テレビ業界に人権軽視の懸念、国際NGOの調査で浮き彫り
- 2025/6/13
- 国内, 国内ニュース
- 人権デューデリジェンス

6月3日、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ(HRN)は、日本のテレビ局における人権への取り組みに関するアンケート調査の結果を公表した。本調査は、旧ジャニーズ問題やフジテレビ問題など、メディア・エンターテインメント業界における人権侵害が国内外で問題視される中、各局の人権尊重への意識と実態を明らかにする目的で実施された。調査報告からは、人権方針の策定は進むものの、その実効性には依然として課題が多いことが浮き彫りになった 。
HRNは2025年2月から3月にかけて、在京・関西の主要テレビキー局10社に対しアンケートを送付した。その結果、NHK、日本テレビ、TBS、毎日放送、フジテレビ、テレビ朝日、朝日放送テレビの7社が回答。一方、読売テレビと関西テレビは回答を辞退し、テレビ東京は未回答であった。HRNは、回答を寄せなかった3社に対し、極めて遺憾であると表明している。
調査結果からは、回答した7社のうちNHKを除くほとんどの局で「人権方針の策定」「人権デューディリジェンス(人権DD)の実施」「グリーバンス・メカニズム(被害相談・救済窓口)の構築」が進められていることが示された。特にフジテレビは、第三者委員会の調査報告を受け、改善への具体的な取り組みを示している。
しかし、HRNは「人権方針が『絵に描いた餅』になってしまうリスクは依然として大きい」と指摘している。NHKは、国連ビジネスと人権に関する指導原則が求める人権方針の策定、人権DDの実施、グリーバンス・メカニズムの構築のいずれも実施しているとは評価できず、他のテレビ局と比較しても著しく不十分な内容であった。また、多くのテレビ局が人権DDを実施していると回答したものの、その内容は部分的で、結果の公開も限定的であることが明らかになった。特に、直接の取引先を超えたバリューチェーン全体での人権DDを実施していると回答したのは毎日放送の1社のみであった。
出演者との契約においては、優越的な地位の濫用を防ぐ対策が不十分であることが浮き彫りになった。例えば、「契約を書面で行わない」ことを禁止している局は1社のみで、「自由を制約する違約金その他の制裁」などを明確に禁止している局も少数にとどまっている。旧ジャニーズ性加害問題を踏まえた具体的な再発防止策は、どの企業も踏み込んだ内容になっておらず、バリューチェーン全体での児童労働根絶に向けた対応も不十分であると指摘されている。
セクシュアルハラスメントや性的加害への対応については、全テレビ局が迅速かつ適切な対応が実施されていると回答したが、フジテレビやTBSの過去の事例と矛盾する点が指摘されている。また、懇親会における女性社員の同行慣行を否定する回答が多かったものの、各社の調査結果とは相違する可能性も示唆された。
グリーバンス・メカニズムがウェブサイトで公開されていない、またはプロセスに関する説明が不十分な局があるほか、独立した第三者によって運営されていると回答したのはTBSのみであった。
HRNは今回の調査結果を受けて、テレビ局に対し18項目にわたる勧告を行っている。特に、「経営トップが人権尊重・コンプライアンスを重要な経営・ガバナンスの課題と位置づけ、指導的役割を果たすこと」、「バリューチェーン全体を視野に入れた人権への取り組みを行うこと」、「公正取引委員会が指摘する人権問題について芸能事務所・プロダクションに実態調査を行い、是正措置を講じること」などを強く求めている。
また、民放連に対しては、業界横断のグリーバンス・メカニズムの設置と運用を推奨しており、回答した在京民放キー局4社(テレビ朝日、TBS、フジテレビ、日本テレビ)がこれに賛成していることは注目に値する。HRNは、テレビ業界が「社会の『公器』として、人権を促進する役割を積極的に果たす」ことの重要性を強調しており、今回の調査報告が、日本のテレビ業界における人権課題解決への具体的な一歩となることが期待される。