GRIが労働関連基準の改定案を公表ー労働者の権利を企業責任の中核に

12月10日、企業の説明責任において労働者の権利をより重視する動きが国際的に加速している。サステナビリティ報告の国際基準を策定するグローバル・レポーティング・イニシアティブ(GRI)は労働者の権利と保護に関する基準の改定案を公表し、パブリックコメント(意見募集)を開始した。期間は2026年3月9日まで。
今回の意見募集は、国際人権デーに合わせて開始されたもので、GRIが進めてきた労働関連開示基準の包括的な見直しの最終段階にあたる。対象となるのは、①取引関係における労働者(GRI 414)、②強制労働(GRI 409)、③児童労働(GRI 408)、④結社の自由および団体交渉(GRI 407)の4つのトピック別基準だ。
改定の背景には、世界各地で続く労働市場の構造的課題がある。労働者の貧困、インフォーマル労働の拡大、根強いジェンダー不平等、児童労働や強制労働の解消の遅れなどが依然として深刻であり、企業に対しては自社のみならずバリューチェーン全体における負の影響への対応が強く求められている。
公表された草案では、人権デューデリジェンスのプロセス、インシデント報告、苦情処理メカニズム、労働者代表とのエンゲージメントなど、労働者の権利と労働条件に関する開示内容が大幅に拡充された。企業活動や取引関係全体を対象とする方針や評価に関する新たな開示項目も盛り込まれ、問題発生時の予防、是正、救済措置に関する報告要件が強化されている。
GRIのハロルド・パウウェルス基準ディレクターは「労働者の権利の尊重は、責任ある企業活動を標榜する組織にとって譲れない前提だ。改定基準は、企業が労働に関する影響やリスクをどのように特定し、労働者を巻き込み、事業活動やバリューチェーン全体で改善を進めているかについて、より明確な期待値を示すものになる」と述べ、幅広い意見提出を呼びかけている。
GRIの労働プロジェクトは4段階で進められており、これまでに雇用条件、キャリア形成、インクルージョンと機会均等に関する基準について意見募集が行われてきた。今回の「労働者の権利と保護」に関する協議は、その最終段階となる。
なお、改定案は国連「ビジネスと人権に関する指導原則」や国際労働機関(ILO)の三者宣言、OECD多国籍企業行動指針など、国際的な政府間文書を踏まえて策定された。基準の作成には、労働者、使用者、労働組合を代表する三者構成の技術委員会と、多様な関係者からなる諮問グループが関与している。
(関連解説記事)GRI労働関連基準の改訂状況と人的資本開示との対応関係を解説
(原文)Putting workers’ rights at the heart of corporate accountability
(日本語参考訳)労働者の権利を企業の説明責任の中心に据える

