5月10日、投資データおよびリサーチプロバイダーであるMSCIの新しい調査によると、スコープ3排出量(バリューチェーン全体からの間接排出で、一般的にほとんどの企業の気候変動フットプリントの大部分を占める)の開示を行う公開企業の割合は3分の1以上に増加し、企業の脱炭素化の約束も大幅に増加したことが分かった。
しかし、情報開示や気候変動に関する公約の改善にもかかわらず、本調査では、企業の直接排出量は今年も減少しておらず、気温上昇を1.5℃に抑えるという世界目標の達成に必要な排出量を大幅に上回る勢いであることが明らかになった。
MSCI Net-Zero Trackerの最新版である本レポートでは、MSCI All Country World Investable Market Index(ACWI IMI)内の企業の気候変動の進捗状況を評価し、「Implied Temperature Rise」指標のデータを掲載した。2021年に開始された「Implied Temperature」ツールは、各企業の排出削減目標を考慮し、企業の現在および予測される温室効果ガス排出量を推定地球気温上昇に変換するものである。
本研究は、スコープ3排出量や気候変動計画に関する報告が一般的になると予想される中、特に欧州や米国を含む主要な規制報告制度やグローバルスタンダードが、今後数年以内に気候変動に関する開示制度を新たに義務化することを受けて行われた。例えば、IFRS財団は、スコープ3報告や気候変動リスクと機会に関する開示を含む新しい気候・サステナビリティ報告基準を2024年に発効させると最近発表した。
報告書では、上場企業の排出量開示と気候変動に関するコミットメントの両方が大幅に増加していることが示され、上場企業の35%が少なくとも一部のスコープ3排出量を報告しており、わずか7ヶ月前の約30%から増加し、44%が脱炭素目標を設定しており、同じ期間中に8ポイント増加したことになる。
しかし、報告書によると、気候フットプリントへの取り組みを約束する企業の割合が増加しているにもかかわらず、企業が設定した目標は、その質と包括性において大きく異なることがわかった。例えば、設定された目標のうち、ネット・ゼロ目標を含むものは30%に過ぎず、1.5℃パスウェイに沿ったものは17%である。またネット・ゼロ目標であっても、バリューチェーンの全排出量をカバーしていないものや、第三者による検証が不十分なカーボンオフセットに頼っているものもあることが報告されている。
さらに、より多くの企業が排出量削減に取り組む中でも、上場企業は記録的なレベルの排出を続けており、上場企業が今年予測するCO2eは11.2ギガトンで、2022年と変わらないことが報告書で明らかになった。
Implied Temperature Riseの指標によると、現在1.5℃のパスウェイに沿った企業は19%にとどまり、7ヶ月前の16%から増加し、パリ協定の上限である2℃未満に気温上昇を抑えることに沿った企業は49%から増加し、51%となった。上場企業全体では、2.7℃上昇へのパスウェイに賛同していることがわかる。
また、本報告書では、ポートフォリオの排出量が大幅に改善される可能性のある投資分野について、投資家の判断材料としてImplied Temperature Riseツールを活用し、公益事業・不動産・資本財・自動車などの高排出セクターが、持続的に生産される電力やクリーンテクノロジーに対する高い収益エクスポージャーを持っていると指摘した。
【参照ページ】
(原文)More Public Companies Are Making Climate Commitments But Deadline To Limit Warming To 1.5°C Shrinks Again
(日本語訳)気候変動対策に取り組む上場企業が増加するも、温暖化を1.5℃に抑える期限は再び縮まる