シンガポール、気候関連開示の義務化を段階的に緩和―スコープ 1・2報告は2025年から維持

8月25日、シンガポールの会計企業規制庁(ACRA)とSGX規制部門(SGX RegCo)は、企業の気候報告対応能力を強化するため、一部の気候関連報告義務の開始時期を延長することを発表した。これにより、特に中小上場企業および非上場大企業(Large NLCos)は、報告体制やデータ収集能力を整備する猶予を得ることとなる。一方で、全上場企業に対しては、スコープ 1および2の温室効果ガス(GHG)排出量報告を2025年度から義務化する方針を堅持しており、脱炭素に向けた企業行動を促す構えだ。

変更後のスケジュールでは、Straits Times Index(STI)構成銘柄企業が先行実施の対象となり、2025年度からスコープ 1・2に加えISSB準拠の開示(その他のCRD)を実施し、スコープ3排出量については2026年度から義務化される。一方で、非STI構成上場企業は時価総額に応じて段階的な適用が設定されており、10億ドル(シンガポールドル)以上の企業は2028年度、10億ドル(シンガポールドル)未満の企業は2030年度からISSBベースの開示を義務化。スコープ 3や外部保証については、それぞれ任意または2030年代に義務化がずれ込む形となる。

非上場の大規模企業(Large NLCos)についても、スコープ 1・2やISSBに基づく開示義務は2030年度、外部保証は2032年度に延期される。この方針変更の背景には、経済環境の不確実性や企業側の準備状況への配慮がある。シンガポール経済開発庁(EDB)およびEnterprise Singaporeが提供する「サステナビリティ報告助成金(SRG)」も、今回の見直しに合わせて申請期限が延長され、企業の能力開発が継続的に支援される体制が整えられている。

ACRAのチーフ・エグゼクティブ、Chia-Tern Huey Minは「気候報告は企業の戦略実行およびステークホルダーへの説明責任に不可欠である。今回の段階的アプローチは、企業の成熟度に応じた柔軟な対応であり、結果として質の高い開示へとつながる」と強調した。SGX RegCo CEOのTan Boon Gin氏も「特にスコープ 1・2は比較的把握しやすい指標であり、これを通じて企業が他の要素への対応力も段階的に高めていける」と述べている。これにより、企業の気候リスク管理能力と報告制度の両立が期待されている。

(原文)Extended timelines for most climate reporting requirements to support companies
(日本語参考訳)企業を支援するため、ほとんどの気候関連報告要件の期限を延長

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