
※本記事は、ESG Journal編集部が注目のニュースを取り上げ、独自の視点で考察しています。
欧州連合(EU)が推進する「企業持続可能性デューデリジェンス指令(CSDDD)」は、2月に公表されたオムニハバス草案の中でも、その後の議論が活発に行われており注目度の高い規則であろう。現状、加盟国間の対立や政治的駆け引きにより、CSDDDにおいては今後「どうなるのか」不透明さを帯びているといえる。規制の撤回を主張する声と、持続可能性原則の堅持を求める声とが交錯しており、2025年以降の制度運用には大きな転換点が訪れる可能性がある。本稿では、EUにおける現状を整理しつつ日本への影響を考察してみたい。
ドイツ・フランス両国、CSDDD撤回を提唱
2025年5月、ドイツのメルツ首相とフランスのマクロン大統領は、CSDDDの廃止を含む再考を求める共同姿勢を打ち出した。彼らは同指令が企業に過度の法的・事務的負担を課しており、結果としてEU全体の国際競争力を損なうと主張した。
しかしその後、ドイツ政府は「撤回」という姿勢から一歩引き、「合理化」への方向転換を示唆する発言を行った。指令の官僚主義的側面を削減し、企業の実務負荷を軽減する方向で欧州委員会との協議が続けられているという。
デンマーク、持続可能性原則の堅持を明言
ドイツ・フランスの動きに対し、デンマーク政府は即座に反論し、CSDDDの撤回には同意しない意向を表明した。デンマーク産業大臣は「報告義務の簡素化は検討に値するが、企業に人権・環境責任を課す根幹の仕組みは維持されるべき」と語っている。
同国は2025年7月よりEU理事会の議長国を務める予定であり、その立場を活かしながら制度のバランスある修正に取り組むと見られている。
欧州オンブズマン、規制緩和の手続きに疑義
こうした状況の中、オムニバス草案に対し、EUオンブズマンが正式調査を開始した。CSDDDやCSRDなど複数の報告義務を緩和・統合する本案について、市民団体らが「透明性と民主的正統性を欠く」として批判を展開していた。
オンブズマンは、「委員会が本件に関し必要な公開協議や影響評価を経ずに決定した可能性がある」とし、情報開示を求める構えである。
今後の見通しと日本企業への影響
CSDDDは現在の情勢を踏まえれば、全面撤回の可能性は低いが、どのように実現可能な範囲にとどめていくのかが議論の争点になると予想される。具体的には、対象企業のさらなる基準緩和、報告義務の簡素化、制裁措置の調整といった条項が焦点となるだろう。
EU域内で一定規模以上のビジネスを展開する日本企業であっても、制度の適用対象となる可能性が高くない場合もある。しかし、サプライチェーンや事業展開によっては、サプライヤーの立場としてCSDDDに対応する可能性がある。
CSDDDが簡素化されることで、現状以上に「新たに」何か取り組む必要はないかもしれない。しかし、運用状況や実績などのように、取り組みの「質的」な部分では強化が必要になる可能性がある。
引き続き、最新の政策動向を常時モニタリングすることが求められるのに加えて、今後の制度実施に向け、サプライチェーンにおける人権・環境リスクの把握および、デューデリジェンス体制の整備・運用は重要である点は変わらないだろう。
※EU域内売上4.5億ユーロ超の日本企業の適用は2029年からとされている。(2025年4月現在)
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文:竹内愛子(ESG専属ライター)
【参考ページ】EU watchdog launches inquiry into Commission’s easing of green rules