米SEC、気候開示ルールの廃止を提案 ーもう気候開示はしなくてよいのか?ー

5月29日、米証券取引委員会(SEC)は、2024年に採択した「気候関連開示ルールの撤回」を正式に提案した。SECは、同ルールが法定権限の範囲を超えており、従来の「重要性(Materiality)」に基づく開示原則とも整合しないとの考えを示している。今後60日間のパブリックコメントを経て、正式な廃止手続きが進められる見通しとなりそうだ。

SEC気候開示ルールとは

SECは2024年3月、上場企業に対し気候関連リスクや異常気象による財務影響などの開示を求める最終ルールを採択した。このルールは、投資家が企業の気候関連リスクを適切に評価できるようにすることを目的としていた。当初案にはスコープ3排出量の開示義務も含まれていたが、企業負担への懸念などを踏まえ、最終版では削除された。それでも企業や州政府、業界団体などからは「SECの権限を超える規制である」との批判が相次ぎ、採択直後から複数の訴訟が提起された。

この2年間で何が起きたのか

今回の撤回提案は突然の方針転換ではない。SECの気候開示ルールを巡っては、2022年3月に規則案が公表されて以降、賛否が大きく分かれてきた。投資家や一部の市場関係者からは、気候関連情報の透明性向上につながるとして支持する声が上がった一方で、企業や共和党系州政府からは、企業負担の増加や規制権限の逸脱を懸念する声が強まった。

SECは2024年3月に最終ルールを採択したものの、採択直後から提起された訴訟を受け、同年4月には司法判断が下されるまでルールの施行を停止した。その後、2025年3月にはトランプ政権下のSECが法廷でのルール防御を終了する方針を決定。こうした流れの中で、2026年5月、SECはルールの全面撤回を正式に提案した。

気候開示を巡る議論は、この2年間で「企業にどこまで気候情報の開示を求めるべきか」という論点から、「連邦規制当局であるSECにその権限があるのか」という論点へと移っていったといえる。

気候開示は不要になるのか

仮にSECの気候開示ルールが正式に撤回されたとしても、企業が気候関連情報の把握や開示を行う必要性がなくなるわけではない。米国ではカリフォルニア州のSB253およびSB261が存在するほか、欧州ではCSRDの導入が進められている。また、ISSB基準を基礎とした開示制度の整備も各国で進展している。

日本企業にとっては、自社がどの制度の適用対象となり、どのレベルのデータ整備や開示対応が求められるのか整理することが重要である。今回のSECの動きは、気候開示の必要性そのものを否定するものではないものの、「気候開示を誰がどうして求めるのか」という本質的な開示の意義を問うものであると考える。

原文:SEC Proposes Rescission of Climate-Related Disclosure Rules


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