
8月29日、政府は、建築物における木材利用を推進するため、防火や避難に関する規制を見直す「建築基準法施行令の一部を改正する政令」を閣議決定しており、改正政令は2025年11月1日に施行される予定で、カーボンニュートラル社会の実現に向け、木造建築の普及を後押しする重要な制度改正となる。
2050年までのカーボンニュートラルを目指す政府は、温室効果ガスの吸収・貯蔵機能を持つ木材の活用拡大を掲げており、これまで段階的に建築規制の見直しを進めてきた。今回の法改正では、特に防火や避難に関する規制を中心に、建築現場での木材利用を柔軟に認める方向へと転換する。
具体的には、建築物内部の内装制限を緩和し、不燃・準不燃材料に準ずる措置が講じられた場合にも認められるようになる。また、一定の基準を満たす木造建築については、小屋裏に隔壁を設ける義務を不要とし、設計の自由度を高める。さらに、排煙設備や防煙壁に関する基準も見直され、自然排煙口については不燃材料による施工義務を撤廃する。防煙壁の対象には準耐火構造や、梁が天井から50センチ以上突出している構造も新たに含まれる。
加えて、大規模木造建築における敷地内通路の設置要件も柔軟にする。道路に面する部分以外で避難や消火に支障のない場所については通路設置を不要とすることができる。既存建築物の改修時にも、屋根や外壁などの防耐火性能に関する基準の適用を緩和し、木造建築の改修やリノベーションを容易にする措置が導入される。
さらに、建築基準法上の「エレベーター」や「小荷物専用昇降機」の定義も見直される。労働安全衛生法のもとで規制を受ける事業場内の簡易リフトは、建築基準法の規制対象外とされ、事業者の負担軽減が図られる見通しだ。
国土交通省は、「今回の見直しにより、防火安全を確保しつつ、木造・木質化の促進を進め、建築分野における脱炭素化を後押しする」としている。木造高層ビルの実現を目指す企業や自治体が増える中、建築基準の緩和は産業界にとって大きな追い風となりそうだ。
改正施行令は9月3日に公布され、2025年11月1日に正式施行される。今後、国交省は具体的な技術基準や算定方法を定める告示を順次発表する予定で、設計者や施工業者の準備が進められる見込みだ。