日常と隣り合わせの社会貢献を。ナッジが進めるグリーン・フィンテック
近年、ヨーロッパを中心に、地球規模の課題であるカーボンニュートラルに向けた取組みを金融テクノロジーを活用して推進する仕組みとして「グリーン・フィンテック」が注目を集めている。こうした流れにいち早く注目し、スタートアップとしてグリーン・フィンテックの推進に乗り出したのが、普段使いでユーザーの「好き」を応援できる次世代クレジットカードサービス『Nudge(ナッジ)』を展開しているナッジ株式会社だ。
ナッジは、普段の買い物の支払いの際にクレカを利用すると、利用金額の一部が提携しているアーティストやNPOの活動資金として寄付されるという仕組みだ。支援先は、スポーツチームから選手個人、動物保護団体など幅広い種類が揃っている。
そんなナッジが8月に提供を開始した、「広島Nudgeの森」クラブとクレジットカードサービスは、ユーザーがクレカ払いをするだけで、ナッジからの寄付を通じて広島のアカマツ林での植樹活動が支援できる、というユニークな仕組みとなっている。
今回の植樹の舞台となる東広島市のアカマツ林では平成以降「マツ枯れ*」が加速しているが、スギやヒノキの森林と異なり、補助金を用いた再生が難しい状況にある。そこで、ナッジは東広島市と連携し、ナッジの仕組みをつかった森林再生のプロジェクトとして「広島Nudgeの森」を立ち上げた。今後3ヘクタールの土地で長期的な植樹活動を行い、豊かなマツ林を再生する。
今回ESG Journal編集部は、ナッジ代表の沖田貴史氏に、8月にリリースした本プロジェクトの詳細と今後のグリーン・フィンテック推進の展望についてお話を伺った。
※カミキリを媒介して樹木の中に入り込む寄生虫が原因となってマツの木が衰弱し、だんだんと枯れていってしまうこと
出所:ナッジ株式会社「広島Nudgeの森 メディア向け発表会資料」
キャッシュレス起点でグリーン・フィンテックの推進を
– キャッシュレス×植林、というユニークなプロジェクトの構想に至った背景を教えて下さい。
【沖田】私の中で、キャッシュレスを起点とするグリーン・フィンテックの推進は創業当時から一つのアイディアとして温めていました。スタートアップはリソースもタイトなので、実現に至るまである程度の時間はかかったのですが、複数回の資金調達を経て、会社としても順調に成長する中で、新たにジョインしたメンバーが手を上げて積極的に取り組んでくれたことが、本プロジェクトの実現に繋がりました。
植林についても前提知識が殆どなかったのですが、私の大学の先輩で、卒業後も懇意にしていただいているヤマネホールディングス(広島県の住宅建築企業)の社長に相談したところ、こうした活動を粋に感じてくれて、広島の関係企業や森林組合に掛け合ってくれるなど、全面的に協力してもらい、プロジェクトが徐々に具体化していきました。
何より本プロジェクトに携わった関係者全員がすごく前向きで、植林を通じた社会貢献の実現に対してモチベーションが高く、そうした方々がサポートしてくれたのも本当に心強かったです。
– 8月のリリースまでにどの程度の時間を要したのでしょうか。
【沖田】実際に本プロジェクトが始まったのは2021年の夏なので、約1年です。自治体の皆様と一緒にこうしたプロジェクトをやるのは2件目(1件目は石川県小松市)ですが、関係者全員の熱量が高く、地方創生の実現を本気でやりたいという方々が多かったので、巷でよく聞く官民連携の難しさといったものは特になく、スムーズに連携しながら実現にまで漕ぎ着けることができたと考えています。
– 今回カルビーや地元企業など多数協賛企業として参画してますが、背景にはどういった経緯があったのでしょうか
【沖田】スポンサーがついたのは我々としても全くの偶然であり、嬉しい誤算でした。当初はカード利用者が植林にボランティアで参加可能、という特典しかなかったのですが、地元のスポーツチームの広島ドラゴンフライズ様や、はつかいちサンブレイズ様が協力を申し出てくれて、植林の際の選手参加から始まり、オリジナルフォト・メッセージ動画や試合チケットを提供いただけることになりました。こういった話から始まり、発祥の地が広島のCalbee様からもお声をかけていただいて、クレジットカードの使った金額に応じて、Calbee様の商品が届くという仕掛けも作ることができました。
出所:ナッジ株式会社「広島Nudgeの森 メディア向け発表会資料」
– こうした官民連携のスキームには今後も積極的に取り組んでいくのでしょうか。
【沖田】はい。今回は自然発生的にスポンサーが広がりましたが、我々としても地方創生のプロジェクトを中心にこのような座組みを意識して作り、スポンサー企業様を巻き込みながら、グリーン・フィンテックを押し進めたいと考えています。
今回、ヤマネホールディングス様は協賛企業として、建築したZEH(ネットゼロ・エネルギー・ハウス)1棟当たり植樹4本分(1,000円)の寄付を、 「広島Nudgeの森」プロジェクトに対して実施することを決めました。こうしたプロジェクトがカーボンニュートラルに向けた企業様の取組みの後押しになる、ということも嬉しく感じています。
出所:ナッジ株式会社「広島Nudgeの森 メディア向け発表会資料」
「今後も自治体との連携を通じ、社会貢献の実現を」
– リリース後の地方自治体や周囲からの反応はどのようなものでしたか。
【沖田】他の地方自治体から「地域で森林が課題になっていまして。」というようなご相談や「地域で現在発生している環境問題の課題解決に活用したい。」というご要望も多くいただくようになりました。地方自治体だけではなく、地方銀行からの相談もいただいています。
また今年11月には、広島で地域の子供たち・協賛企業と合同で植樹活動を実施します。森林の働きを学ぶ教育の場として、そして地元企業との交流の場として、「広島Nudgeの森」を活用したいと考えています。
– 自治体との提携はこれからも積極的に進めていく予定ですか?
【沖田】はい。最近は自治体側からご要望をいただく機会も多いので、今後も積極的に提携を進めたいです。自治体と提携するケースでは、社会貢献活動とセットになるプロジェクトも自然と多くなるのではないかと考えています。また、ナッジとしては、こうした地方自治体とのプロジェクトに限らず、日常生活の中に溶け込み、楽しく社会貢献できるような仕組みをキャッシュレスで実現することができると考えていますので、各ユーザーの趣味嗜好に応じた選択肢を提供していきたいです。
注:ナッジ株式会社の沖田貴史代表(広島Nudgeの森メディア向け発表会にて)
「日常生活の中のちょっとしたことで、社会の役に立てるような仕組みを作っていきたい」
– 今後も森林再生や気候変動対応を中心に、グリーン・フィンテックにフォーカスするのでしょうか?
【沖田】元々このプロジェクトはアリババ社のアリペイが行っている「アントフォレスト」を参考にしています。アリババがやっているのなら我々にもできるはずだと考え、今回のプロジェクトを始めました。「アントフォレスト」はユーザー側の負担が少なく、日常生活に社会貢献活動が溶け込むように、うまく仕組み化されています。
私自身も、半強制的に社会課題の解決や社会貢献が求められる仕組みだと長続きしないのではと考えていて、日常生活を送る中で自然と社会の役に立っている、というような仕組みを作っていきたいです。例えば、高額の買い物をしてしまった時でも、「Nudgeのクレジットカードを使って社会貢献できたからいいか」と思ってもらえたら理想ですよね。社名である「Nudge(ナッジ)」は行動経済学の言葉で「自然にいいことができる」というような意味を持っています。それを体現できるようなプロダクトを今後も作っていきたいです。
さいごに
ESGやSDGsへの社会的な意識が高まっている中で、半強制的ではなく、日常生活に溶け込むような形で社会課題解決ができる仕組みを作りたい、という沖田代表の言葉は印象的だった。
ESG Journalでは、キャッシュレスによる「応援」を通した社会課題の解決に挑むナッジ株式会社に今後も注目していきたい。
【参照ページ】次世代型クレジットカード「Nudge」、キャッシュレスで森林再生に貢献できるクレジットカード誕生ー広島県東広島市入野財産区及び賀茂地方森林組合と協定締結
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