【2026年版】CDPの海洋質問にどう回答する?今年の海洋開示の実務ポイントとは

2026年のCDP質問書に海洋(Ocean)が追加された。気候変動、水セキュリティ、森林(フォレスト)に次ぐ4つ目のネイチャー領域として、TNFDとの整合の中で海洋トピックが質問群として組み込まれている。
回答期限(9月)までは、時間があるものの、今年はアップデートが多く、具体的な対応方法や自社の海洋との接点を十分に理解できているか、不安を抱える実務担当者も多いだろう。
本記事では、海洋の追加質問に自主回答(オプトイン)するにあたって、全業種の実務担当者が押さえるべき初動ポイントを整理する。

CDP海洋(Ocean)とは?2026年に追加された目的と背景

TNFDとの整合性

CDPは過去数年にわたり、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)との整合性向上を進めてきた。TNFDは自然を陸・淡水・海洋・大気の4領域に整理しているが、CDP質問書ではこれまで海洋が独立した論点として扱われることはなかった。2026年の追加は、CDPがネイチャー全領域を組み込む方向へ踏み出した動きと位置付けられる。

市場からのデータ需要

CDPによると、44の金融機関への聞き取り調査において、そのほとんどが「海洋」に関する信頼性の高いデータの不足を指摘したという。海洋関連リスクと機会を投資判断に組み込みたい金融機関にとって、現状のデータギャップは大きな障壁となっている。

他フレームワークからの影響

国連環境計画金融イニシアチブ(UNEP FI)やOcean Investment Protocolなどのイニシアチブも、持続可能なブルーエコノミーに関する意思決定に必要な海洋関連データを整備しており、金融機関と企業に対して「海洋経済」への依存・インパクト・リスクと機会の開示を促している。CDPの海洋トピック追加は、こうした外部フレームワークの動向からの影響も受けていると捉えられる。

2026年の海洋質問、3つの押さえどころ

2026年の海洋質問は実務担当者にとって何を意味するか。以下の表で初年度の押さえどころを整理する。

押さえどころ概要
①自主的回答・スコアリング対象外2026年は全企業が海洋関連の情報開示に自主的回答を行うことが可能。回答自体は採点対象外だが、高インパクトセクターおよび海洋への重大な依存・影響を持つ組織は強く推奨される
②既存モジュールへの「分散統合」海洋は独立モジュールではなく、既存6モジュール(M1, M2, M3, M4, M5, M13)に統合される形で出現する
③ 「海洋との接点」の特定海洋関連の依存・影響・リスク・機会は、海上に直接操業を持つ業種に限らず、サプライチェーン全体を通じて全業種に関連しうる

以下、各ポイントの詳細と、回答準備における実務上の留意点を整理する。

①自主回答・採点対象外はどう捉えるべきか

今年のコーポレート完全版質問書では、海洋関連情報の開示はスコアリング対象外となっている。ただし、これは「準備期間」に過ぎず、2027年度以降にスコアリング対象になる可能性も想定できる。実務上の含意は「採点されないから様子見でいい」ではなく、「採点される前年に体制を構築するリハーサルの年」と捉える方が現実的だろう。

実務上のポイント:ギャップ分析の機会として捉える

具体的な回答準備のコツとしては、まず質問書設定時の「環境課題評価」セクションで海洋を選択し、たとえ「重大な依存・インパクト・リスク・機会を特定していない(No)」と回答する場合でも、実際の質問項目に一度目を通しておくことが有効である。これにより、来年スコアリングが始まった際に「どのデータが手元になく、どの部署に取りに行く必要があるか」を事前に棚卸しできる。

また、漁業・養殖業、海運、海洋エネルギーなどのブルーエコノミー主要セクターに該当する組織は、データ利用者の関心が特に高いとCDPが明言している。初年度から部分的にでも回答し、投資家向けのコミュニケーション材料として活用することを検討したい。

なお、海洋関連の回答を開始しても、提出前に辞退してもスコアには影響しないため、まずは「書ける範囲で書いてみる」ことのリスクは小さいだろう。

②質問はどのモジュールに、どう統合されるか

海洋質問は独立した「海洋モジュール」を持たない。この設計の理由はCDPガイダンスなどに明示されていないが、既存のガバナンス・戦略フレームの中に海洋論点を組み込む構造になっている点は、回答準備の進め方に影響する。具体的な統合先は以下のとおり。

M1(イントロダクション):海洋関連の事業範囲

M2(依存・インパクト・リスク・機会の特定):DIRO評価のプロセスと優先地域

M3(リスクと機会の開示):組織に重大な影響を与えることが見込まれる海洋関連リスク・機会

M4(ガバナンス):取締役会レベルの監督、経営層が負う責任、環境方針、協働イニシアチブへの加盟・支援、政策・法律・規制に影響を及ぼす活動

M5(事業戦略):戦略・財務計画への影響、サプライチェーンエンゲージメント、海洋関連の目標の設定・モニタリング・実行

M13(追加情報・最終承認):第三者検証

実務上のポイント:既存の情報収集ワークフローへの組み込み

設計上、海洋の回答準備は既存の気候・水回答プロセスの中に海洋論点を組み込んでいく作業になると考えられる。そのため、各モジュールの既存担当者(取締役会対応、リスク評価担当、サプライチェーン担当など)が、既存のデータに加え、海洋関連情報も収集・整理する必要があるだろう。CDP回答担当者は、関連部門と連携しながら、既存のワークフローや情報管理体制に「海洋データ」も組み込めるよう更新しておきたい。

③海洋との接点、自社のどこが該当するのか

CDP海洋(Ocean)とは何ですか。2026年に追加された目的と背景を教えてください。

CDP海洋は2026年に追加されたネイチャー領域の質問群で、海洋トピックを正式に取り込むことでネイチャー全領域の開示を強化する取り組みです。背景として、海洋に関するデータ需要の高まりと、UNEP FIなどの外部フレームワーク動向への対応が挙げられ、気候変動・水セキュリティ・森林と並ぶ新たな領域として位置づけられました。

5つの接点パターン

CDPおよびTNFDの想定する海洋接点は、海運業や水産業に限らない。サプライチェーン全体を視野に入れると、以下の5パターンに整理できる。

接点パターン概要
海洋資源依存型原材料が海洋由来。水産・農林業、食料品(海産物原料)など
海上物流依存型調達・販売が海上輸送前提。海運業、卸売業、輸送用機器など
製造・排出接点型排水・化学物質・副産物管理。化学、繊維製品、鉄鋼など
使用・廃棄起点型製品使用・廃棄段階での海洋流出。小売業、食料品、繊維など
インフラ・沿岸立地型沿岸・港湾・海底インフラへの依存。電気・ガス業(沿岸設備・洋上風力)、情報・通信業(海底ケーブル)、建設業、不動産業など

また、UNCTADによれば国際貿易の90%が海上輸送で行われていることを踏まえば、ほぼ全ての製造業・小売業がいずれかのパターンに該当する可能性が高い。

実務上のポイント:海洋特有の「リスク特定」の難しさ

TNFDの海洋関連課題の測定に関するディスカッションペーパー(TNFD:Discussion paper on measurement of ocean-related issues)によると海洋リスクの把握には陸上とは異なる以下の制約があるとされている:

  • 海洋での活動は固定された敷地や境界を持たず移動性が高い
  • 実際の自然へのインパクトの把握には表層だけでなく深さを含むデータが必要
  • 沿岸部に比べ公海・深海の自然データがそもそも不足している

これらの制約を踏まえ、TNFDは推計値・プロキシ指標・モデルデータの使用を認めている。実務担当者にとっては、初年度から完全な網羅性を目指すのではなく、把握できている範囲と把握できていない範囲を区別したうえで、説明可能性を優先する姿勢が現実的だろう。IBAT(Integrated Biodiversity Assessment Tool)、Global Fishing WatchAllen Coral Atlasなど、TNFDが海洋関連の依存・インパクト把握に関するツールとして紹介している外部データソースの活用も、段階的に検討する価値がある。

まずはサプライチェーン上の海洋接点の棚卸しから

実務的な第一歩としては、上記5パターンに自社活動が該当するかを確認することから始めたい。特に原材料調達・海上物流・製品廃棄段階の3点は、自社の直接操業から離れているため見落とされやすい。調達部門・物流部門・製品開発部門など、サステナビリティ担当以外の部署からのヒアリングが有効だろう。

CDP海洋(Ocean)に関するQ&A

自社の海洋との接点はどのように整理すればよいですか?

海運・水産だけでなく、原材料調達、海上物流、製造・排出、製品使用・廃棄、沿岸インフラなど、サプライチェーン全体で海洋との関わりを整理することが重要です。調達部門や物流部門などへのヒアリングも有効です。

CDP海洋(Ocean)とは何ですか?

CDP海洋は2026年に追加されたネイチャー領域の質問群で、海洋トピックを正式に取り込むことでネイチャー全領域の開示を強化する取り組みです。背景として、海洋に関するデータ需要の高まりと、UNEP FIなどの外部フレームワーク動向への対応が挙げられ、気候変動・水セキュリティ・森林と並ぶ新たな領域として位置づけられました。

TNFDとの整合性はCDP海洋追加にどう影響しますか?

TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)との整合性を図る動きの中で、CDPは海洋トピックをネイチャー領域に組み込みました。TNFDが陸・淡水・海洋・大気の4領域で整理しているのに対し、CDPは既存の質問構成へ海洋の観点を統合する形で整合性を進めています。

参考情報:CDP2026開示サイクル – CDPCDP2026情報開 示サイクルに向けた準備TNFD: Discussion paper on measurement of ocean-related issuesUNCTAD: Over 90% of global trade now depends on finance, reshaping opportunities and deepening vulnerabilities

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マルティネス リリアナ(ESGJournalスペシャリストライター)
サステナビリティ学修士。シンクタンクにて、海洋・大気環境分野を中心とした環境政策・制度検討支援(調査・分析)に従事。また、国際海事機関(IMO)における海洋環境関連条約の技術・政策議論にTechnical Advisorとして参画した経験を持つ。その後、 Big4 ファームにて、気候変動、ネイチャー課題を中心とした企業向けアドバイザリー業務に従事。現在は 非財務情報開示フレームワークからサステナビリティを巡る国際動向まで、企業実務の視点からオリジナル解説およびホワイトペーパーを執筆。

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