8月26日、金融庁と日本銀行は、3メガバンク及び大手3損保グループと連携して、NGFS(気候変動リスク等に係る金融当局ネットワーク)が公表するシナリオを共通シナリオとしたシナリオ分析の試行的取り組みを実施し、その分析結果を公表した。
銀行を対象とするシナリオ分析では、気候変動が中長期的に銀行の経営・財務に及ぼす影響を重視し、2021年3月末までの全与信を対象に、移行リスクと物理的リスク(主に水災による急性リスク)両方が信用リスクを通じて銀行の財務に与える影響の分析を行った。
銀行を対象とした分析の結果、移行リスク及び物理的リスクによる年平均の信用コストの増加額については、各行の平均的な年間の純利益と比べて相応に低い水準となった。各行がTCFDレポートで公表している結果との大きな差もなかったが、シナリオ分析の手法やデータは発展途上であることから、この結果をもって、気候関連リスクの影響度合いについて確定的な評価を行えるものではないとしている。
他方で、各行のモデルやモデルで使用する変数の選択の相違に加え、特に将来見通しに関する情報・データの不足を背景に、分析対象セクターの事業や利用技術の変化、顧客企業の事業構造転換の有無や新規投資に係る資金調達の見通し、炭素価格の上昇の販売価格への転嫁等に関して、各行の想定・仮定にはバラツキがあるという課題が示された。今後、前提となる想定・仮定の共通化や、個別企業についての分析の精緻化が期待される。
保険を対象とするシナリオ分析においては、損害保険会社の保険引受によって生じる物理的リスク(風災・水災による急性リスク)を対象とし、特定のシナリオ(災害)を激甚化させることで、気候変動の影響を加味した条件下での物理的リスクの大きさ(保険金支払額の変化)を把握した。
保険を対象とした分析の結果、気温上昇に伴い保険金支払額が増加することが確認された。しかし、そもそも各社のリスクモデルが異なる上、前提条件の統一の限界等によって、結果にバラツキが生じやすいこと、特定のシナリオ(災害)を対象とした分析では、将来時点における発生確率の変化(災害発生の頻度)を把握できない、といった課題が明らかになった。対応策としては、全社が同じリスクモデルを使用し、シナリオの発生確率も考慮した確率論的な分析を行うことが挙げられている。