企業の“実力値”を可視化するCSR調査――東洋経済が語る調査の価値と活用法

本記事は、ESG Journal編集部が、不定期にサステナビリティ経営の最前線の情報をインタビュー形式でお届けするインタビュー記事です。

SSBJ基準への対応、有価証券報告書や統合報告書の作成、さらにはESG評価機関や各種調査への回答など、サステナビリティ情報や非財務情報の開示に関する業務負荷は年々高まっています。さらに、気候変動リスクの高まりなどを背景に、サステナビリティへの対応そのものが経営戦略の中核を担うようになり、情報開示の重要性も一層増しています。

東洋経済新報社は、20年以上にわたり「CSR調査」を実施してきました。この調査は、単なる評価やランキングのためではなく、企業の実態を可視化し、多様なステークホルダーへ届けるための情報基盤として発展してきました。

本インタビューでは、重要性が増す非財務情報開示において、CSR調査が果たす役割や企業にとっての価値についてお話を伺いました。前半では、CSR調査の概要・東洋経済新報社が蓄積してきたデータの特徴を紹介します。後半では、CSR調査を経営戦略や社内変革につなげるための考え方や活用法についてについてひも解きます。

<お話いただいた方>
村山 颯志郎:東洋経済『CSR企業総覧』編集長
2018年東洋経済新報社入社。以来各種企業調査に携わる。非財務情報分析サービス「ESGオンライン」データ編集、『外資系企業総覧』編集を経て、『CSR企業総覧』編集部として企業調査・評価を担当。2023年より現職。。


| 開示の重要性が高まる中でCSR調査が果たす役割とは

Q. 大企業中心にSSBJ基準の義務化で制度開示が重くなる中、さらに任意の調査にまで対応する現場はかなり疲弊しているのではないでしょうか。

A. その実感は私たちも強く持っています。いま担当部署には、SSBJ基準などの制度開示対応、統合報告書などの任意開示、ESG評価機関や我々のような調査機関への対応という3つの業務が同時に降りかかっていると聞きます。これらが並行するため、データの重複・不整合、業務の属人化といった「管理」の問題が各所で顕在化しているほか、従来からの社内浸透といった推進役も変わらず果たさなければなりません。

また、我々の調査データを見ても、担当部署の名称が「CSR」「総務」などから「サステナビリティ」「経営企画」へとシフトしており、経営の中枢に近いところで非財務情報を扱うようになっていることがわかります。期待も負荷も高まっているわけです。 また、2020年頃からサステナビリティ専任部署を設置した企業では、ちょうど担当者の入れ替わりが起きているところで、業務の引き継ぎなどを喫緊の課題としている会社も多い印象です。

Q. 負担が増える中で、東洋経済「CSR調査」に答える「価値」はどこにあるのでしょうか。

A. まずここで強調したいのは、私たちの「CSR調査」の一義的な目的は、「報道」としてCSR・サステナビリティ情報を発信することにある点です。特定の企業や投資家の立場に偏ることなく、中立的な立場から、マルチステークホルダーに向けて、業種・規模を問わず共通の調査票で情報を継続的に収集しています。そして、その結果を毎年『CSR企業総覧』として世の中に公開してきました。これらは、時系列で横並び比較が可能な情報として、多くの読者・ユーザーにご利用いただいています。

これは、投資家向けのスコア・評価提供とは性格が異なります。私たちが企業から協力をいただいて20年以上蓄積してきたのは、個別具体的な基礎データです。もちろん、このデータは結果的に投資家にも活用されていますが、出発点はあくまで中立な報道にあります。

私たちは、この調査を「イメージではない、本当の実力値」を知るための判断材料にしていただきたいと考えています。立派なスローガンや洗練されたデザインがつくる「印象」ではなく、女性管理職比率はどの程度か、有給休暇の取得率はどうか、内部通報の窓口は整っているか――そうした事実の積み重ねこそが、企業のありのままの姿、「実力値」です。

また、「情報がない」ことは中立ではありません。開示がなければ、多くの枠組みで事実上「取り組んでいない」と見なされる可能性が高いでしょう。開示に後ろ向きな姿勢そのものが、対話の入り口を閉ざしてしまうことになりかねません。

| 多様なステークホルダーに届く情報基盤としてのCSR調査

Q. 投資家向けのデータとしても機能しているとのことですが、他のESGデータと比較した際の、東洋経済ならではの強みについても詳しく教えてください。

A. 最大の強みは、2005年以来20年以上積み上げてきた「パネルデータ(定点観測データ)」であることです。同じ設計思想に基づき、全上場企業などを対象に毎年継続調査を行っているため、単年のスナップショットではなく、時系列で「変化」を追うことができます。自社や業界で各指標がどう動いてきたかが分かる、日本最大級かつほぼ唯一の存在です。

このデータは幅広く活用されており、例えば、従業員のキャリア構築に積極的な企業を組み入れた株価インデックス(プラチナ・キャリアインデックス)や、企業の無形資産価値に着目したファンドスコアなどの基データとして採用されています。また2026年4月には、データを多角的に分析・発信する「東洋経済データラボ」を新たに立ち上げ、海外機関投資家などに向けてもオルタナティブデータの活用を発信しています。

出所:東洋経済データラボ

Q. そもそも、この調査票はどのように作られているのでしょうか。

A. 我々は外部の意見を取り入れることを重視してきました。毎年の調査・評価説明会や、ご回答企業との個別質問会を通じて、回答企業の声を聞きながら設問を磨いてきました。「この設問は実態に合わない」「この論点が抜けている」といったご指摘が翌年の調査票に反映され、現在の形があります。20年以上にわたる企業とのコミュニケーションの積み重ねこそが、私たちにとって大きな財産といえます。

Q. ここまで投資家の視点が中心でしたが、CSR調査の価値は投資家以外にも広がるのでしょうか。

A. SSBJにせよ有価証券報告書にせよ、想定される第一のユーザーは投資家です。それ自体は当然ですが、近年は企業の開示が投資家や評価機関に偏りつつある印象があります。これは私たちメディアの責任でもありますが、一般の方々のサステナビリティへの関心と、企業の認識の間に差が開きつつあるようにも感じます。

企業のステークホルダーは投資家だけではありません。従業員、就活生・求職者、取引先、地域社会――多様な相手に届く開示があってこそ、長期的には真に企業価値が向上するのではないでしょうか。特にサステナビリティへの取り組みは、採用競争力や従業員エンゲージメント向上にも直結します。

 私たちが調査を基に毎年作成している「CSR企業ランキング」は、『週刊東洋経済』や東洋経済オンラインでも展開しており、サステナビリティの専門家だけでなく、ビジネスパーソンや就活生など多様な読者・ユーザーにわかりやすい形で情報を届けています。学生向けには、全国の主要大学などに導入されている「東洋経済デジタル・コンテンツ・ライブラリー」を通じても活用されています。CSR調査は、投資家以外のステークホルダーにもまとめて訴求できる、数少ないチャネルといえるでしょう。

| CSR調査をどのようにサステナビリティ経営に活用するか

Q. 現場では「回答作業」に追われがちです。これを「経営戦略」に変えるには、どう発想すればよいでしょうか。

A. 調査・評価機関を「集合知」として使う3ステップの思考法をおすすめしています。 

  • STEP1;「理解する」
    各機関の項目は、社会が企業に求めるリスクと機会の「集合知」です。新設・変更された設問は社会の関心が動いた証拠なので、項目の「変遷」をチェックします。 
  • STEP2:「フィルタリング」
    しかし、すべての調査・項目を追うのは不可能です。事業上の重要度やリスクという自社の「ものさし」で取り組むべき項目を絞り込みます。多くの調査に共通している項目は、それだけ社会の要請が強いという目安にもなります。 
  • STEP3:「集約する」
    絞り込んだ指標をKPIとしてまとめ、対応業務をPDCAに組み込みます。

この3ステップを回すと、回答プロセスそのものが社内各部署を巻き込むツールになります。

Q. リソースが限られる企業は、何から優先すべきでしょうか。

A. まず「把握できている情報から確実に発信する」ことです。実態としては取り組んでいるのに、社内で情報を把握していないために回答できていないケースは多いと思います。

そのうえで、自社の優先度と社会的要請の両面から優先順位をつけます。内部通報窓口やリスク・危機管理体制といったガバナンスの基礎、男性の育児休業取得や有給休暇取得率といった人材項目は、優先度と要請いずれも高い要素です。最初から「完璧で満点」を狙うのではなく、まず自社の現在地を提示し、それを継続して開示していくことで改善のストーリーを形作る——そうした発想が重要だと思っています。

| 最後にメッセージ

Q. 生成AIの活用も話題です。調査機関として、どう向き合っていますか。

A. 私たちは、生成AIなどの技術は積極的に取り入れつつ、不正確な情報の発信や調査のブラックボックス化は避ける、というのが基本方針です。信頼できる中立的な情報・データを社会に提供するという役割は、決して揺るがせにしません。

そのうえで、私たちはメディアとして、企業の取り組みを広く発信することで、社会全体のCSR・サステナビリティへの関心そのものを喚起していきたいと考えています。企業から集めた知見を分かりやすく届け、開示の質、ひいては実際の取り組みの底上げに寄与していきたいと考えています。

Q. 最後に、初めて回答する企業へのサポートと、担当者へのエールをお願いします。

A. 初めての方は、いきなり全項目に答える必要はありません。総合調査の抜粋版である「基礎調査」も用意しています。調査・評価に関する疑問点やご意見については、回答企業限定ではありますが、我々と直接意見交換ができる「個別質問会」もぜひご活用ください。2016年に開始して以来、これまで延べ400社以上(2026年3月時点)と開催してきました。

最後に、担当者の皆さんにお伝えしたいのは、見せ方の技術だけで読み手・ユーザーを振り向かせるのは難しい、ということです。土台になるのは、語れるだけの「地力」――地道な取り組みの積み重ねだと感じています。「完璧でないと開示できない」と身構える必要はありません。改善のプロセスを定点で見せること自体が、立派なストーリーになります。

回答という作業はどうしても負荷がかかりますが、自社を棚卸しし、強みと弱みを言語化するための有意義な機会ととらえていただきたいと思います。我々も、ご回答いただいた後、振り返りや次なる改善に活用いただける資料やフィードバックの拡充をさらに進めてまいります。20年以上積み上げてきた調査の一員として、ご参加いただけることを願っています。

なお、統合報告書などで情報を「伝わる開示」にするための構成の型や、AI時代を見据えた誌面設計などの”見せ方”の工夫については、先日開催したセミナーで具体的に解説しています。本記事でお伝えした戦略的な情報整理とあわせて、ぜひアーカイブもご覧ください。

東洋経済 第22回CSR調査(2026年)調査案内ページ
東洋経済 第22回CSR調査(2026年)ご回答企業向け説明会

編集:ESG Journal編集部


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