『統合思考経営』のWhy, What & How(第18回)「メガトレンド対応力が問われる統合思考経営(その2:人口・人口動態)」

『統合思考経営』のWhy, What & How(第18回)「メガトレンド対応力が問われる統合思考経営(その2:人口・人口動態)」

メガトレンド対応力が問われる統合思考経営(その2:人口・人口動態)
~人口が増える国、人口が減る国~

前回(17)では、統合思考経営の背景(前提)として、経営者が必ず把握しておかねばならない「メガトレンドの全体像」をお伝えしました。今回は、メガトレンド6領域の各論として、まず基本となる「人口・人口動態」について述べます。キーワードは、人口規模、人口ピラミッド、都市化の3点です。
(注)特に断らない場合は、将来人口は国連人口部「The 2019 Revision of World Population Prospects」(国連将来人口推計2019年版)の中位推計に基づく。なお、この国連推計は新型コロナの蔓延前のデータに基づくため、世界の人口減少は早まるとの見方もある。
https://population.un.org/wpp/(世界人口推計数表)
https://www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/social_development/population/(国連広報センター)


世界人口の2050年までのメガトレンド

世界人口は増加するも少子高齢化、「働き手」が増える国は限定的

世界各国の人口、その総和である世界人口の量と質の変化は、国家にとって経済・産業や財政・社会保障・年金の面で、企業にとっては人材確保や顧客動向の面で大きな影響を及ぼします。地球環境に対しては、エネルギー・資源消費とともに気候変動や生態系の面で影響します。

これらの影響はいずれも「持続可能な発展」を左右する要因であることから、世界人口の将来動向は最も基礎的なメガトレンドと言えます。決論を先に申し上げると、2050年までの人口推計に基づく、メガトレンドとしてみた「人口・人口動態」の要点は、以下のとおりです。

〔人口・人口動態のメガトレンド〕
1. 世界人口は増加が続くも、人口増加の国は限られ、人口減少に転ずる国は少なくない。

2. 出生率の低下と平均寿命の延びにより、世界人口は高齢化する。
3. 生産年齢人口(現役層)の増加する国は、限定的である。
4. 高齢層に対する現役層の割合(扶養指数)は低下する。
5. 都市部への人口集積(都市化)は拡大する。

このメガトレンドから直接導かれる経済や社会への影響は、次のようなことが考えられます。

  • 少なくなる「働き手」が、多くの高齢層を支える「人口オーナス」の国が増える。
  • 逆に、「働き手」の増加による「人口ボーナス」で、経済発展が期待される国もある。
  • 都市人口の急増で、持続可能な都市居住の課題が世界中で顕在化する。

人口が増える国、人口が減る国

世界人口は今後も増加し、2050年には100億人に

世界人口は、1950年の25億人から急増して2020年に78億人となり、今後は2030年に85億人、さらに2050年には97億人に達すると予測されています。つまり、20世紀半ばから100年で4倍近くに増えることになります(図表1)。図示してはいませんが、増加率は減るものの、2100年の推計人口は109億人です。(注)この世界人口の急増は、18世紀の産業革命を経て約200年間続く「人口爆発」の流れにあるとのこと。ただし米国ワシントン大学のように、21世紀中葉には人類史上初の「人口減少の時代」を迎えるとの予測もある。

図表1:世界の人口推移(1950年~2050年)

人口増加は9か国に集中

人口増加が続くのはアフリカが特に多く、次いでインド、そして東南アジア、中東、北米です。国別では人口増加の大半はインドを筆頭に、ナイジェリア、パキスタン、コンゴ民主共和国、エチオピア、タンザニア、インドネシア、エジプト、アメリカの9か国に集中すると予測されています。アメリカの人口は、移民受け入れが続くことを前提にわずかに増加します。

ビジネス面から「最後のフロンティア」と呼ばれるアフリカについては、人口増加が経済発展につながる期待がある反面、社会インフラ整備や産業育成が進まず失業の拡大も懸念されます。特にサブサハラ(サハラ砂漠以南の地域)では出生率が依然高く、リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(特に女性の出産への意思と健康および権利)の問題も指摘されています。

中国は人口減少に転じ、欧州も人口減少が続く

一方、2020年の国勢調査で14.1億人と公表した中国の人口は、国連推計では2026年に減少に転じると予測されています。その頃にはインドが中国を上回り、最多人口国になるようです。欧州でも人口が減少に転じる国は少なくありません。日本は先進国の中でも少子高齢社会の先頭に位置し、2008年に1.28億人でピークを迎え、現状のままでは人口減少が続きます。

「壺型」に向かう人口ピラミッド

変容する人口ピラミッド(富士山型⇨⇨釣鐘型⇨⇨壺型)

地域や国の人口の特徴を表すには、人口規模に加え人口ピラミッドが有用です。図表2は、人口ピラミッドの典型的な3パターンを示します。世界全体でみれば、人口ピラミッドは幼年層と若年層の多い「富士山型」から、現役層(働き手)が増える「釣鐘型」へと変容しており、今後は出生率の低下が続く中で平均寿命が延びる少子高齢の「壺型」へと次第に変わります。

図表2:人口ピラミッドの典型的パターン

人口総数にも影響する人口ピラミッド

地域や国ごとに将来の人口ピラミッド予測をみると、大きな違いがあります。そこで、人口ピラミッドのパターンと人口増減を組み合わせて、3つに類型化してみました(図表3)。なお、図中の「扶養指数」は、高齢者1人を何人の現役層が支えるかを意味します。

アフリカや中東に代表される「類型1」(富士山型✖人口増加)では、若年層が多く高齢層はあまり増えません。次にインド、東南アジア、アメリカなどの「類型2」(釣鐘型✖人口増加)では、釣鐘型に変容するものの「人口ボーナス」時代が続きます。「類型3」(壺型✖人口減少)では日本や中国が典型的で、欧州も人口が減少するなかで超少子高齢社会を迎えます。

図表3:人口ピラミッドと人口増減による類型化

「人口サイクル」には逆らえない?

人口ピラミッドの変容と関係する「多産多死⇨⇨多産少死⇨⇨少産少死⇨⇨少産多死」という人口サイクル理論があります。出生率と死亡率に着目し、マクロ視点でみれば、どの国もこのサイクルに従うというものです。国の産業や経済、食糧や医療、あるいは女性の社会進出などの水準を反映して、人口サイクルは先進国や高所得国から先に進みます。

日本でいえば、明治期から戦前までは「多産多死」時代、戦後は「多産少死」時代で若年層・現役層の増加、現在は「少産少死」時代で少子高齢社会となっています。今後は「少産多死」時代となり、人口減少が進むことが予想されます。つまり、日本は世界に先駆けて、人口サイクルの先頭を走っていることになります。

都市部に集積する人口(都市化)

“豊かさ”を求めて、都市部への人口流入は続く

現在、世界人口の55%(約42億人)が都市部に居住しています(1950年は30%)。「国連都市人口予測(2018年改訂版)」によると、2007年に初めて都市人口が農村人口を上回り、さらに2050年までに68%(約70億人)が都市部に住むようになります。都市部の自然増に加え、“豊かさ”を求めて農村部からの流入が増えることで、都市部への人口集積(都市化)が加速します。都市人口の増加の大半は、アフリカや中東、アジアが占めると予測されています(図表4)。

このような都市化を裏付けるように、国別の「一人当たりGDPと都市人口比率」には正の相関関係がみられます(図表5)。国が“豊か”になるにつれて、人口増加は鈍化するものの、人々の所得や生活の水準が上がり、その結果、エネルギーや資源の消費水準も高まります。

図表4:大都市における都市人口の増加率(2018年⇨⇨2030年)
図表5:都市人口比率と一人当たりGDPの相関関係

新たなメガシティが複数出現

世界的な都市化により、人口1000万人を超すメガシティが新たに出現するようです。「国連都市人口予測(2018年改訂版)」によれば、現在は33のメガシティに世界の都市人口の半数以上が居住しますが、2030年には43都市に増えると見込まれます(図表6)。ただ、新たなメガシティの殆どが新興国や途上国にあるため、都市居住のサステナビリティの観点からは、様々な課題が指摘されています。

図表6:世界の都市人口比率とメガシティ(2030年)

持続可能な都市化が要

今後ますます人口密度の高い都市居住となり、先進国では革新的技術の普及を背景に、生活、仕事、遊び、あるいはコミュニケーションの方法が変わることが想定されます。エネルギー・資源や食糧の消費パターンも変わることでしょう。さらに生産年齢人口(働き手)が次第に減る中で、AI/IoTやロボットが社会インフラ化して、新たな労働・雇用問題が出現する可能性もあります。

他方、世界の都市人口の2割以上がスラムに住んでいます(途上国に限りません)。「国連人間居住計画」の予測によれば、21世紀初頭の10億人から、2030年には倍増して20億人になるそうです。それゆえ世界の「持続可能な発展」は、一つには、急激な都市化が予想される低中所得国がいかに適切に対応できるかにかかっています。

このような都市の変貌により、業種によって様々ではありますが、企業の事業戦略やビジネスモデルも影響を受けることは間違いありません。都市部のみならず農村部も含めた生活改善(ウェル・ビーイング)に向けた、バランスの取れた国家政策が必要です。これはSDGsの考え方そのものであり、企業の取組も大いに期待されます。

次回は、メガトレンド各論の2回目として、「エネルギー・資源」について論じます。

(つづく)

【参照ページ】
川村雅彦のサステナビリティ・コラム 『統合思考経営』のWhy, What & How(第18回)

関連記事

⾮財務情報を企業価値として評価する取り組み事例集へのリンク

ピックアップ記事

  1. 2024-3-21

    EYとIBM、新しいサステナビリティ・データ&レポーティング・ソリューションを発表

    3月6日、グローバル・プロフェッショナル・サービス・ファームであるEYとハイテク大手のIBMは、新…
  2. 2024-3-21

    欧州議会、土壇場の反対押し切り自然再生法を採択

    2月27日、欧州議会は、自然の生息地と生態系の回復と保護を目的とした新法を採択したと発表した。新法…
  3. 2024-3-20

    Business for Nature、企業12セクター向け優先行動を発表

    2月22日、ネイチャーポジティブNGOの国際連合体Business for Natureは、世界の…

アーカイブ

ページ上部へ戻る