ESGフロントライン:潮流を読む~NZBA脱退が加速、日本への影響と今後の対応

※本記事は、ESG Journal編集部が注目のニュースを取り上げ、独自の視点で考察しています。

米国の主要銀行がネット・ゼロ・バンキング・アライアンス(NZBA:Net-Zero Banking Alliance)から相次いで脱退する動きが注目されている。2024年12月6日にゴールドマン・サックスが脱退を表明し、その後、ウェルズ・ファーゴ(12月20日)、シティグループ(12月31日)、バンク・オブ・アメリカ(12月31日)、モルガン・スタンレー(2025年1月2日)、そしてJPモルガン・チェース(1月8日)と、米国の大手銀行が次々とNZBAから離脱した。

これらの脱退は、ドナルド・トランプ氏の大統領再任を控えた動きと見られる。トランプ氏はエネルギー産業の規制緩和や化石燃料の推進を公約として掲げており、これに伴い、共和党の政治家たちからは、化石燃料産業への融資制限を行う団体への参加が反競争的であるとの批判が強まっている。

一方、NZBAには現在も141の銀行が加盟しており、その多くは欧州の大手銀行である。日本からも主要な銀行や証券会社が参加しており、ネットゼロへの取り組みを継続している。しかし、米国の主要銀行の脱退により、同国の金融機関によるネットゼロへの取り組みが停滞する可能性が指摘されている。

ただし、日本においては、アジア全体でのネットゼロに向けたイニシアティブなどが進行中であり、市場の動向も持続可能性を重視する方向にシフトしている。特に、アジア地域ではネットゼロへの取り組みが加速しており、ネットゼロ目標達成に向けた努力を継続することが求められる。世界経済の多極化が進む現在、他国の動きに左右されず、自社のサステナビリティ戦略を推進することが重要である。

さらに、アジアでは日本が提唱する「アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)」の枠組みのもと、脱炭素化に向けた協力が進められている。2024年10月には第2回AZEC首脳会合が開催され、今後10年間のアクションプランが採択された。このプランでは、再生可能エネルギーの推進や火力発電のゼロエミッション化、CCS技術の活用など、具体的な取り組みが盛り込まれている。

NZBAに基づく開示の今後については不透明な部分も多いが、TCFDやその他の基準と重なる部分が多いため、NZBAだけを意識した取り組みを行っている金融機関は多くないと考えられる。したがって、現状の取り組みが「無駄」になることはないだろう。企業は引き続き、TCFDや他の国際基準に沿った開示と取り組みを進めることが重要である。

たしかに、米国の主要銀行のNZBA脱退は、グローバルな金融業界におけるネットゼロへの取り組みに影響を与える可能性がある。しかし、日本やアジアの企業は、本質的な気候変動対応を実現するためにも、自社のサステナビリティ目標に向けた取り組みを一層強化することが重要ではないだろうか。

文:竹内愛子(ESG専属ライター)

【参照ページ】Why US Banks are Departing from Net Zero Banking Alliance

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