
6月20日、シンガポールの国家気候変動事務局(NCCS)、通商産業省(MTI)、およびエンタープライズ・シンガポール(EnterpriseSG)は、企業が信頼できる脱炭素化計画の一環として炭素クレジットを自主的に活用する方法に関する草案ガイドラインを共同で発表した。あわせて、一般市民および企業からの意見募集も開始された。
炭素クレジットは、温室効果ガスの排出削減または除去を証明する証書であり、これを売買する炭素市場は、ネットゼロ実現に向けた資金の流れを生み出す重要な仕組みである。特に途上国における脱炭素プロジェクトの促進や、削減が困難な排出への対応手段として企業の活用が期待されている。
しかし、ボランタリー・カーボン市場(VCM)は、業界主導の多様な基準による標準化の欠如や市場の信頼性に対する懸念により、十分に発展していない。こうした背景を受け、政府が方向性を示す必要があるとの企業からの要望に基づき、今回のガイドラインが策定された。
草案では、以下の要素が示されている:(a)パリ協定第6条に基づき各国政府が採用しているアプローチとの整合性、(b)高い環境完全性を持つクレジットの重要性、(c)排出削減努力を優先し、残余排出への対応としてクレジットを使用する原則、(d)VCMにおけるクレジット利用は温室効果ガスの国別排出量削減目標(NDC)とは切り離されることの明確化である。
このガイドラインは、シンガポール政府が推進する高信頼性の炭素市場構築戦略の一環であり、炭素税対象企業によるパリ協定第6条適合クレジットの最大5%オフセット利用、国際基準に沿った気候報告でのクレジット活用の情報開示、シンガポールCarbon Project Development Grant(カーボンプロジェクト開発助成金)による高品質クレジット供給の支援なども含まれている。
また、シンガポール・サステナブル・ファイナンス協会(SSFA)は、VCMガイドラインと補完的なクレーム・ガイダンス・コードの策定に向けた企業調査を実施しており、ASEAN域内の炭素市場協会との連携強化も進めている。
意見募集は7月20日まで行わる。政府は今後、業界の声を反映し、より明確かつ実効的なVCMガイドラインの確立を目指していく構えである。