【ESG for Startups 第4弾】世界のESGスタートアップ30選(後編)
- 2022/3/23
- コラム・レポート
- ESG, VC, ジェネシア・ベンチャーズ, スタートアップ
皆さん、こんにちは!創業前後のスタートアップへ投資を行うジェネシア・ベンチャーズにて、パートナー兼CSO(チーフ・サステナビリティ・オフィサー)を務めている河合です。
スタートアップ関連のESG情報を発信していく連載企画『ESG for Startups』の第4回目となる本稿は、前回・前々回に続き、世界のESGスタートアップを30社ご紹介します。既に公開済みの前編・中編も合わせてご覧頂けますと幸いです。(筆者のTwitterアカウントのフォローもぜひお願いします!)
『ESG for Startups』連載一覧 [再掲]
#1 PRI署名及びESG投資方針の策定について
#2 世界のESGスタートアップ30選(前編)
#3 世界のESGスタートアップ30選(中編)
1. RECYCLEYE(英国/2019年)
RECYCLEYEは、高度なAI、コンピュータービジョン、ロボット工学を使用して、Recycleye Vision及びRecycleye Roboticsという2つの自動廃棄物管理ソリューションを提供しています。廃棄物の様々な要素(素材、物体、ブランドなど)を識別・分類するAIコンピュータービジョンの助けを借りて、廃棄物の分類に取り組んでいます。
Recycleye Visionは、最先端のAIコンピュータービジョンを使用しており、資源回収施設内の混合廃棄物をスキャンして識別します。その精度は人間の目と同じくらい正確で、28クラスの材料を検出でき、色や形、食品と非食品、包装材と非包装材を検出して区別することもできます。現行の規制上は廃棄物の僅かな割合をサンプリング調査するだけでも済みますが、Recycleye Visionでは廃棄物の100%を分析対象にできます。Recycleye Visionは、ロンドンのインペリアルカレッジとオランダのデルフト工科大学が共同開発した世界最大の廃棄物ビジュアルデータベースである「WasteNet」に支えられています。
もう一方のRecycleye Roboticsは、資源回収施設で廃棄物を拾い上げて配置するという物理的なタスクを実行し、これまでの手動操作を自動化します。世界をリードする日本のロボットメーカーであるファナック社が共同開発及びサポートしています。Recycleye Visionを搭載したRecycleye Roboticsは、人間のパフォーマンスを20%以上も上回るほか、市場に出回っている他の既存ユニットよりも75%軽量であるため、設置と改造が容易であるという利点も持っています。
(画像:RECYCLEYE)
2. Circular Computing(英国/2017年)
Circular Computingは、ノートパソコンの再生産を行っています。循環型の再製造プロセスと360ポイントの品質チェックを通じて、信頼できる品質と一貫性を確保しています。同社は、最先端の生産施設内でBS8887規格に準拠したノートパソコンを再製造しており、ISO9001認定のプロセスで厳格な品質基準を満たしています。再製造の工程終了後は、主要コンポーネントをフルロードで動作させる3時間以上のストレステストを受け、最低12ヶ月の保証付きで再生ノートパソコンを販売しています。
これまでの再生ノートパソコンは、新品同様の性能や外観を備えておらず、また長期保証もないため、IT投資を検討している企業の関心を引くことは殆どありませんでした。これに対して、Circular Computingのノートパソコンは、性能も見た目も新品同様に完全に作り直されているため、世界中の多くの企業にとってIT投資と持続可能な調達の両立が可能になるのです。
同社は、3年ごとにノートパソコンを再購入しており、合計で3回の再生サイクルと9年間の耐用年数が見込めることから、環境・倫理・社会に対してプラスの影響を及ぼしています。
(画像:Circular Computing)
3. Carbix(米国/2020年)
Carbixは、CO2を炭酸塩などの原料に変換することで、持続可能なセメントやコンクリートを製造しています。セメント工場やその他の工場から排出される排ガスから回収したCO2を原料とする先進的な反応炉を開発し、温暖化ガス排出を相殺または吸収できる高付加価値製品やコモディティ製品を生み出しています。
同社のカーボン・シーケスタリング・リアクター(炭素隔離反応器)は、排気ガスのモデリングデータと数値流体力学を組み合わせた独自技術を用いており、工場の排気流から抽出したCO2を利用して他の鉱物を生成することができます。このプロセスは、大気中のCO2が鉱物と相互作用して別の鉱物を形成する自然現象を人工的に加速させるものであり、Carbixではこの化学的なプロセスを、熱、圧力、混合率、紫外線、CO2注入を最適化するパラメータとして確立しています。
(画像:Carbix)
4. CircularTree(ドイツ/2018年)
CircularTreeは、ブロックチェーン技術を使って、信頼性・透明性・トレーサビリティの欠如といったサプライチェーンの課題を解決します。サプライチェーン上の各組織は、製品・材料・化学物質等に関するコンプライアンス情報を提供・共有・活用できます。データソースとの整合性がリアルタイムで検証され、自動化されたワークフローでは、サプライチェーンのどの時点でも即座にイベント、アラート、リアクションを引き起こすことができます。
現在、GHG排出量などのサプライチェーンにおける透明性が低いため、企業は他の取引参加者のデータを入手することができません。そのため、企業が製品単位でGHG排出量を測定するには相当な労力が必要になります。そのような事情から、GHG排出量の測定では業界平均値などの、必ずしも正確ではない前提を用いざるを得ないのが現状です。一方、GHG排出量の80%はサプライチェーンで発生するため、真のGHG排出量を測定できればインパクトはかなり大きなものになります。このような課題を踏まえて、CircularTreeでは、バリューチェーン全体でScope3排出量の透明性を向上させるための、オープンで相互運用可能な環境開発をサポートしています。
また、鉱物や金属のサプライチェーンにおいて、小規模採掘鉱山の存在を証明し、ひいては製品に含まれる鉱物の産地に関する情報へのアクセスを、川下企業に提供するブロックチェーンベースのプロジェクトも行っています。このプロジェクトでは、紛争地域で生産された特定の原料、例えば紛争鉱物の出所を、検証済みで安全な取引を通じてサプライチェーン全体で追跡するために、ブロックチェーン対応システムを構築することを目指しています。
(画像:CircularTree)
5. Zabble(米国/2016年)
Zabbleは、病院・大学・企業の廃棄物管理の専門家向けに、廃棄物データの収集と保守のプロセスをデジタル化した廃棄物管理システムを提供しています。同プラットフォームでは、機械学習アルゴリズムを使用して廃棄プロセスに関するリアルタイムの分析と提案を行うことで、利用者は埋め立てられる廃棄物を減らし、それによってCO2排出量を削減することができます。
同プラットフォームは、持続可能性の専門家やビル管理者などと協力して様々な種類のデータを取得しています。例えば、顧客の運搬船の請求書にアクセスすることで、施設を出てから運搬船に回収される材料の量を把握することもできます。また、清掃員がリサイクル容器に「タグ」付けできるモバイル・プラットフォームを提供しており、容器がどの程度満たされているかを観察し、明らかに汚染されているものを指摘するといった監視も可能です。それらの情報はリアルタイムで集計され、ダッシュボードに運搬量と一緒に表示されます。
Zabbleのプラットフォームを使い始めた大規模な施設の1つが、カリフォルニア大学サンフランシスコ校ですが、同大学はサンフランシスコ市内で2番目に大きな雇用主であり、2番目に大きな廃棄物の排出者でもあります。
(画像:Zabble)
6. Nossa Data(英国/2020年)
Nossa Dataは、企業がESG情報を効率的に集計、報告、分析するためのツールを開発しています。まず、社内のESG情報の集計においては、重複作業を回避するワークフローに最適化されたツールが、すべての定量的および定性的なESG情報を一か所にまとめてくれます。次に、ESG情報の報告においては、集計されたESGデータセットをAIで分析し、SASB、TCFD、GRIなどの代表的なESGフレームワークに回答を一致させます。また、そのような情報の開示後は、主要な競合他社や業界平均と比較した自社のESG経営の位置付けを理解するための分析を提供します。
そのような分析を経て、ESG情報の回答内容を改善しながら、主要な利害関係者と効果的にコミュニケーションする方法も紹介しています。Nossa Data のツールを用いて社内のESGデータを取得することで、投資家向けの広報活動や資金調達から、リスク管理やコンプライアンス対応に至るまで、組織全体に価値を生むことが期待されています。また、ESGデータを改善することでブランドに対する共感が強くなり、それによって企業価値を高めることも期待されています。
(画像:Nossa Data)
7. UBEES(米国/2017年)
世界の食用作物の3分の1以上は受粉に依存しているため、受粉を促すミツバチは健康で豊かな生態系にとって不可欠な存在ですが、ミツバチの個体数は年々減少しています。一方、アーモンドのような受粉に依存する作物に対する需要は増加の一途となっています。
米国のスタートアップ企業UBEESは、従来の養蜂とセンサーを組み合わせた精密養蜂に取り組んでおり、ミツバチの健康状態を邪魔にならないようにリモートで監視します。寄生虫、病原体、農薬への曝露、および栄養レベルを監視して、データに基づく意思決定を促進します。これにより、養蜂家は、食品サプライチェーン周辺地域の生物多様性を保護しながら、利益を増やすことが可能になります。
同社の目標は、米国最大の蜂の巣のデジタルマーケットプレイスを提供し、注文から配送までの受粉プロセスを簡素化することです。さらに、コロニーを遠隔監視できる非侵入型センサーで受粉の近代化を進めています。
(画像:UBEES)
8. Tomorrow(ドイツ/2018年)
グリーンファイナンスは、環境配慮型の製品生産やその他の持続可能な取り組みに対して投融資を行うための手段です。これらの金融商品は、顧客の預金を再生可能エネルギーなどの脱炭素プロジェクトや、カーボンフットプリントを相殺する取り組みに投融資することで、銀行業務を持続可能なものにしています。
ドイツのスタートアップ企業Tomorrowは、持続可能で透明性の高いモバイルバンキング・サービスを提供しています。プレミアム口座「トゥモロー・ゼロ」では、ベトナムのバイオガスプラント、ウガンダの清潔な飲料水、ペルーの小作農の改善など、気候変動に関する特定の取り組みに資金を提供することが可能です。さらに、ドイツのフェルダーバンク・ノルトライン・ウェストファーレンが発行するグリーンボンドを通じて、SDGsにも貢献しています。
(画像:Tomorrow)
9. Teysha Technologies(英国/2017年)
Teysha Technologiesは、再生可能な完全生分解性プラスチック代替品を開発し、埋立地の廃棄物を利用して、何百もの異なる用途のためのポリマーを製造しています。溶剤や添加物を利用することで最終的なポリマーネットワークの特性を変更できるため、硬い素材から柔らかい素材まで、様々な最終製品を生み出しています。
同社のプラスチック代替品は、従来の炭化水素ベースの石油化学製品ではなく、デンプンや農業廃棄物などの天然資源から得られます。また、同社独自のAggiPolバイオプラスチックは、溶解性、熱転移温度、機械的挙動を変化させることができるため、添加剤、パーソナルケア製品、化粧品、個人用保護具、プラスチック包装、エンジニアリングプラスチックなどの用途で、添加剤やプラスチック原料として使用することができます。これは、バイオポリマーを個々の用途に応じて調整し、特定の環境条件や熱条件下で作動・分解させることができることを意味しており、何千年も環境中に残留する従来のプラスチックと比較して大きなメリットがあると言えます。
(画像:Teysha Technologies)
10. risQ(米国/2016年)
気候変動は、自然の生息地や生物多様性に影響を与えるだけでなく、世界の人々に経済的なリスクを直接もたらします。その中には、物理的なリスクだけではなく、商品価格や金融資産価格に影響を与えるといったオペレーショナルリスクも含まれます。
米国のスタートアップ企業risQは、地方債市場の発行体や投資家に対して、金融リスク管理プラットフォームを開発しています。同社のビッグデータ分析ツールは、地理空間機械学習、気候科学、大災害シミュレーションを活用しており、気候変動データを財務指標に変換することで、利益と持続可能性の両方を実現する機会を提供しています。
2021年12月、ニューヨーク証券取引所を傘下に持つインターコンチネンタル取引所(ICE)がrisQを買収したことで、米国の債券、地方債、住宅ローン担保証券市場におけるオルタナティブ・データの提供に、地理空間情報に基づく気候リスク・モデリング機能が加わりました。ICEとrisQは、2020年初頭から共同で、米国の地方債投資家にICE Climate Riskソリューションを通じて定量化可能な気候リスク情報を提供しており、後に社会的影響スコアを提供内容に統合しています。
(画像:risQ)
おわりに
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『ESG for Startups』連載一覧 [再掲]
#1 PRI署名及びESG投資方針の策定について
#2 世界のESGスタートアップ30選(前編)
#3 世界のESGスタートアップ30選(中編)
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