライバシー/サイバーセキュリティ」といったESG関連課題をより強く把握しているようで、それぞれ52%と45%が「非常によく理解している」と回答している一方、炭素排出については26%、気候変動リスクと戦略については20%しか、このレベルの理解を示していない。
報告書では、現在取締役会で最も注目されているESG関連課題を調査しており、タレントマネジメントとデータセキュリティがトップで、90%以上が、これらのトピックそれぞれについて、過去1年間に自社の取締役会で「ある程度」または「かなり」議論されたと回答している。しかし、持続可能性に関連する主要なトピックは議題として取り上げられる頻度が低く、気候変動については約半数(49%)、環境修復については43%、人権については3分の1の取締役会しか議論していないと回答している。
取締役会が大幅な改善を示した分野のひとつは、ESG関連報告への準備態勢で、回答者の51%が、自社の取締役会は義務的なESG開示を監督する十分な準備が整っていると報告している(昨年の調査ではわずか25%)。
また、役員報酬を非財務指標に連動させることについても、取締役会メンバーの間で強い支持を得ており、報酬を財務業績のみに連動させるべきと回答したのはわずか7%であった。回答者の44%が役員報酬を多様性、公平性、インクルージョンの指標に、31%が環境目標に連動させるべきと答えている。
【参照ページ】
(原文)PwC’s 2023 Annual Corporate Directors Survey
(日本語参考訳)PwCの2023年年次会社役員調査