【前編】熊本宣言後、企業に求められるネイチャー開示とは?自然目標設定を担うSBTNの位置づけ

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7月14〜15日、熊本で開かれた第2回グローバル・ネイチャーポジティブ・サミットには27の国・地域から2,700名を超える企業・金融・自治体のリーダーが集まった。ビジネスと金融のセクターに向けて、ネイチャーポジティブ目標に沿った行動の加速を求める声が、会期を通じて前面に押し出された。

サミットの成果として採択されたのが「熊本宣言」である。2030年までに生物多様性の損失を止め、反転させるという目標に向けて、政府・企業・金融を含む社会全体での行動加速を求める内容で、企業・金融機関41社を含む計85組織が賛同した。

>>>詳しいニュース記事はこちら:熊本宣言を採択 グローバル・ネイチャーポジティブ・サミット、企業・金融機関の参画拡大 – ESG Journal

賛同企業にはイオン、日本航空、三井物産、積水ハウス、セブン&アイ・ホールディングスなど日本の大手が並ぶ。

賛同は広がったものの、求められる行動をどの水準の目標に落とし込むかは、各社の判断に委ねられている。

本コラムでは、ネイチャー関連の目標設定を担うSBTN(Science Based Targets Network)の位置づけと、気候の目標設定とは異なる自然目標の特性を整理する。

なぜ今、ネイチャー開示が進んでいるのか?

熊本宣言が見据えているのは、10月にアルメニアで開かれるCBD COP17である。宣言は、企業の影響と依存、そして自然の状態を測るための、標準化された指標と手法の重要性を強調した。政府・規制当局・企業・金融機関がその土台で動くよう求めるとともに、自然関連の評価・目標設定・移行計画・企業報告について、国際的に一貫した基準に基づくアプローチへ市場全体を整合させることを呼びかけている。

ネイチャー開示の制度化も動き出している。ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)は、TNFDを土台とした自然関連開示の基準案(Exposure Draft)を、CBD COP17に合わせて2026年10月までに公表することを目指している。これは新設の基準という形はとらず、IFRS S1を補完する実務記述書として設計される見通しだ。

国内企業がネイチャー開示の次に問われるのは何か?

この流れで、気候変動に比べれば定着が遅い「ネイチャー開示」は、国内でも注目が一気に高まっている。ステークホルダーからは自然関連の開示を求められ、取引先から自然関連の情報提供を依頼されるサイクルが、既に始まっている国内企業が少なくないだろう。

その中で、現状把握と取り組みに続いて問われるのは「目標設定」だ。気候領域のSBTiと同様の仕組みで、目標設定の手法はSBTNが開発し、目標の認定は独立機関のAccountability Acceleratorが担っている。

「SBTN」とは何か?

SBTNは、企業が自然に対する科学に基づく目標(Science Based Targets for Nature、以下ネイチャーSBTs)を設定するための枠組みを開発している国際的なネットワークである。気候領域のSBTiと並ぶ存在として、淡水・土地・海洋といった自然の領域(realm)を対象に、目標設定の方法論と検証の仕組みを提供している。

SBTNの問題意識としては、地球温暖化を1.5℃に抑えるという世界的な目標は、自然の損失を食い止めなければ達成できず、気候と自然は一体のものとして取り組む必要がある、というものだ。SBTNは、気候と自然を切り離せないものとし、企業が科学に基づく自然目標を設定するための手法と、その認定要件づくりに取り組んでいる

勢いは着実に増している。SBTNを通じて目標設定を準備する企業は世界で150社を超え、うち44社が次の一手を表明する「Ambition Board」に掲載されている(2026年6月時点)。その中には、中外製薬、カナデビア、キリンホールディングスの日本企業3社の名もある。

ネイチャー目標設定は、気候変動の目標設定と何が違うのか?

気候の目標設定と自然関連の目標設定の最大の違いは、「総量」か「場所」かにある。温室効果ガスは、どこで排出されても大気全体で均される。ゆえにCO2という単一の指標を、グローバルな総量として削減目標に落とし込むことができる。

自然はそうはいかない。同じ取水量であっても、水が豊かな流域と枯渇しつつある流域とでは、生態系への圧力の意味が大きく異なる。たとえば淡水の目標であれば、流域ごとに設定され、各流域の基準圧力と最大許容圧力の差として定義される。このように自然の目標は、場所を特定して初めて成り立つといえる。

この「場所依存(location-specific)」という性質が、このコラムの後編で解説するように、目標設定の実務上の課題の一つとなる。

まとめ

場所を特定して初めて成り立つという自然目標の性質は、実務の負荷にも直結する。総量で語れる気候目標と違い、自然目標では、どの拠点が、どの流域が、どの調達地が対象になるのかを一つずつ確かめる工程が避けられない。熊本サミットが行動の加速を求めた背景にも、この工程に時間を要するという現実があるとみられる。

その工程を標準化したものが、SBTNの5つのステップである。評価から追跡までの流れは公開されているものの、実際に手をつけた企業からは、データが揃わない、優先順位が現場の実感と合わない、そもそも産地まで追えない、といった声が上がっている。

こうした声にどう備えるかが、次の論点になる。後編では、SBTNの5つのステップの中身と、パイロット参加企業が直面した課題、そしてこれから着手する企業が押さえておきたい実務ポイントを解説する。

参考情報:

Nature Positive Initiative(NPI): Record private sector participation in Global Nature Positive Summit highlights importance of nature to business、朝日新聞:ネイチャーポジティブのサミット閉幕、「熊本宣言」で企業の行動促す、IUCN: 熊本宣言ーグローバルネイチャーポジティブサミット2026にて、熊本宣言が出されました、IFRS財団: ISSB agrees on the proposed way forward for nature-related disclosures、SBTN: Ambition Board、Accountability Accelerator: Validation

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<執筆者

マルティネス リリアナ(ESGJournalスペシャリストライター)
サステナビリティ学修士。シンクタンクにて、海洋・大気環境分野を中心とした環境政策・制度検討支援(調査・分析)に従事。また、国際海事機関(IMO)における海洋環境関連条約の技術・政策議論にTechnical Advisorとして参画した経験を持つ。その後、 Big4 ファームにて、気候変動、ネイチャー課題を中心とした企業向けアドバイザリー業務に従事。現在は 非財務情報開示フレームワークからサステナビリティを巡る国際動向まで、企業実務の視点からオリジナル解説およびホワイトペーパーを執筆。

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