9月1日、気候変動に関する金融リスクを検討するための中央銀行・金融当局ネットワーク「気候変動リスク等に係る金融当局ネットワーク(Network for Greening the Financial System:NGFS)」は、気候変動関連訴訟に関する2つの報告書を発表した。
最初の報告書「Climate-related litigation: recent trends and developments」は、気候変動関連訴訟の増加に焦点を当て、最近の傾向を概説したものである。本報告書は、2021年にNGFSが発表した報告書「気候関連訴訟:増大するリスク要因についての認識向上」以降の最新の動向と傾向をまとめている。
気候関連訴訟は急速に拡大しており、訴訟提起の件数だけでなく、使用される法的論拠や、そのような請求の相手の多様性という点においても、極めて重要である。国家、公共団体、企業に対するこのような訴訟は、金融セクターに重大な影響を与える可能性があり、その関連性の高まりは、中央銀行と監督当局が監視と監督上の期待を強化することを求めている。
さらに、2023年の信用機関に対する初の訴訟を含め、すでに金融セクターの被告に対していくつかの訴訟が直接提起されている。政府や市民社会が、温室効果ガス(GHG)の排出だけでなく、より広く自然や環境の重要性に関心を向けていることがすでに見て取れるため、今後、環境関連の訴訟は増加する可能性が高いとした。
第二の報告書「Micro-prudential supervision of climate-related litigation risks」では、気候変動関連訴訟の増加に伴う金融機関のリスクについて、ミクロ・プルーデンスによる監督に焦点を当てている。
監督当局は、金融機関にとって直接的なコスト(損害賠償、罰金、弁護士費用、管理費など)及び間接的なコスト(保険金支払い、信用損失、事業への悪影響など)につながる金融機関の財務リスクを適切に評価するために、リスク要因、伝達経路、エクスポージャーを特定する必要があると言及。NGFSは、2022年にNGFS会員を対象に実施した、現在の実務と監督上のギャップに関する調査から、気候変動関連訴訟に関連するリスクの監督はまだ初期段階にあり、正式な監督手法はまだ十分に開発されていないことを指摘している。
本報告書は、リスクに関するミクロ・プルーデンス監督のための潜在的なオプションを提示し、監督当局が、監督活動の優先順位をより明確にするために、リスクベースのアプローチを採用することも提案している。気候変動訴訟リスクは、管轄地域、政治環境、クレームの種類や規模によって多様性が高いため、監督当局にとって、将来の気候変動訴訟リスクの推移を信頼できる形で推定・予測することは困難である。監督当局は、そのようなリスクに関する手法や評価を引き続き模索し、強化すべきであるとした。
【参照ページ】
(原文)NGFS publishes two complementary reports on climate-related litigation risks
(日本語参考訳)NGFS、気候変動関連の訴訟リスクに関する2本の報告書を発行