9月6日、欧州中央銀行(ECB)が発表した新たな気候ストレステストの結果によると、排出量削減のための行動を大幅に加速させた場合、銀行、企業、家計は10年後までにコスト削減と金融リスク低減の恩恵を受ける。
ECBの調査結果は、ユーロ圏の企業、家計、金融機関に対する様々な気候変動移行経路の影響を評価することを目的とした、2021年の第1回ストレステストに続く、2回目の経済全体の気候ストレステストの結果とともに発表された。
新たなストレステストでは、ECBは3つの気候移行シナリオを検討した。1つ目は、気温上昇を+1.5℃に抑えるというパリ協定の目標実現に必要な2030年までの排出削減を達成するために、グリーン投資を直ちに前倒しする「加速的移行」。2つ目は、パリ協定の目標は達成するものの、2025年以降まで行動の拡大を遅らせる「後発的移行」。3つ目は、今世紀末までの気温上昇を+2.5℃程度に抑える「遅延的移行」。
「加速的移行」シナリオでは、当面のエネルギーコストが大幅に上昇し、他のシナリオでは0.5兆ユーロ(約78兆円)に過ぎない初期グリーン投資においては、2025年までに2兆ユーロ(約315兆円)と大幅に増加すると想定している。
しかし、初期コストが高くなるにもかかわらず、ストレステストでは、「加速的移行」シナリオが最も財務リスクが低く、長期的な物理的リスクも最も低いことがわかった。
家庭向けでは、「加速的移行」シナリオではエネルギー費用と投資額が急増し、他のシナリオでは伸びが鈍化する。これは、再生可能エネルギーとエネルギー効率化に対して短期的な投資が行われるためで、その結果、短期的な信用リスクが高まり、投資をカバーするために発生する債務水準が上昇する。しかし、他のシナリオのエネルギーコストは2025年に「加速的移行」シナリオを上回り、「後発的移行」シナリオでは2028年頃にピークに達し、「遅延的移行」シナリオでは2030年以降も上昇し続ける。2030年までに、「加速的移行」シナリオと「後発的移行」シナリオでは、家計の裁量所得が10%から12%上昇するのに対し、「遅延的移行」シナリオではその半分に過ぎない。
企業にとって、2030年の再生可能エネルギー容量は最初の2つのシナリオで同程度であるが、再生可能エネルギーや炭素削減などの分野への累積投資額は「後発的移行」シナリオの方が高く、2026年からグリーン投資のキャッチアップを迅速に行う必要があるため、このシナリオでも企業は高いリスクを負うことになる。こうしたリスクは、製造業、鉱業、電力などのエネルギー集約型セクターの企業にとって特に深刻である。「加速的移行」シナリオと「遅延的移行」シナリオでは、2030年の信用リスク水準は同程度であることが分かったが、「加速的移行」シナリオでは信用リスクは低下し、「遅延的移行」シナリオでは2030年以降に信用リスクは上昇する。
銀行の事業への影響は、主に融資先の企業や家計への移行効果の結果であると考えられる。ストレステストの結果では、銀行の信用リスクは、他のシナリオでは60%程度であったのに対し、「後発的移行」シナリオでは2030年までに100%以上上昇すると推定された。一方、信用リスクは「遅延的移行」シナリオでのみ2030年に上昇トレンドになると予想され、移行が遅延した場合の長期的なリスクへの影響は「大幅に異なる」とされた。
【参照ページ】
(原文)Faster green transition would benefit firms, households and banks, ECB economy-wide climate stress test finds
(日本語参考訳)ECBストレステスト:気候移行が遅れると銀行の信用リスクは2030年までに倍増