GPIF 、運用機関が考える「重大な ESG 課題」を発表

GPIF 、運用機関が考える「重大な ESG 課題」を発表

3月10日、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、委託先運用会社の「重大ESG課題」認識の結果を発表した。GPIFはスチュワードシップ活動原則で、運用機関に重大なESG課題について積極的なエンゲージメントを求めている。これを踏まえて、株式および債券の運用を委託している運用機関に、毎年、運用機関が考える重大な ESG 課題を確認している。

株式に関しては、重大な ESG 課題を 2018 年より確認しており、調査は今回で5回目となる。今回、「人権と地域社会」が新たにパッシブ運用機関全社から重大な ESG 課題として挙げられた。欧州各国では現代奴隷法が施行され、人権デューディリジェンスの義務的要請がなされている。その結果、サプライチェーン上の取引先や顧客にあたる企業から人権配慮を要請される事例も見られる。ケースによっては、レピュテーションリスクを超え、より直接的な経済的影響を受けるリスクも高まっており、海外と取引のある日本企業にとっても重要な課題になっていることが窺える。また、人権問題を中心としたS(社会)課題をテーマにエンゲージメントを行う協働エンゲージメント「Advance」も昨年12月に発足し、投資家側の意識も高まっている状態である。

また、今回の調査では、新たに、アクティブ運用機関全社が「気候変動」及び「資本効率」を重大な課題として捉えている。この結果、「気候変動」は、パッシブ、アクティブ問わず国内株式運用機関全社が重大な課題と認識していることが分かった。一方、「情報開示」と「気候変動」以外は、パッシブ運用機関とアクティブ運用機関で重大と考える課題が異なっており、アクティブ運用機関は、「取締役会構成・評価」、「少数株主保護(政策保有等)」、「資本効率」といった G(ガバナンス)の課題をより重大な ESG課題と認識し、パッシブ運用機関は「ダイバーシティ」、「サプライチェーン」、「不祥事」などの E(環境)や S(社会)を含め幅広く、長期的な課題を重大な ESG 課題と認識していることはこれまでと同様である。

昨年からの変化として、外国株式パッシブ運用機関全社が、「人権と地域社会」、「健康と安全」、「生物多様性」、「森林伐採」、「その他(ガバナンス)」の5つについても重大なESG課題として認識していることが分かった。「人権と地域社会」が選ばれているのは国内株式パッシブと同様だが、「生物多様性」や「森林伐採」など気候変動にも密接に関わっているE(環境)の課題も全社から挙げられているのが今回の特徴である。2021年6月に自然資本及び生物多様性に関するリスクや機会を適切に評価、開示するための枠組みを構築するために、TNFD(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures:自然関連財務情報開示タスクフォース)が発足したことも影響している。

債券に関しては、社債投資家として考える重大な ESG 課題を2020年より確認しており、調査は今回で3回目となる。国内債券運用機関は全社が3年連続で「情報開示」を重大な課題として挙げている。「情報開示」については、上記の通り、国内株式運用機関の全社が重大な課題として挙げており、資産を問わず、引き続き、運用機関が日本企業にとって重大な課題と考えていることが分かる。

【参照ページ】
GPIF の運用機関が考える「重大な ESG 課題」

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