ESGフロントライン:潮流を読む~ESG開示はリスクか? サステナビリティ戦略の分岐点
- 2025/3/10
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- CSRD, ESG, サステナビリティ戦略

※本記事は、ESG Journal編集部が注目のニュースを取り上げ、独自の視点で考察しています。
2025年に入り、環境・社会・ガバナンス(ESG)への取り組みが政策・規制の面で停滞している傾向になりつつある。特に米国では、企業がESGを前面に出すこと自体がリスクと思えるほど、ESGへの取り組みが後退する可能性が出てきた。この変化は、政治的影響、規制の変更、投資家の動向など複数の要因によって引き起こされている。
2025年におけるESGの停滞と米欧の分岐点
米国:ESG後退の顕著化
2024年の大統領選挙でトランプ政権が復帰したことにより、米国の政策はESGから距離を取る方向へと大きく転換した。トランプ政権は、エネルギー規制の緩和やESG投資に対する規制の強化を進めており、企業に対するESG関連のプレッシャーが低減した。一方で、ESGを掲げる企業に対しては、政治的・社会的な反発が強まりつつある。
米国企業の対応: ESGを避ける動き
米国の主要な資産運用会社であるブラックロックやバンガードは、SEC(米国証券取引委員会)の新ガイダンスを受けて、企業とのESG関連の会合を一時停止するなど、慎重な姿勢を取っている。さらに、ステート・ストリートはダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン(DEI)に関する方針を静かに撤回するなど、企業レベルでもESGの明確な後退が進行している。
欧州におけるESGの停滞: 政策の調整と現実路線
簡素化への動き
欧州連合(EU)は依然としてESGに取り組む姿勢を維持しているが、企業の負担を軽減するために規制を見直す動きが見られる。「簡素化オムニバスパッケージ」などの取り組みを通じて、企業の報告義務を削減し、経済競争力を維持することを目的としている。これは、ESG政策が経済成長の妨げになることへの懸念を受けた対応である。
ESGをめぐるEUと米国投資家の対立
2025年に入り、ESGをめぐる投資戦略において、EUと米国の投資家の間で顕著な対立が見られるようになってきた。米国では、トランプ政権の政策変更に伴い、多くの資産運用会社や銀行がESG関連のネットゼロ協定から脱退し、ESG投資への関与を縮小している。一方で、欧州の投資家は依然として持続可能な投資を重視し続けており、The People’s Pensionによる28億ポンドの資金再配分は、その象徴的な動きとなっている。
この対立は、企業の投資戦略にも影響を与えており、米国の資産運用会社は政治的リスクを避けるためにESGの言及を減らしているのに対し、欧州の機関投資家はESG基準を投資判断の重要な要素として維持している。この違いは、持続可能な投資が単なる環境配慮ではなく、政治的な立場や経済戦略と密接に結びついていることを示している。
ESGの概念の変化と今後の展望
現状、ESGという言葉が「武器化」され、政治的な利用の傾向が強まっていると思われる。ESGに関連する取り組み自体を「リスク管理の手法」として捉え直し、環境や社会的要素を財務リスクの一環として分析していくことが望ましいだろう。
また、投資家の視点では、持続可能な投資はESGの枠を超え、「エネルギー転換」や「リスク管理」の観点から再定義されつつある。特に、石油・ガス関連企業への関与を通じて環境負荷を低減させる「トランジション・ファンド」への関心が高まっている。
今後の展望: ESGの行方は?
ESGの停滞は一時的なものなのか、それとも構造的な変化なのか。現在の傾向を見る限り、ESGの概念自体が廃れることは考えにくい。しかし、米国では政治的要因によりESGへの取り組みが企業のリスク要因となる状況が続く可能性が高い。一方、欧州では政策の調整を続けつつ、持続可能な投資を推進するバランスを模索していくことになるだろう。
ESGの未来は、今後の政治・経済情勢に大きく左右されるが、企業や投資家は、短期的な動向に振り回されるのではなく、長期的な視点を持ち続けることが求められる。
文:竹内愛子(ESG専属ライター)
【参考ページ】
https://www.ft.com/content/541c715b-d518-49c3-9838-1cf8d3fb73e5
https://www.ft.com/content/14ee5968-79de-42bf-80a4-811531e80de7
https://www.ft.com/content/533f9322-f098-4b82-823f-a7a8ef9350f1