GPIFとESGの歴史を紐解く!日本でのESG投資を加速させた世界最大級の公的年金機関とは

こんにちは!ESG Journal Japan編集部です!

皆さんESG投資を学ぶ中で一度は聞いたことがあるであろう「GPIF」について本日は取り上げたいと思います。今まではGPIFについて巨大な公的年金機関としてのイメージしか持っていない方も多かったと思いますが、日本でESG投資が活発化したのはGPIFの動きに拠る所が非常に大きく、本コラムではその歴史も紐解きながらESGとGPIFの関係性について分かりやすく解説したいと思います。

GPIFとは

GPIF(Global Pension Investment Fund)は、厚生年金保険など国民年金の給付の財源となる年金積立金の管理・運用を行う独立行政法人であり、運用・管理収益を国に収めることで年金事業の運営に貢献しています。1961年に設立された年金福祉事業団が始まりとなりますが、2011年に厚生労働大臣から寄託された年金資産の運用を開始し、2015年には年金積立金管理運用独立行政法人として、これらの業務を担う最大の機関となりました。

7月2日に公表した2020年度の業務概況書によると、2021年3月末の運用資産学は186兆1624億円と、世界でも最大級の公的年金機関であり、あらかじめ定められた基本ポートフォリオを基準として、許容された一定の乖離幅の範囲で各資産を運用しています。

基本ポートフォリオの考え方|年金積立金管理運用独立行政法人

また新型コロナウイルスの感染拡大に対応した財政出動や金融緩和を背景に、2020年度の運用収益はプラス25.15%の37兆7986億円と、市場運用を開始した01年度以降で最高となっています。

GPIF、運用収益率が過去最高に。ESG指数に連動した運用額は昨年から倍増 – ESG JournalGPIF、運用収益率が過去最高に。ESG指数に連動した運用額は昨年から倍増

GPIFによるPRIへの署名とESG投資の加速

世界で見ても最大規模の公的年金機関がこれまでどのようにESGと関わってきたのでしょうか。GPIFは2015年3月に投資原則を改定し、株式投資においてスチュワードシップ責任を果たし、被保険者のために長期的な投資収益の拡大化を図ることを目的として、同年9月に国連が提唱する責任原則(PRI)に加盟しました。

PRIについて

PRIの詳細に関しては「ESGインテグレーションとは?」という記事において解説しているので、こちらもご覧頂ければと思いますが、GPIFが2015年9月に署名したことから大きな注目を集め、順調に加盟機関数が増えており、現在では世界で4,000機関超、うち日本では90機関がPRIに加盟しています。

PRIが4,000人の署名者を達成、セクターや地域を超えてESG投資への関心が高まる – ESG JournalPRIが4,000人の署名者を達成、セクターや地域を超えてESG投資への関心が高まる

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出所:PRI公式HP

またPRI事務局は、PRI署名機関が持続可能な金融システムを構築するために、各種情報、トレーニング、他の署名機関や研究者等との共同機会の提供等を行っています。また署名機関は、署名して1年経過後からレポーティングの義務が発生し、評価を受ける形式となっています。

GPIFがESGへの取り組みを強化した背景

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出所:GPIF公式HP

GPIFはPRI加盟後の2017年、投資原則を改定し株式投資を対象としたスチュワードシップ責任に関する活動を全ての資産に拡大することを決めました。その具体的な活動として、ESGを考慮した取り組みを明記したのです。

GPIFがESGへの取り組みを強化した背景には、GPIF公式HPでも記載があるように、GPIFが年金資金を運用するという「超長期投資家」であり、かつその多額の運用資産を株式・債券市場を始めとした多くの市場に投資している「ユニバーサルオーナー」であるからです。

こうした特色を持つGPIFが長期にわたって投資収益を獲得するためには、個別企業や政府の活動に寄る負の外部性(環境・社会問題等)を最小化し、市場全体・社会が持続的かつ安定的に成長することが不可欠であるという考え方が根底にあります。

ESG投資|年金積立金管理運用独立行政法人

また2017年以降、GPIFはスチュワードシップ活動原則と議決権行使原則を制定し、運用受託機関に対して議決権行使を含むスチュワードシップ活動に対して求める原則等を明確にしました。そして運用受託機関におけるスチュワードシップ活動の取組状況を自らモニタリングし、運用受託機関と積極的な対話(エンゲージメント)を実施しています。

同時に、国内株式については2017年に2つのESG総合指数と1つの女性活躍指数を選定し、2018年には気候変動問題に関連したESG評価指数を導入するなど、5つの指数に基づくパッシブ運用を開始しました。次章では本ESG指数の詳細について紹介します。

GPIFが採用しているESG指数一覧

GPIFはが現在採用している5つのESG指数(総合型2つ、特定のテーマ型3つ)の詳細は以下の通りです。国内外の指数会社や運用会社からの公募によるプロセスを経て採用に至っているこれらの指数ですが、評価ポイントとしては、①指数会社がESGの観点から設けた基準に沿って評価が高い銘柄を組み入れたり、組み入れ比率を高める「ポジティブ・スクリーニング」を用いているか、②評価手法の改善のために、評価結果や評価手法を指数会社が開示しているか、③ESG評価会社自体のガバナンス・利益相反管理がしっかりしているか、④評価対象ユニバースが可能な限り広いか、といった所が選定の基準となっているようです。

GPIF「グローバル環境株式指数を選定しました

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出所:GPIF公式HP

1. FTSE Blossom Japan Index

・ESG指数としては世界でも有数の歴史を持つFTSEの指数シリーズFTSE4Good Japan Indexの業種ウエイトを中立化したESG総合型指数
・企業との対話(エンゲージメント)において有用な国際基準に則った明確なESG評価軸を用いつつ、日本企業に対応

2. MSCI ジャパン ESGセレクト・リーダーズ指数

・世界で1,000社以上が利用するMSCIのESGリサーチに基づいて構築し、様々なESGリスクを包括的に市場ポートフォリオに反映したESG総合型指数
・ESG投資は、気候変動や人口動態の変化等、ユニバーサル・オーナーの長期的リターンに甚大な影響を与える様々なリスクに備えるが、その基本形となる指数。

3. MSCI日本株女性活躍指数(WIN)

・女性活躍推進法により開示される女性雇用に関するデータに基づき、多面的に性別多様性スコアを算出、各業種から性別多様性スコアの高い企業を選別して指数を構築
・「時価総額×総合スコア」で加重。総合スコア:業種調整後性別多様性スコア×業種調整後クォリティ・スコア

4. S&P/JPXカーボン・エフィシエント指数(日本株・外国株)

① 同業種内で炭素効率性が高い企業と二酸化炭素排出量など温室効果ガス排出に関する情報開示を行っている企業の投資ウエイト(比重)を高めている
② 業種毎の環境負荷の大きさに応じて、①による投資ウエイトの格差を調整(環境負荷の大きい業種程、炭素効率性の改善や情報開示のインセンティブが大きくなる仕組み)
③ S&P/JPX カーボン・エフィシェント指数の採用対象は、東証1部上場企業全社(一部の低流動性銘柄等を除く)であり、一般的なESG指数に比べて、幅広い企業が対象

出所:GPIF

ESG指数のパフォーマンスについて(「2019年度ESG活動報告」より)

実際にこれらの指数を用いたリターンを始めとするパフォーマンスはどのような結果となっているのでしょうか。2020年8月に出された「2019年度ESG活動報告」を見てみましょう。

まず、総合型の「FTSE Blossom Japan Index」は、2017年4月から20年3月までの年平均収益率が0.10%で、同期間のTOPIXの▲0.14%に対して0.24%の超過収益率になった。同様に、総合型の「MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数」は年平均収益率が1.99%であり、TOPIXに対し2.13%の超過収益率となりました。社会(S)のうち女性活躍に着目した「MSCI日本株女性活躍指数(WIN)」は、年平均2.24%の収益率でTOPIXに対して2.38%の超過収益率となっています。

また、「S&P/JPXカーボン・エフィシエント指数」は、2017年4月から2020年3月までの年平均収益率は0.10%で、同期間のTOPIXに対し0.24%の超過収益率。グローバル環境株式指数では、1.28%でMSCI ACWI(除く日本)の同0.92%に対し0.36%の超過収益率になっています。

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全ての指標がTOPIXやMSCI対比アウトパフォームしているものの、3年間という短期の結果であるため、長期的な検証が必要であるとGPIFは述べています。来月8月にも「2020年度ESG活動報告」が公表されるとみられているため、こちらの最新結果についても公表され次第お伝えします。

GPIFのESG指数に全て採用されている企業(抜粋)

高いパフォーマンスを出しているこれらのESG指数全てに採用されている日本企業はあるのでしょうか。ESG指数への採用は投資家や外部への重要なアピールとなるため、多くの企業が目標としているGPIF ESG指数への組み入れですが、4つのESG指数全てに組み入れられているいくつかの代表的な企業を紹介します。

花王

花王は先日6月28日、全てのESG指数の構成銘柄に継続採用されたことを公表しました。花王はESG指数への取り組みが国内でもトップクラスに優れており、安定して採用されています。

花王、GPIFが選定する全てのESG指数の構成銘柄に継続採用|週刊粧業オンライン

伊藤忠

伊藤忠商事もESGへの優れた取り組みが評価され、総合商社の中では唯一4指数全てに組み入れられています。伊藤忠商事のESGへの取り組みに関しては別記事でも取り上げていますので、是非ご覧ください。

【ESG 企業分析①】運用機関からの評価はNo.1!伊藤忠商事のESGへの取り組み

リコー

リコーも4つのESG指数に安定的に組み入れられています。リコーに関してはGPIFが採用するESG指数ではなく、Dow JonesのESG指数に組み入れられるかどうかを目標の一つにしており、役員報酬を決める要素の一つにもなっています。こちらに関しては以下の記事でもまとめていますので、お時間ある方は是非ご覧下さい。

【ESG 企業分析③】ESG指標と賞与が連動!リコーの徹底したESG取り組み姿勢

最後に

ESGとGPIFの関係について本コラムを通して皆様の理解は進みましたでしょうか。GPIFのESG指数に連動した2020年度の株式運用は10.6兆円と、前年度の5.7兆円からほぼ2倍に増加していますが、同時に日本におけるESG投資や日本企業のESG情報開示も加速しています。GPIFがESG投資や企業に与えるインパクトは非常に大きいため、今後もその動向から目が離せません。

また別記事では、GPIFが採用していない指数も含めたESG指数も別記事にて簡単にまとめているので、お時間ある方は是非ご覧ください。

GPIFも採用する「ESG指数」とは? – ESG JournalGPIFが採用する「ESG指数」とは?

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次回も上場企業のESG開示やESGの最新トレンドについて、詳しく紹介していきたいと思います。

よろしくお願いします!

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