1月23日、欧州中央銀行(ECB)が発表した新たな調査によると、欧州の銀行の大多数が、気候変動に伴う重大なリスクに直面しており、「驚異的な90%」が、融資残高が世界的な気候変動目標やEUの2050年気候変動中立目標に見合っていないことが判明した。
ECBは新しい調査において、ユーロ圏の融資の75%をカバーする95行の与信ポートフォリオの移行リスクを、「アライメント評価」手法を使って定量化した。本調査では、電力、自動車、石油・ガス、鉄鋼、石炭、セメントなど、移行リスクが最も顕著な6つの主要炭素集約セクターの企業を調査した。
調査によると、評価対象となった95行のうち、2050年のネット・ゼロの道筋に沿った融資を行っていたのはわずか8行で、「90%もの銀行が融資を見誤り、移行リスクを高めている」という。リスク上昇の主な根本的要因は、高炭素生産設備の段階的廃止が遅すぎる企業への融資や、再生可能エネルギー生産の立ち遅れに起因している。
報告書で強調されたリスクのうち、風評リスクと訴訟リスクが最も多く、約70%の銀行が影響を受けている。報告書は、95行のうち72行がネット・ゼロの達成に向けたコミットメントを表明しているものの、そのうちの93%は、この目標を達成するための道筋がまだ定まっておらず、戦略や内部プロセスが「現在のところ、外部コミットメントを確実に履行できるものではない」と指摘している。
信用リスクはそれほど顕著ではなく、10億ユーロ(約1,585億円)未満のミスアライメント・エクスポージャーを示す銀行が60行あった一方、50億ユーロ(約7,930億円)を超えるエクスポージャーを持つ銀行が数行(14%)あり、その中には100億ユーロ(1.5兆円)を超える銀行も6行あった。さらに、本調査では、ミスアラインメントが急速に拡大する可能性があり、ミスアラインメントを起こした取引先に対するエクスポージャーは、これらの企業に対する与信枠が完全に利用された場合、50%以上拡大する見込みであることが判明した。さらに、今回の調査で最もミスアラインメントが生じた銀行の中には、普通株式Tier1(CET1)資本と比較して相対的に高いエクスポージャーを持つ銀行もあり、これらの銀行が気候変動リスクから支払能力に影響を受ける可能性があることが示された。
本報告書で明らかになった銀行の移行リスク の主要因は、銀行がミスアラインメントを起こした企 業に多額の融資を行う傾向があり、それが大きな エクスポージャーにつながっていることで、ミスアライン メントを起こした企業へのエクスポージャーの平均 規模は、アラインメントを起こした企業の2倍以 上であった。
セクターごとのミスアラインメントの程度は大きく異なり、銀行が最もミスアラインメントしているのは、移行経路が早いセクターであり、IEAの2050年ネット・ゼロ・エミッション(NZE)シナリオに従った脱炭素化への移行に時間がかかる鉄鋼やセメントなど、現在実行可能なゼロ・エミッション代替案がないセクターとのミスアラインメントは小さい。例えば、自動車セクターへの融資ポートフォリオでは、シナリオが2050年までに化石燃料自動車を段階的に廃止することを想定しているにもかかわらず、銀行が融資している企業の多くが電気自動車生産へのシフトに遅れをとっており、ずれの程度が非常に高いことが示された。しかし、全体としては、鉄鋼を除くすべてのセクターで、ほぼすべての銀行がミスアラインメントを起こしていた。
報告書はまた、気候変動に対する銀行のポートフォリオの整合性に及ぼす技術の影響についても評価し、銀行のミスアラインメントの大部分は、炭素集約型技術の生産から段階的に撤退するのが遅れている企業から生じていることを明らかにした。特に、石炭、石油、ガスの採掘・抽出から段階的に撤退するのが遅れている企業や、内燃機関から段階的に撤退するのが遅れている自動車企業から生じている。さらに、特に電力部門において、再生可能エネルギー源への資金不足が30%以上のズレを生んだ。
【参照ページ】
(原文)EU Policy. Banks show ‘staggering’ misalignment with green transition, ECB says
(日本語参考訳)EUの政策 ECB、銀行はグリーン転換に「驚異的な」ズレを示していると指摘