ESRS-TC(旧N-ESRS)ドラフトが示す新たな選択肢──親会社・欧州子会社が今整理すべきこと

7月1日、企業開示ルールの策定機関であるEFRAG(欧州財務報告諮問グループ:European Financial Reporting Advisory Group)は、第三国企業向けサステナビリティ報告基準「ESRS-TC」(ESRS for Third-Country Groups:旧N-ESRS)の公開草案・未承認版を公開した。
Omnibus I(オムニバス法)によるCSRD見直しを受け、第三国企業向けの報告基準にも、Mixed Approach(ミックスアプローチ)や救済措置など、企業負担の軽減を意識した内容が盛り込まれている。
欧州事業を展開する企業は、本社がESRSでグループ全体を開示・報告するのか、それとも欧州子会社がESRS-TC(旧N-ESRS)で対応するのかという戦略そのものを考えるチャンスであると捉えられる。
本稿では、ESRS-TC(旧N-ESRS)ドラフト(7月1日時点)の概要とともに、欧州域外の第三国企業(日本など)が検討すべきポイントについて整理する。
欧州事業がある親会社が最初に考えるべきこと
ESRS-TC(旧N-ESRS)の全容が明らかになりつつある中「自社にはどのような対応が必要なのか」と検討を始める企業も多いのではないだろうか。
報告の対象となる場合は、まず求められる項目を理解することが重要である。さらに、EUにCSRDの対象となるEU子会社(平均従業員数1,000人以上、純売上高4億5,000万ユーロ以上)がある企業では、報告に関する戦略的な判断も重要となる。
親会社がESRSに基づきグループ全体として報告を行うのか、それともESRS-TC(旧N-ESRS)を活用するのかといった選択は、サステナビリティ報告(開示)の全体方針に関わる重要な経営判断となるためである。
戦略によっては、構築すべき体制や収集すべきデータ、親会社とEU子会社の役割分担などが変わる場合もある。欧州の制度対応として求められるサステナビリティ報告(開示)は、実務だけではなく、経営戦略にも影響を及ぼすテーマとなっている。
ESRS-TC(旧N-ESRS)とは
EFRAGの7月の会議において、”N-ESRS(Non-EU:ESRS)”という名称は、”ESRS for Third-Country Groups(ESRS-TC)”という名称に変更されたことが明らかになった。本開示基準の対象となるのは、EU域内に対象となる子会社や支店があり、EU域外に最終親会社を持つ企業である。
ESRSーTCは、基本構造はESRSを踏襲しながらも、現状では第三国企業の実務負担を軽減する方向性が示された。ミックスアプローチ(「EU市場に関連するインパクト」のみに限定して報告することを認める特例措置)などが含まれており、ESRSとは異なる部分を持つことが予定されている。ただし、ESRSーTCの方向性を巡っては、EU企業との競争力への影響やグリーンウオッシングなど、懸念事項が示されており、今後も注視が必要である。
ESRS-TCの特徴は以下のとおりである。
- Mixed Approach(ミックスアプローチ)
- インパクト・マテリアリティを中心とした考え方
- 一部開示項目の救済措置
- 段階的適用
以降、ESRSとESRS-TC(旧N-ESRS)では何が異なるのか、ESRS-TCの解説をしながら、子会社の規模などパターン別にどのような開示戦略が想定されるか解説する。
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続きでは、ESRS-TC(旧N-ESRS)とESRSの違い、親会社・EU子会社それぞれの対応パターンを整理しています。自社の対応方針を検討する際にご活用ください。
・ESRSとESRS-TC(旧N-ESRS)の違い
・親会社がESRSで開示する場合の実務上の意味
・子会社の規模別に見た開示戦略の考え方
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<執筆者>

竹内愛子
国際関係学に関する修士号を取得。総合コンサルティングファームにて、システムおよび戦略コンサルティングに従事した後、Big4ファームのアドバイザリー部門にて、ガバナンス・リスクマネジメントや統合報告に関する企業向け支援に携わる。
2022年より ESG Journal にて、サステナビリティ経営の観点から、情報開示実務やそれを支えるシステム活用をテーマに、オリジナル解説およびホワイトペーパーの執筆を行っている。

