【解説】温対法(SHK制度)とSSBJ基準での開示の調整はどうなるか?SSBJの実務対応案の論点と企業が備えるべきポイント

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サステナビリティ基準委員会(SSBJ)は2026年1月に、「地球温暖化対策の推進に関する法律」(温対法)における「温室効果ガス排出量の算定・報告・公表制度」(SHK制度)の算定・報告値を用いて、SSBJ「気候基準」(SSBJ基準)を開示する場合の実務対応を明確化するよう、「温対法におけるSHK制度の定める方法により測定し報告する温室効果ガス排出を用いて『気候基準』の定めに従う場合の測定及び開示(案)」(SSBJ実務対応案)を公開し、2026年3月25日までコメントを募集している。

本稿では、SSBJ基準での開示とSHK制度の整合性について実務上どこで解釈が分かれているのか、SSBJが1月に公開した実務対応案の主要ポイントを解説し、企業が今からでもできる準備を実務目線で整理する。

この記事で分かること

・「SHK制度×SSBJ気候基準」で見解が分かれている3つの争点
・SSBJ実務対応案で示された方向性
・今から企業が準備できる開示準備のポイント

| SSBJが実務対応基準を公開した背景

温対法のSHK制度で算定・報告された温室効果ガスの排出(GHG排出)を用いて、SSBJ基準の「気候基準」に従った測定・開示を行う際、以下の論点①〜③について、国内企業の間で異なる解釈が生じている。このズレの背景には、SSBJ基準の要求事項が必ずしも明確ではないことが考えられる。こうした実務上の解釈の相違は、企業間の比較可能性を損なうおそれがある。

このズレを解決するために、SHK制度に沿って測定・報告したGHG排出データをSSBJ開示で使う際の具体的な実務対応案「サステナビリティ開⽰実務対応基準・公開草案第 1 号」が公開され、確定した場合、当該基準はSSBJ基準を構成することになる。

| 実務で見解が分かれた論点

①GHG排出量(基礎排出量・調整後排出量)

SSBJ基準では、SHK制度の方法で測定・報告する排出量を開示する場合、基礎排出量と調整後排出量のいずれを使うべきかは明記されていない。そのため、SSBJ基準での開示では基礎排出量と調整後排出量のどちらを“基礎”として用いるのかが争点となっている。どちらを採用するかで、数値の連続性(前年差)や他社比較の前提が変わり得るため、投資家にとっての比較可能性にも影響する。

②ロケーション基準の利用

SHK制度では、間接排出の活動量について、環境省・経済産業省が公表する平均排出係数を用いてロケーション基準で算定できる。他方、SSBJ基準の要件を示す「第49項」のただし書きでは、GHGプロトコル以外の排出測定方法が法域当局や取引所に要求されている場合、その方法を使用できると定めているが、SHK制度のロケーション基準はそれに該当するかどうかが明記されていない。該当しないと解釈する場合、SSBJ基準で求められるロケーション基準を満たすために、別の算定や追加対応が必要になる、という実務上の解釈につながりやすい。

③マーケット基準の活動量

SHK 制度では、マーケット基準によるGHG排出の報告は要求されているものの、ロケーション基準での報告は要求されていない。そのため、SSBJ開示でロケーション基準を報告しようとしたとき、前提となる活動量が一致していないと比較可能性がなくなると考えられる。

|SSBJの実務対応案のポイント

基礎排出量を優先

SSBJ実務対応案では、基礎排出量の方が、調整後排出量よりもGHGプロトコル(2004年)との親和性が高いことから、GHG排出量の測定および開示にあたっては基礎排出量を基礎として用いることを求めている。同時に、調整後排出量の開示は参考情報として任意に基礎排出量とあわせて開示することができる。

マーケット基準はSHK制度準拠、ロケーション基準は係数で補完

SSBJ実務対応案は、スコープ1についてはSHK制度に基づく直接排出(燃料使用など)を、スコープ2のマーケット基準についてはSHK制度に基づく間接排出(購入電力・熱など)を用いて測定・開示する考え方を示している。

一方、スコープ2のロケーション基準については、SHK制度で測定する活動量に国が公表する平均排出係数を乗じて算定することで、制度間のギャップを埋める整理を提案している。

なお、ロケーション基準の算定アプローチは、GHGプロトコル(2004年)とは異なる方法で測定した排出量となる。そのため、他のサステナビリティ開示基準で別の要求がある場合は、当該要求に従う必要がある点に留意したい。

適用開始は2027年度以降

SSBJ実務対応案が決定された場合、SSBJ基準を構成することになるため、SSBJ基準での開示スタートに合わせて2027年3月31日以降に終了する年次報告期間に係る開示から適用し、合わせて任意の早期適用も認める。また、前報告期間に既にSHK制度に従って測定・報告したGHG排出を用いて開示していた企業については、実務上不可能な場合を除き、初年度適用時に「前報告期間からSSBJ実務対応案を適用していたもの」とみなして、比較情報を更新することを求める。

SSBJ基準の全体像を今一度再確認するならこちらの記事!

| 開示準備のポイント

① 係数・証書・活動量のトレーサビリティ

ロケーション基準で活用する平均係数を含め、係数の版管理と根拠、活動量の出所(推計方法など)を年度ごとに記録できているかを確認したい。マーケット基準で用いる証書・契約についても、裏付け資料も引き続き管理し、年次比較が可能な形で整理しておきたい。

②報告期間ズレの調整ルールを「説明可能」に

SHK制度の算定期間とSSBJ基準の報告期間が異なる場合、SHK制度に沿って測定・報告したGHG排出は、SSBJ基準の報告期間に合わせるように調整する方向性が示されているため、このルールが決定された場合に備え、期間調整の仕組み化など、システムを活用して、毎年、担当者が変わっても再現可能にしておきたい。

③比較情報の要求に備える

SSBJ実務対応案にある初年度適用時の比較情報の提供が確定した場合、前年の活動量、利用した係数、調整のロジックなどを記録し、再計算ができる形で残すことが重要となる。更新を想定したデータ管理は、変わり続ける非財務情報開示への対応に今後も必要と考えられる。

制度対応から情報開示の高度化に向けて

今回のSSBJ実務対応案のように、今後も、解釈が分かれやすいSSBJ開示項目に対して実務対応が提示される可能性は否定できない。こうした制度対応を着実に進めることは、単なる基準準拠にとどまらず、投資家に対して開示の信頼性や説明可能性を示すことにもつながる。

投資家に最終的に評価されるのは、その都度の辻褄合わせではなく、今後も進化し得る非財務情報開示の変化に耐えられること、そして、どのような開示基準の下でもデータの説明可能性と継続性を担保できる開示運用だ。その打ち手の一つとして考えられるのは、サステナビリティ開示の変化に適応できるデータ管理と開示の仕組みづくりだ。

まとめ

サステナビリティ情報開示は、毎年の頑張りだけで回そうとするほど、担当チームの負担が大きくなる。だからこそ、仕組みで回る状態を作れば、本来、力を注ぐべき「サステナビリティの取り組みの計画・実践」にエネルギーを振り向けられるチームの基盤にもなる。

参考情報:SSBJ:コメントの募集及び本公開草案の概要 SSBJ:サステナビリティ開示実務対応基準公開草案第 1 号 「温対法における SHK 制度の定める方法により測定 し報告する温室効果ガス排出を用いて「気候基準」 の定めに従う場合の測定及び開示(案)」 

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GHGプロトコルの改定案が公表されています。自社の開示において重要なスタンダードであり、SSBJ基準においても算定方法を参照することが求められています。GHGプロトコルに基づく対応について詳しく知りたい場合は、解説記事をご参照ください!

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<執筆者

マルティネス リリアナ(ESGJournalスペシャリストライター)
サステナビリティ学修士。シンクタンクにて、海洋・大気環境分野を中心とした環境政策・制度検討支援(調査・分析)に従事。また、国際海事機関(IMO)における海洋環境関連条約の技術・政策議論にTechnical Advisorとして参画した経験を持つ。その後、 Big4 ファームにて、気候変動、ネイチャー課題を中心とした企業向けアドバイザリー業務に従事。現在は 非財務情報開示フレームワークからサステナビリティを巡る国際動向まで、企業実務の視点からオリジナル解説およびホワイトペーパーを執筆。

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