TCFDとSSBJ基準の違いとは?既存開示からの移行と企業の対応を解説

2026年4月より、プライム上場企業(時価総額3兆円以上~)に対してSSBJ基準による開示が順次適用が開始されている。
2029年以降の開示の対象となる企業にとっては、現時点では「まだ準備の猶予がある」と捉えられる場面も少なくないだろう。特に、TCFD提言に基づく開示を実施している企業では、一定の対応が進んでいるとの認識が広がっている場合もある。
今後、SSBJ基準での開示が義務化される前提において、重要となるのは早期に完全性を求めるのではなく、自社の現状を踏まえ、段階的に対応を進めることが現実的であろう。
本稿では、TCFD開示を前提としつつも、どのようにSSBJ基準開示への対応に臨むとよいか、その準備段階を整理する。また、2026年度(前半・後半)において優先的に取り組むべき事項および、実務でそのまま活用できる現実的な整理表や対応ステップも提示する。

TCFDとSSBJ基準の違い

TCFDなど既存のフレームワークに基づき、気候関連の開示を実施していた企業にとって、SSBJ基準での開示はゼロからの対応ではないと言える。ただし、従来の開示の対象範囲を広げるなど、単純に拡張するだけでは、対応が十分とは言えないため、留意が必要だ。
従来の開示との主な違いとは「財務影響との接続」「スコープ3の扱い」「制度開示としての信頼性」の3点である。


財務影響との接続

既存の開示では、シナリオ分析を通じた定性的な説明が中心だったが、SSBJでは、財務情報にどのような影響を与えるか明確に示すことが求められる。単なるリスクの列挙やストーリーの提示にとどまらず、経営判断・投資判断との関連(接続)を開示する必要がある。
例)
売上、コスト、設備投資、資産評価といった財務項目との関係性の整理
シナリオ分析の結果を財務的な影響として説明

スコープ3排出量

スコープ3排出量については、TCFDなどで開示が推奨されていたが必須ではなかった。SSBJ基準では、単に数値だけでなく、算定方法やデータの出所、推計の前提条件について説明可能であることが重要だ。

制度開示としての信頼性(内部統制)

既存の開示においては、開示プロセスについても比較的柔軟な運用が可能であった。一方、SSBJ基準では、制度開示であり、内容の信頼性を担保するための内部統制(承認プロセス・データ収集方法など)が不可欠となる。開示文案の作成と並行して、開示に向けた「業務プロセスの設計と整備」が必要になる。

このように、既存の気候関連開示(TCFD)との差分を踏まえると、SSBJ基準への対応では、開示実務プロセス(進め方)そのものを見直す必要がある。

*TCFDは2023年10月に解散し運営がISSBに移管。以降は、新たに賛同手続きを行うことはできない。

TCFDとSSBJ基準の違い 一覧表

TCFDでの開示が「分析・説明中心の開示」であったのに対し、SSBJ基準における開示は「財務と接続された、制度開示としての信頼性を伴う開示」である。以下、TCFDとSSBJの違いを総合的に整理する。

TCFDとSSBJの違い(概要)

観点TCFDSSBJ基準
サステナビリティの捉え方気候リスク・機会に限定財務影響を伴うサステナビリティ全体(IFRS接続)
義務化任意開示(推奨ベース)有価証券報告書等での制度開示(法定化前提)
ガバナンス(説明 → 実効性の検証へ)構造説明中心役割・監督体制をより具体的に要求(スキル・権限・報酬連動など)
戦略(影響説明 → 財務インパクトへ)シナリオ分析(特に2℃シナリオ)中心(定性的説明でも可)シナリオ分析に加え、移行計画がある場合は開示、財務影響の開示を要求
リスク管理(概要説明 → 実現された明確なプロセスへ)リスク管理プロセスの説明識別プロセスが必須、リスク・機会の識別方法、バリューチェーン範囲の決定など、詳細が決められている
指標・目標(開示 → 測定・管理体系化へ)GHG排出量など主要指標の開示(柔軟)、スコープ3は任意産業別指標(SASB)参照、スコープ1-3詳細定義など、体系的に管理が要求
保証(Assurance)要求なし将来的に保証前提

TCFD開示からSSBJ対応に移行するためのステップ

SSBJ基準への開示対応は、ガバナンスからデータ管理まで多岐にわたる。したがって、段階的に進めることが現実的である。特に2029年以降に適用対象となる企業にとっては、準備期間を複数年に分けて設計することで、過度な負担や手戻りを回避することができるだろう。

以下では、準備プロセスを以下の4つのフェーズに整理する。

  • フェーズ0:現状把握
  • フェーズ1:設計
  • フェーズ2:試行
  • フェーズ3:本番対応

フェーズ0:現状把握

項目todo取り組みのヒント
既存開示棚卸しTCFD開示内容など、既存の気候関連開示を分解・整理定性/定量に分けて開示項目を一覧化する
差分把握SSBJ基準で求められる項目との差分整理特に、財務影響・スコープ3・内部統制など制度として重視されている項目を把握
スコープ3現状の開示有無をカテゴリ別に整理する主要な製品・サービス単位での推計/実測状況、データ源を確認する
財務影響気候関連のリスクを財務に紐づける考え方を把握する一般的に売上・コスト・CAPEXなどに関連
内部統制現状の気候関連のデータの収集、算定、確認、承認、開示フローを整理どのようなデータ源を用いているか/誰が確認しているか、明確にする
報告範囲現状の報告対象範囲(連結対象・開示範囲)を整理する他制度(GX-ETSなど)での報告対象となっているかどうか差分を確認する

フェーズ1:設計

項目todo設計ポイント
既存開示項目活用方針TCFDなど既存の開示情報の活用・追加を整理する何を残し何を足すか、報告範囲を広げるかなど現状整理をまとめ、全社的な共通認識を得る
スコープ3の算定設計主要製品・サービスにおける優先カテゴリを設定し、算定方針決定する客観的なデータ収集が難しい場合にどうするか推計ルールを設定する
財務影響設計リスク・機会の試算ロジックを設計する内部的には勘定科目レベルでの試算をすることを想定してロジックを検討する
データ設計開示情報の収集フローを再定義する既存のデータ収集フローにおいて、誰が・いつ・何を、どの範囲(連結・拠点)でまとめるかを明文化する
内部統制設計職務分掌・チェック態勢を設計する収集されたデータプロセス(作成・レビュー・承認プロセス)など内部監査との連携をはかる
試験アウトプット簡易試算(スコープ1,2,3)を実施する網羅性よりも、事業との重要性を勘案、妥当性を優先(説明可能な状態)

フェーズ0・1が、完了後に試行期間を経て本適用へ備えることが理想的ではあるが、時間的な制約や遅延が想定される場合は、本適用しつつ修正を加えながら進めていくとよいだろう。以下、試行・適用の流れを簡潔に示す。

本格適用にむけた段階(フェーズ2・3)

フェーズ2:試行

  • 設計したスコープ3算定や財務影響試算を実際に運用し、データ収集や前提条件の妥当性を検証する
  • 内部統制やデータ収集プロセスを回しながら、属人化や証跡不足といった実務上の課題を洗い出す
  • 仮開示を通じて、書けない項目や数値の不整合を特定し、本番に向けた改善計画を整理する 

フェーズ3:本番対応

  • スコープ3や財務影響の算定方法を確定し、継続的に説明可能な数値として精緻化する
  • 内部統制を強化し、証跡管理や承認プロセスを含めて制度開示に耐える体制を整備する
  • 他制度との整合を確保したうえで開示内容を確定し、経営レビューを経て最終開示へとつなげる 

まとめ

SSBJ基準の開示への対応は、単に開示項目を追加する作業ではなく、データ、ロジック、業務プロセスを含めた統合的な対応である。そのため、重要となるのは「何をやるか」だけでなく「どの順序で進めるか」である。

2026年は、現状を把握し、設計を固める年である。その上で、試行を経て本番対応へと移行することで、無理のない形で制度開示に対応することが可能となる。

TCFDで築いてきた基盤を活かしつつ、SSBJで求められる水準へと段階的に引き上げていくことが、現実的かつ有効なアプローチである。

参考:サステナビリティ開示基準

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<執筆者>

竹内愛子
国際関係学に関する修士号を取得。総合コンサルティングファームにて、システムおよび戦略コンサルティングに従事した後、Big4ファームのアドバイザリー部門にて、ガバナンス・リスクマネジメントや統合報告に関する企業向け支援に携わる。
2022年より ESG Journal にて、サステナビリティ経営の観点から、情報開示実務やそれを支えるシステム活用をテーマに、オリジナル解説およびホワイトペーパーの執筆を行っている。

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