8月7日、Fitchグループのサステナビリティに特化したアナリティクス・ビジネスであるSustainable Fitchの新レポートによると、グリーンボンドやサステナビリティボンドの発行体は、物理的な気候変動リスクに対処するための資金を必要としているにもかかわらず、発行資金を主に気候変動関連プロジェクトに振り向け、気候適応策よりも排出削減のための気候緩和策に偏って注力している。
本レポートでは、Sustainable FitchのESG格付けサービスにより格付けされたグリーン、ソーシャル、サステナビリティ、サステナビリティ連動型ラベル債について、グリーンおよびソーシャル・インパクトへの資金使途の貢献度、プロジェクトやターゲット選定の透明性と野心度に焦点を当てて調査した。
本調査では、ほとんどの発行体が債券の資金使途に対 して高得点を獲得しており、プロジェクトやターゲットの選定における透明性や野心度への貢献度から、通常UoP(資金使途)のスコアは「1」または「2」、つまり「優」または「良」と なっている。しかし、資本集約的で気候変動緩和に焦点を当てたプロジェクトに偏っていることから、汚染防止、雇用創出、気候変動への適応など、資金が不足している活動もあることが示唆された。
グリーンボンドでは、気候変動緩和のカテゴリーが資金使途の多くを占めており、UoPカテゴリーでは再生可能エネルギーが全体の27%と最も多く、次いでエネルギー効率が22%、クリーン輸送とグリーンビルディングがそれぞれ16%となっている。地域別では、脱炭素化に対する規制の圧力が低いにもかかわらず、米国の発行体が再生可能エネルギーのUoPを最も多く持っている。報告書はまた、再生可能エネルギーUoPを持つ米国の発行体の大半が地域の電力会社である一方、EUのいくつかの国には再生可能エネルギーUoPを持つ銀行が多数あり、エネルギー部門に提供されるグリーンローンを資金が支えていると指摘している。
サステナビリティ・ボンドは、調達資金を社会活動と環境活動のミックスに使用することができるが、グリーンUoPが63%を占め、グリーンビルディングが最も一般的なUoPであった。また、ソーシャルが37%を占め、社会的カテゴリーとしては、マイノリティが所有する中小企業への融資など、社会経済的エンパワーメント活動が最も一般的であった。
グリーンボンド、サステナビリティボンド、サステナビリティ・リンク・ボンドでは、気候変動に焦点を当てたものが主流であったが、本レポートでは、再生可能エネルギー、グリーンビルディング、クリーンな交通機関といった気候変動緩和活動に重点を置いたものが多いことが示されている。また、国連環境計画による推定では、気候変動への適応にかかる年間コストは、2030年までに1,600億ドル(約23兆円)から3,400億ドル(約49兆円)に達するとされているにもかかわらず、気候変動への適応に明確に焦点を当てたUoPを持つ債券はほとんどなかった。
ソーシャル・ボンドに最も多く選ばれているUoPカテゴリーは、手頃な価格の住宅で30%、社会経済的進歩で同じく30%、手頃な価格の基礎インフラで26%、最も少なかったのは食料安全保障でわずか1%だった。
報告書が指摘したサステナブル・ボンドの質に影響を与える重要な問題のひとつは、既存プロジェクトに対して、インパクトへの付加性が最も高い新規プロジェクトに特別に割り当てられる資金が指定されていないことである。報告書によると、90%の債券が調達資金の1%から24%しか新規プロジェクトに割り当てていないか、新規と既存の情報を開示していなかった。
【参照ページ】
Sustainable Fitch: Bonds Use of Proceeds Could Focus More on New Projects, Best Practices