EU、移行リスク単独の金融への影響は限定的と分析

11月19日、欧州監督当局(EBA、EIOPA、ESMA)と欧州中央銀行(ECB)は、2030年の温室効果ガス排出量を1990年比で55%削減することを目指す「Fit-for-55」の気候シナリオ分析の結果を発表した。分析によれば、移行リスク単独ではEUの金融システムの安定性を脅かす可能性は低い。しかし、移行リスクとマクロ経済ショックが同時に発生すると、金融機関の損失が増加し、資金供給能力に影響を及ぼす可能性がある。本分析は、金融機関が包括的かつ迅速に気候リスクをリスク管理に統合する必要性を強調する。

テストでは、EUの「Fit-for-55」パッケージの実施を想定した3つのシナリオを評価した。基準シナリオでは、パッケージ実施に伴う追加コストが考慮され、1つ目の悪化シナリオでは「Run-on-Brown」ショックによる炭素集約型企業の資産売却が進み、グリーン移行が妨げられる状況を想定した。2つ目の悪化シナリオでは、これに加えてマクロ経済的な悪条件が重なる状況が評価された。分析には110の銀行、2,331の保険会社、629の年金基金、約22,000の投資ファンドが含まれる。

結果として、「Run-on-Brown」ショック単独では、金融機関の初期エクスポージャーの5.2%〜6.7%の損失に留まり、金融安定性に重大な影響を与えないと判明。しかし、マクロ経済的ショックと組み合わさると、損失は10.9%〜21.5%に増加し、移行が混乱する可能性がある。ただし、銀行の収益や保険会社・年金基金の負債管理、ファンドの現金保有などが緩衝材となり、影響は一定程度緩和されると予想されている。今回の分析結果は、グリーン移行を支える政策措置を形成するための重要な知見を提供する。

【参照ページ】
(原文)Transition risk losses alone unlikely to threaten EU financial stability, “Fit-For-55” climate stress test shows
(日本語参考訳)移行リスクによる損失だけではEUの財政安定性を脅かす可能性は低い、と「Fit-For-55」気候ストレステストが示す

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