欧州企業、サステナビリティ規制の維持を支持 「簡素化」論に温度差~E3G調査

9月30日、欧州委員会が企業向けサステナビリティ関連法の簡素化をめぐり議論を重ねるなか、欧州の企業経営者の多くが強固な規制の維持を望んでいることが明らかになった。独立系気候シンクタンクE3Gが英調査会社ユーガブに委託して実施した調査によれば、過半数の経営者が気候目標やデューデリジェンス(企業の人権・環境への配慮に関する義務)の厳格な基準を擁護しており、現在進められている「簡素化」策と企業側の意識には大きな隔たりがある。

調査は2025年8月、ドイツ、フランス、イタリア、ポーランド、スペインの5カ国で2500人の経営者を対象に実施された。その結果、63%が「大企業にはグリーン経済への移行計画を策定する義務があるのが当然」と回答した一方、反対の意見はわずか11%にとどまった。また、55%が「環境的に持続可能であることは自社の競争力にとって重要」とし、半数が「サステナビリティデータを定期的に収集し報告することが投資を呼び込む」と答えた。

さらに、7割近い68%の経営者が「欧州と欧州企業は世界における持続可能なビジネス慣行の模範となるべきだ」と答え、EUの国際的リーダーシップに期待を寄せた。E3Gのユーレイ・ヤダ欧州サステナブルファイナンス部門長は「政治家の多くは、企業がサステナビリティ義務を嫌っていると誤解している。しかし調査結果はその逆を示している。企業はそれを負担ではなく、競争力の源泉と考えている」と指摘する。

一方で、欧州議会と理事会では現在、「オムニバス簡素化パッケージ」と呼ばれる改正案をめぐり交渉が進んでいる。提案の中には、企業の気候移行計画を任意化する案や、これを科学的根拠に基づかない形でも容認する案、さらには制度自体の廃止を求める声まで含まれている。だが、調査結果によれば、経営者の多くはこうした動きに否定的で、むしろ計画の義務化と透明性の確保を重視している。

報告義務の対象企業の基準も議論の焦点となっている。欧州委員会は従業員1000人以上の企業を対象とする方向を示しているが、調査では最も多くの経営者が「250人以上が妥当」と答えた。これは、現行案よりもはるかに低い水準だ。大企業だけでなく中堅規模の企業にも透明性を求める声が強いことが分かる。

報告義務の意義についても経営者の支持は広がっており、59%が「意味のあるデータをもとにした報告であれば賛成」と回答した。特に中堅・大企業では7割に達し、1000人を超える大企業では66%が「すべての大企業に報告を義務づけるべき」との考えを示している。一方で、こうした規定の見直しをめぐる不透明さが投資判断に影響を及ぼしており、調査対象の約半数が「法的な不確実性が投資を遅らせている」と答えた。

企業の現場からも規制緩和への懸念が相次ぐ。デンマークの雑貨チェーン「フライング・タイガー・コペンハーゲン」でサステナビリティを担当するトリーネ・ポンダル氏は、「気候変動は先送りできない危機だ。CSRD(企業サステナビリティ報告指令)は企業に共通の言語と安定した枠組みを与えた。今必要なのは明確な期待値と一貫したルールであり、後退や例外措置ではない」と述べた。

また、デンマークの通信大手TDCネットのピーター・ソンダーゴー・アンデルセン氏は「ESG報告と競争力は相反しない。むしろ欧州企業に優位性を与え、投資家や顧客との信頼関係の基盤となる」と語った。ドイツの持続可能企業団体BNWを率いるカタリーナ・ロイター氏も「欧州企業の大半は高い基準を支持している。EUにはその実現を確かな形で支える責任がある」と強調する。

E3Gの報告書は、企業の間で「規制緩和」よりも「信頼できる明確な枠組み」を求める声が優勢であることを示している。法的安定性と透明性が企業活動や投資を促進するとの認識が広がる中、EUが簡素化を名目に基準を緩めれば、むしろ市場の信頼を損ねるリスクもある。欧州が環境と競争力の両立を目指す上で、どのようなバランスを取るのか――今後の議論の行方が注目される。

(原文)New European business survey shows majority support for strong corporate sustainability framework
(日本語参考訳)欧州の新たなビジネス調査では、強力な企業持続可能性フレームワークに対する大多数の支持が示された

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