11月27日、グローバル・プロフェッショナル・サービス・ファームであるEYが発表した新しい調査によると、気候関連要因について報告する企業数、報告の質ともに、世界の企業の気候変動開示は進展している。
EYの第5回年次報告書「グローバル気候リスク・バロメーター(Global Climate Risk Barometer)」において、EYは、気候リスクにさらされる13セクター、51カ国にわたる1,500社以上の企業の情報開示を分析した。
本報告書では、企業が気候関連財務情報 開示に関するタスクフォース(TCFD) の推奨事項のいくつを開示したかに基づく「カバレッジ」と、11のTCFD推奨事項の要求事項を開示がどの程度満たしているかを示す「クオリティ」を、情報開示の主要な側面として調査している。
報告書によると、企業による気候変動開示の量は引き続き増加している。「カバレッジ」の指標は、 昨年の84%、2021年の70%から、今年は90%に達している。一方、「クオリティ」のスコアは、昨年の44%、2021年の42%から改善しつつも、引き続き50%と低迷している。
セクター別では、気候変動に関連する移行リスクへのエクスポージャーが最も大きいセクターほど、カバレッジとクオリティの両面で開示スコアが高 い傾向が見られた。例えば、エネルギー・セクターは、カバレッジ (95%)、質(55%)ともに最も高いスコアを獲得しており、その他、非金融セクターでは、素材・ 建造物セクター、鉱業セクターなどが高いスコアを達成している。金融業界では、保険業界のスコアが最も高く、カバレッジは93%、クオリティは55%に達した。
本報告書では、IFRS財団の気候変動報告基準であるIFRS S2の要求事項を満たすための企業の準備状況を初めて調査した。IFRS財団のISSBは、2023年6月に最初の一般的な持続可能性報告基準(IFRS S1)とIFRS S2を発表しており、新基準は、早ければ来年から、世界の多くの規制当局による新たな開示要求制度に反映される見込みである。
「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「メトリックスとターゲット」というIFRS S2の4つの柱にわたって企業の情報開示を評価したところ、 評価は大きく分かれた。ガバナンスカテゴリーでは、戦略を監督するスキルや能力、 目標設定を監督する委員会の設置方法などを開示している企業が60%近くを占めたが、リスク管理では、「報告期間以前に気候変動関連リスクを特定するために使用されたプロセスの変更に関する情報」を開示している企業はわずか3%と、かなり低くなった。また、戦略や指標、目標設定に関する開示もまちまちであり、65%の企業が過去に設定した目標に対する進捗状況を開示し、54%の企業がScope3の排出量カテゴリーを開示しているが、財務計画に影響を与える定量的/定性的情報を開示している企業はわずか5%、法人に関する排出量の詳細を開示している企業は12%であった。
報告書はまた、IFRS S2の重要な側面のひとつである移行計画に関する開示についても調査しており、具体的なネット・ゼロ戦略、移行計画、脱炭素戦略を開示している企業は約半数(53%)にとどまっていることがわかった。エネルギー・鉱業企業の60%、運輸企業の58%が移行計画を開示している。遅れているセクターは、金融資産所有・管理会社の39%、農業・食品・林産物の43%であった。
報告書では、気候変動報告において、企業が機会よりもリスクに重点を置いていることが示されている。また、気候変動による影響と財務パフォーマンスとの関連性を開示することについても、企業はまだ遅れている。財務諸表で気候変動に関連する事項に言及している企業は33%に過ぎず、財務諸表で気候変動に関連するリスクの定量的な影響を提供している企業は26%に過ぎないことがわかった。
【参照ページ】
(原文)How will understanding climate risk move you from ambition to action?
(日本語参考訳)EY調査:企業はIFRS気候変動報告基準への準備が一部しかできていない