
7月22日、科学的根拠に基づく目標設定を推進する国際イニシアチブ「SBTi」は、金融機関が2050年までのネットゼロ(温室効果ガス排出量実質ゼロ)目標に整合した事業活動を行うための新たな基準「金融機関向けネットゼロ基準」を策定し、発表した。金融機関に特化した科学的根拠に基づくネットゼロ基準はこれが初めてとなる。
新基準は、銀行、資産運用会社、プライベートエクイティ企業などの金融機関に対し、その投融資や保険、資本市場での活動を、地球の気温上昇を抑制し2050年までにネットゼロを達成するという世界的な目標に整合させるための、明確で実行可能な指針を提供するもの。
金融機関はこの基準に沿って目標を設定することで、気候変動に対する強靭性を高め、投資家などステークホルダーからの期待に応えることができる。同時に、気候関連リスクを管理し、脱炭素化に伴う新たな事業機会を捉えることで、ネットゼロ経済への移行を主導する立場を確立することが期待される。
特に新基準は、金融機関がポートフォリオ(投融資先全体)のネットゼロへの整合性を高めることを重視している。短期的には、排出量の多いセクターの脱炭素化を支援したり、ポートフォリオ全体で気候変動対策に整合した金融活動の割合を増やしたりすることを奨励。金融機関が持つ影響力を通じて、実社会における脱炭素化を加速させる触媒的な役割を果たすことを可能にする。
新基準の主な特徴として、①幅広い資産クラスをカバー、②排出量データの質と透明性の向上を要求、③建築環境の脱炭素化に関するガイダンスの提供、などが挙げられる。また、金融機関が直面する特有の課題にも対応しており、森林破壊リスクへの対応や、化石燃料産業への新規の金融・保険サービスを段階的に停止するための明確な手順とタイムラインの設定も盛り込まれた。
この基準は、30以上の金融機関による試験運用や、NGO、学術界、産業界の専門家からの幅広い意見を取り入れて策定された。すでに世界6大陸の約135の金融機関が、この新基準に沿ったネットゼロ目標を設定することを約束しており、市場の強い関心を集めている。
SBTiの最高技術責任者であるアルベルト・カリージョ・ピネダ氏は、「金融機関はネットゼロへの移行において、変革をもたらす役割を担う能力を持っている。その世界経済への影響力は、ネットゼロへの移行を加速させる上で比類なきものだ。この堅牢で科学的な基準は、世界中の金融機関が変革を推進する助けとなるだろう」とコメントした。
(原文)The SBTi opens net-zero standard for finance industry
(日本語参考訳)SBTiが金融業界にネットゼロ基準を導入