ISCC認証 / ISCC PLUS認証の取得企業が増えつつあり、バイオマスやバイオエネルギーに対する社会的関心への対応が進んでいる。日本企業の間でも化学メーカーを中心に ISCC PLUS認証の取得が進みサプライチェーン管理の透明性を高めようとしている。本稿では、 ISCC認証の種類について説明しつつ、具体的な取得までのステップを紹介している。また、審査項目、日本企業の取得一覧など、関連する情報を網羅的にまとめているので全体を把握するのに役立つだろう。
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ISCC認証とは
ISCC(International Sustainability and Carbon Certification、国際持続可能性カーボン認証)は、持続可能かつ追跡可能であり、森林破壊のないサプライチェーン実現を認証するシステムである。バイオマスならびにバイオエネルギーの認証制度としては、世界初の専用プログラムである。
Contents
ISCC認証の概要
ISCC認証には以下のとおり、ISCCEUと ISCCPLUSの2種類が存在する。
ISCC EU | バイオマス燃料を対象とし、EU指令で定められた認証制度 再生可能エネルギー指令や燃料品質指令に準拠しているとみなされる(互換性) |
ISCC PLUS | マスバランス方式*1で製造されたバイオマス原料や再生原料等の製品を対象とし、サプライチェーン上で管理・担保する認証制度 米国国歌規格協会のサーベイラインと認定 |
*1 複数の種類の原料(例:バイオマス原料等と化石燃料由来の原料など)により製品を製造した際に、特定の材料(例:バイオマス原料等)の投入量に応じ、製品の一部にその特性全てを割り当てる方式
ISS EUは、EU域内での認証である一方、 ISCC PLUSは、バイオマス燃料以外も認証され、対象の範囲が広いので、国内各社の大多数は ISCC PLUSの認証取得に向け、活動を行っているのが実情だ。
ISCC認証の取得ステップ
ISCCの登録および認証プロセスは以下の流れである。
①認証機関の選定
ISCC認証を取得するには、認証機関による審査を経て、第三者認証を得る必要がある。
認証機関の一覧は、 ISCCのウェブサイトで公開されている。
認証の取得を考える組織は ISCCにユーザー登録する前に、認証機関との契約が必須となる。
② ISCCのシステムにユーザー登録
認証機関と契約し、ISCCへの登録申請書を提出後、ユーザー登録が可能になる。ユーザー登録により、認証番号を得ることができるようになる。
登録が完了すると、ISCCから電子メール(CC: 認証機関)で連絡がきて、 ISCC登録番号( ISCCRegxxxxx)が付与される。
③審査
認証機関の監査員により、ISCC監査手順に基づき組織が ISCC要求事項へ適合しているか検証される。
ISCCの監査手順とチェックリストは、内部での自主的な監査(内部監査)の準備を行う際にも使用できる。
④認証書の発行
すべての ISCC要求事項への適合が確認されると、認証機関からの認証書の発行が可能になる。
認証書が送付される。
⑤ ISCCによる認証関連書類の検証
監査文書に未記入の箇所がある、もしくは間違いが含まれている場合、 ISCCは認証機関に問い合わせる。
⑥ウェブサイトで ISCC認証書を開示
監査手順のレビュー後、ISCCはウェブサイトで認証組織に関する情報とともに組織の認証書が(PDFで)公開される。
ISCC認証の評価項目
ISCC PLUS認証は以下の6つの基本原則に基づいている。これらの基本原則はそれぞれ生態学的、社会的、経済的、規制的要求事項に言及している。例えば、自然の保護に加えて、労働者の権利の保護や公正な賃金の支払いも審査通過に関係する。
【6つの基本原則】
①高い生物多様性を特徴とする自然地域や、多くの炭素を蓄えることができる自然地域の保護
②土壌の肥沃度を維持したり、水質を保全したり、農薬の使用を減らしたりするなど、「良い」農業慣行の適用
③従業員のトレーニングや適切な防護服の提供などによる、安全な労働環境が維持
⑤適用される法律および規制の遵守
④人権および労働法を遵守、健康を促進する責任ある労働条件を確保
⑥優れた経営手法の遵守
上記の6つの原則のなかでも③、④にもあるように、ISCC認証の評価事項において注目すべきは、環境面の評価のみならず社会面の「人権」も重視されていることである。
経産省が公表した「バイオマス発電燃料の持続可能性に係る第三者認証スキームの追加について」によると、ISCCの、社会・労働項目において、児童労働や強制労働、労働者の健康・安全など、人権デューデリジェンスに関する確認項目が存在していることからも、労働者としての権利を尊重する認証であることがわかる。
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人権デューデリジェンスとは、事業活動の中で人権を侵害するような行為がないか調査して対応することを指す。人権デューデリジェンスは現在大きな注目を集めており、今後、日本でも法制化される可能性もある重要な概念である。その潮流に伴い、ISCC認証の重要性も今後よりいっそう高まることが期待される。
以下は、経産省が公表しているいくつかの第三者認証における確認項目を比較した結果である。
【出典】経済産業省(2020)「バイオマス発電燃料の持続可能性に係る 第三者認証スキームの追加について」p.4
ISCC認証取得企業について
取得企業の傾向(ISCC認証/ISCC PLUS認証)
ISCC認証は日本企業においても取得が進んでいる。
国内では、2022年5月〜2023年5月の2年間で170を超える拠点で認証取得が行われている。
ISCCのホームページを参照すると、SKジオセントリック、生駒化学工業、三井化学、住友化学、PSジャパン、東洋プラスチックス、山陽化学、コバヤシなど、国内でも化学や素材メーカーを中心として取得が進んでいる。
取得のメリットとは
ISCC認証の取得によって得られるメリットには、以下3点が考えられる。
- 外部評価の向上
- バイオマスエネルギーの促進
- 企業価値の向上
①外部評価の向上
本認証の取得は、サプライチェーンマネジメントの格付を行う機関による評価項目として重要性が高まることが期待されている。
その理由はISCC PLUS認証が、サプライチェーンのバイオマス化を推進させるマスバランス方式(物質収支方式)によって認証されるからである。
マスバランス方式は既に、紙やパーム油など多様な業界で適用されている方式である。
この方式はバイオマス原料の割合を認証済みの手法で最終製品に割り当てることで、顧客は自身の意思で、使用原料のバイオマス化を選択することができる。
【出典】ISCCPLUS認証(国際持続可能性カーボン認証)の取得について ニュースリリース 三井化学
そのため、複雑な原料体系・誘導品・サプライチェーンを持つ化学業界にとっても、社会のカーボンニュートラル化に貢献するために必須のアプローチとして取得が広がっていく見通しである。
②バイオマスエネルギーの促進
ISCC認証の普及は、バイオマスエネルギーの促進にもつながると言える。
昨今、国内外で地球温暖化による環境破壊や生態系への影響が大きくなり、気候変動に関する動向が注目を集めている。SDGsの中でも特に、目標12(つくる責任、つかう責任)、目標13(気候変動に具体的な対策を)へのアクションが産業分野に強く要求されている。
特に、産業分野におけるプラスチックの使用は地球温暖化を進展させる大きな一因として挙げられる。
プラスチックは良質で安価な製品の製造に適していることもあり、これまで市場において広く受け入れられ、発展を遂げてきた。
しかしながら、プラスチックによる環境への悪影響などが露出し、懐疑的な目が向けられるようになっている。プラスチックに代表されるように、産業活動を担う製造業にとって解決すべき多くの課題が存在する。
このような現状のもと、日本では、2030年までに約200万トンのバイオマスプラスチック製品を導入する基本計画の策定や、2050年温室効果ガス排出を実質ゼロとする宣言がされている。こうした中で、プラスチックの優位性を保ちつつ、環境配慮も推進できるバイオマスプラスチックへの切り替えが求められているなど、バイオマスエネルギーへの移行もなされつつある。
なお、認証制度には、森林を守る「FSC認証」、チョコレートやカカオの「国際フェアトレード認証」、洗剤やパーム油の「RSPO認証」などが挙げられる。バイオマスの代表的な認証である ISCC(International Sustainability and Carbon Certification:国際持続可能性カーボン認証)もその一例であるといえる。
このように企業による認証の取得は多分野にわたり、拍車がかかっている。ISCC認証の普及がさらに進むことで、企業活動に信頼性が生まれ、バイオマスエネルギーの促進につながるだろう。
③企業価値の向上
バイオマスエネルギーへの移行が進む一方で、企業のサプライチェーンは多様な地域をまたぎ、複雑につながっていることもあり、企業活動が及ぼす影響を可視化することは困難である。そこで、サプライチェーンの不透明性を明らかにするために、企業は第三者機関の認証を受けるケースが多くなるのである。
企業は第三者機関の認証によって、その製品がいつ、どこで、だれによって作られたのかを明らかにするために、原材料の調達から生産、そして消費または廃棄まで追跡可能な状態にする「トレーサビリティ」が保証される。そのため、顧客や消費者に信頼と安心感を与えることができる。また、ステークホルダーからは企業価値として評価される時代である。
取得企業の傾向
素材・化学メーカーにとっては必須
上述したように、 ISCC認証はバイオマス原料を扱う化学業界(素材・化学メーカー)にとって、重要性を増しつつある。
(三井化学)
2021年11月、プライムポリマーとともに、両社の大阪工場(大阪府高石市)において、 ISCC PLUS認証を取得した。
これにより両社は、21年度下期より、大阪工場のナフサクラッカー(エチレンやプロピレンなどを製造するための装置)に投入するバイオマスナフサを原料とする誘導品・製品群を、認証制度に基づいたマスバランス方式によって割り当て、バイオマス化学品及びバイオマス樹脂の販売を開始。バイオマスナフサをナフサクラッカーに投入する試みは日本で初。
(旭化成)
2022年11月には ISCC PLUS認証を複数製品について新たに取得した。
同社グループは、「Care for Earth」の観点から「カーボンニュートラルでサステナブルな世界の実現」を目指しており、バイオマス原料や再生原料、再生可能エネルギーの使用などの取り組みに注力している。認証の取得をはじめ、同社グループは、他社との協働を深化させながら、『中期経営計画 2024 ~Be a Trailblazer~』にもとづき、上記のような特性を有する製品・サービスの提供をより進めることで、社会や顧客からの期待に応えていくと公表。
国内外拠点での取得の広がり
(ブリヂストン)
国内では、2023年9月にブリヂストンが日本国内の4つのタイヤ工場(久留米工場、鳥栖工場、栃木工場、彦根工場)で初めて、ISCC PLUS認証を取得した。
グループ全体では、国内外の12の拠点で既に認証を取得している。同社は「2050年 サステナブルなソリューションカンパニーとして社会価値・顧客価値を持続的に提供している会社へ」をビジョンに掲げている。その下で、独自のサステナビリティビジネスモデルを確立し、製品における再生資源および再生可能資源由来の原材料比率の向上に努めている。
今回の認証取得により、再生資源および再生可能資源の活用を一層進め、サーキュラーエコノミーの実現に貢献する。将来的な目標として、100%サステナブルマテリアル化を掲げ、環境長期目標に向けた取り組みを強化していく意向を表明している。
(出光)
出光は、国外との連携による取得も行なっている。
2023年4月、出光興産の子会社であるIdemitsu SM (Malaysia)とPetrochemicals (Malaysia)が、スチレンモノマー(SM)およびポリスチレン(PS)の製造において、ISCC PLUS認証を取得した。これにより、バイオマス原料を使用した持続可能な製品のサプライチェーンが構築され、東南アジアでのスチレン系バイオマスプラスチックの供給が実現する。
同社からバイオマス原料を供給するほか、シンガポールに所在する子会社とも連携して多様なバイオマス原料の調達とバイオマス製品の販売を行うことで、東南アジアにおけるスチレン系バイオマスプラスチックのサプライチェーン構築を目指す。
さらに、東南アジアにおける安定的なスチレン系バイオマス製品の供給に向け、同社子会社で石油・関連製品のトレーディングを行うIdemitsu International およびIdemitsu Chemicals Southeast のマーケティング力を活用し、多様なバイオマス原料の安定調達とバイオマス製品の製造・販売を行う。
総合商社も取得を進めつつある
化学業界のみならず、総合商社においても取得が進みつつある。
(伊藤忠商事、ファミリーマート、伊藤忠プラスチックス)
2021年6月、日本で初めて、再生可能資源に紐付いたバイオマスポリプロピレン(バイオPP)を利用した食品容器の活用を開始した。
伊藤忠商事は、その他製品へも順次バイオPPを利用した製品ラインナップを今後拡充するなど、バイオPPをはじめとする環境に配慮した素材の具体的な社会実装を進める。
同社は、中期経営計画「Brandnew Deal 2023」の基本方針に『マーケットインによる事業変革』と『「SDGs」への貢献・取組強化』を掲げている。今後バイオマスプラスチック事業分野において、国内外における伊藤忠グループのネットワークを活用し、新たなビジネスモデルを創りあげ世界の持続可能な発展に向けた社会の実現を推進する。
また、ファミリーマートも今後、バイオPPを使用した容器・包材の拡大をはじめ環境に配慮した素材への変更など、サステナビリティ活動を一層進化させている。
なお、伊藤忠プラスチックスは、これまでファミリーマート向けに、サイドシュリンク包装の導入や、原材料フィルムの薄肉化、再生PETを原料とした容器の取扱い拡大の検討等により、石油由来プラスチックの使用量の軽減に取り組んできた。
(双日)
2023年6月8日、本社にて「ISCCPLUS認証」および「ISCCEU認証」を取得したことを発表した。
双日は、サステナビリティへの取り組みを経営の重要課題と位置づけ、2050年に向けた長期ビジョンである「サステナビリティチャレンジ」を策定している。脱炭素社会実現に向け、幅広い環境配慮製品を提供することで化石由来製品からバイオマス由来化学品への転換を進め、低炭素社会・持続可能な国際社会の実現に貢献する。
双日グループ全体では、2023年6月8日時点で以下の拠点で認証を取得している。
拠点 | 取得認証 | スコープ |
双日本社(東京) | ISCCPLUS / EU | Trader |
双日インドネシア会社 | ISCCPLUS / EU | Trader |
双日タイ会社 | ISCCPLUS / EU | Collecting Point / Trader |
双日プラネット (大阪) | ISCCPLUS | Trader |
solvadis distribution gmbh(独) | ISCCPLUS | Trader |
solvadis methanol gmbh(独) | ISCCPLUS | Trader |
chemfidence services gmbh(独 | ISCCPLUS / EU | Trader with Storage |
【出典】双日、国際持続可能性カーボン認証「ISCCPLUS認証」および「ISCCEU認証」を本社にて取得
まとめ
本コラムでは、取得企業が増えつつあるISCC認証 / ISCCPLUS認証について、その概要から、取得のステップ、メリット等についてまとめた。
バイオマスやバイオエネルギーに対する社会的関心への対応が進んでいる現状において、企業のサステナビリティ担当の方は本コラムを参考に認証の種類や特徴を理解し、自社での認証取得のために役立ててもらいたい。また、認証取得には、サプライチェーンでの情報収集が必要になってくるので、日常的にデータ管理を実施しておくとよいだろう。
化学業界や総合商社をはじめとする、複雑なサプライチェーンが絡み合う業界において透明性の向上に大きく寄与できる本認証は、今後さらに普及の一途を辿るだろう。
参考情報(2023年12月現在 取得企業一覧)
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執筆者紹介
竹内 愛子 (ESG Journal 専属ライター) 大手会計事務所にてサステナビリティ推進や統合報告書作成にかかわるアドバイザリー業務に従事を経て、WEBディレクションや企画・サステナビリティ関連記事の執筆に転身。アジアの国際関係学に関する修士号を取得、タイタマサート大学留学。専門はアジア地域での持続可能な発展に関する開発経済学。 |