
7月23日、米証券取引委員会(SEC)のキャロライン・クレンショー委員は企業に気候変動関連の情報開示を義務付ける新規則をめぐる訴訟で、SECが裁判所に提出した状況報告書を「全く応答になっていない」と断じ、委員会執行部の姿勢を厳しく批判する声明を発表した。同氏は、委員会が規則を事実上骨抜きにする意図を隠し、司法に判断を丸投げしようとしていると指摘しており、SEC内の深刻な意見対立が浮き彫りとなった。
発端となったのは、SECが2024年3月に採択した「気候関連情報開示規則」。この規則の差し止めを求める訴訟で、連邦第8巡回区控訴裁判所は今年4月、SECに対し「規則を見直す意向はあるか」「訴えが退けられた場合、規則を遵守するつもりか」といった点について、3ヶ月以内に報告するよう命じていた。
これに対しSECが23日に提出した公式の状況報告書は、「現時点では規則を再検討する意図はない」と述べるにとどまった。将来の計画については「政策決定を予断することになる」として明確な回答を避けた。
クレンショー委員はこの報告書について、「裁判所の問いに全く答えていない、不誠実なものだ」と声明で一蹴。「この委員会における口に出されない真実は、答えが『ノー』(規則を遵守しない)だということだ」と断言した。
同氏によれば、現在の委員4人のうち3人が同規則の批判者であり、すでに訴訟における規則の弁護からも手を引いているという。その上で、「委員会は、気候関連情報開示規則を発効させる意図は全くない。その真実を自ら語りたくないだけだ」と内情を暴露した。
さらに同氏は、委員会が規則を撤回したいのであれば、行政手続法に則り、意見公募や経済分析といった正規の手続きを踏むべきだと主張。「委員会は、その困難な仕事を避け、我々が自ら担うべき重荷を裁判所に肩代わりさせようとしている。これは優れたガバナンスとは言えず、司法制度への冒涜だ」と厳しく非難した。
最後に、「委員会は裁判所の命令を事実上無視し、ボールを投げ返した。裁判所はこのような駆け引きに応じるべきではない」と述べ、声明を締めくくった。SECは、重要政策をめぐって司法からだけでなく、内部からもその正当性を問われる異例の事態に直面している。
(原文)Statement on the Commission’s Status Report in the Climate-Related Disclosure Rules Litigation