11月30日、オーストラリア健全性規制庁(APRA)が発表した新しい調査によると、オーストラリアの大手銀行は、気候関連損失の増加に対応してリスク許容度と融資慣行を調整すると予測している。また、評価額の高い住宅ローン融資の削減や、鉱業、製造、輸送などのセクターへのエクスポージャーを減らすなどの行動を取る可能性も指摘している。
ARPAは、オーストラリアの5大銀行(ANZ、Commonwealth Bank、Macquarie Bank、National Australia Bank、Westpac)を対象に、気候変動が将来的に各行のビジネスに与える財務的影響と、物理的・移行的気候リスクに対する各行の潜在的対応についてモデル化し、初の気候脆弱性評価(CVA)を実施した。
参加銀行は、金融システムグリーン化ネットワーク(NGFS)が開発した2つのシナリオに基づいて分析を行った。本シナリオは、将来起こりうるさまざまな気候政策、熱、干ばつ、洪水などの物理的リスク、炭素価格の上昇などグリーン経済への移行に起因する短期および長期のリスクを反映させたものである。シナリオには、気候変動に関する政策措置が遅れ2030年以降に世界の排出量が急速に減少する「移行遅延シナリオ」と、2050年以降も世界の排出量が増加し続ける「現行政策シナリオ」が含まれている。
本研究では、調査したシナリオの下での気候変動リスクが銀行システムに深刻な影響を及ぼす可能性は低いものの、銀行は中長期的に物理的リスクと移行リスクから貸出ポートフォリオからの損失が増加する可能性を明らかにした。
企業向け融資では、どちらのシナリオでも移行リスクに起因する損失が大幅に増加し、移行遅延シナリオの方がより大きな損失をもたらすことが明らかになった。住宅ローンの結果は銀行によって大きく異なり、気候関連損失がないところから、2050年までに貸出損失率が過去の平均の約3倍まで上昇するところまで、様々なパターンがあった。
気候関連リスクは、特定の地域や産業に集中していることがわかった。例えば、オーストラリア北部の一部など、深刻かつ長期的な物理的リスクにさらされる地域や、鉱業、製造、輸送など移行リスクにさらされる一部のセクターで住宅ローン損失が著しく高い。これを受けて、銀行はこれらの分野のリスクアペタイトを調整することを示唆した。
【参照ページ】
(原文)APRA releases results of inaugural Climate Vulnerability Assessment
(日本語訳)APRA が初の気候脆弱性評価の結果を発表