企業インタビュー|スタートアップがマテリアリティを定める意味とは?シェルパ・アンド・カンパニーに聞く、戦略と結びつくサステナビリティ経営の実践

本記事は、ESG Journal編集部が、不定期にサステナビリティ経営の最前線の情報をインタビュー形式でお届けするインタビュー記事です。
近年、サステナビリティは企業規模を問わず、経営戦略や企業価値と密接に結びつく重要なテーマとなっています。特に、成長中の企業にとっては、事業戦略と整合したマテリアリティを的確に整理し、意思決定の軸として位置付けることが重要です。
本インタビューでは、スタートアップ企業であるシェルパ・アンド・カンパニー(ESG Journal運営会社)が、どのような考え方のもとでマテリアリティを特定し、経営戦略と接続していったのか、その実施プロセスについて実施メンバーにお話を聞きました。
※マテリアリティ特定とは、ステークホルダーおよび事業性の観点から課題の重要性を評価し、ステークホルダーにとって重要度が高い課題と自社の事業活動に関連性が高い課題を抽出し特定するプロセス。
<お話いただいた方>
奈良雄介:シェルパ・アンド・カンパニー株式会社 サステナビリティ&インパクト本部
プロダクトチーム シニアエキスパート
英大学院修了後、ESG評価機関・Vigeo Eiris/Moody’s ESG SolutionsにてESGアナリストとして勤務。現在はシェルパ・アンド・カンパニーで、プロダクトへの知見導入と社内サステナビリティ推進に従事。
| マテリアリティ特定で感じた実務上の難しさ
サステナビリティ情報開示プラットフォームを提供する企業として、実際にマテリアリティ特定に取り組んでみていかがでしたか。
実際に取り組んでみると、実務面で負担の大きさを感じる場面もありました。
例えば、自社のマテリアリティを特定するプロセスでは、多数の課題の中から自社にとって重要なテーマを絞り込む必要があります。評価機関の設問や各種開示基準など、数千項目からなる内容を参照しながらロングリスト(約300課題)を作成しました。そのうえで、自社製品などを活用し効率化できた部分もあったものの、最終6課題までの絞り込みには相当な労力を要しました。
また、マテリアリティ評価については、具体的で統一されたガイドラインが定められているわけではありません。そのため、各社が独自の特徴を反映させやすく、自由度が高いという側面があります。一方で、適切な説明責任を果たすためには、論拠を明確にするなど試行錯誤を重ねながら進めていく必要がありました。
試行錯誤の過程によって、マテリアリティ評価および特定プロセスにおける実務上の重要なポイントとして「ステークホルダーヒアリングの重要性」にも気づきました。実際のヒアリングでは前提や詳細な背景説明が不十分な場合、誤解につながる可能性があります。この点は、情報開示においても同様であると感じました。
逆に、ステークホルダーからの指摘を受けて自社では気づかない課題を認識することもできました。マテリアリティ特定の妥当性を高めるうえで、ステークホルダーへのヒアリングの重要性を改めて実感しました。
|SmartESGを活用したマテリアリティ特定プロセス
具体的なマテリアリティの特定の流れを教えてください。
まずは、SmartESG(自社プロダクト)を活用し、主要なESG評価機関や開示基準などを参照しながら、当社の事業および業界特性に関連するサステナビリティ課題のロングリストを作成しました。さらに、社内コンサルタントの専門的知見や他社事例も踏まえてショートリストへと絞り込み、ステークホルダーへのヒアリングや経営陣との対話を通じて優先順位を整理しました。
最終的に6つの課題(マテリアリティ)を特定し、各取締役の承認を経て経営戦略と整合する重要課題(テーマ)として位置づけています。
マテリアリティを特定するプロセスにおいて、スタートアップならではの工夫された点はありますか?
スタートアップとして限られたリソースの中で取り組むにあたり、プロダクトの活用やステークホルダーヒアリングを取り入れるなど、効率化を意識した進め方を工夫しました。
課題の抽出では、一般的に外部ガイドラインや評価機関の設問を参照するケースが多く見られます。当社ではSmartESGを活用することで、作業時間を大きく短縮しながら、サステナビリティ課題のロングリストおよびショートリストを作成することができました。
具体的には、SmartESGに実装されている「Focusコード」という独自の分類体系を利用しました。ここでは、自社の業界においてESG評価機関や開示プラットフォームから求められるサステナビリティ課題が整理されています。これを参照することにより、どのようなトピックをマテリアリティの候補にすべきかに関する初期仮説を立てることができました。
また、サステナビリティ推進の取り組みを始めて間もない段階であったため、定量的に整理された情報は十分に蓄積されていませんでした。そのため、社内外のステークホルダーへのヒアリングを通じて意見を収集し、定性的な観点から評価を補完しました。こうしたプロセスを経ることで、経営戦略との接続も図りながら、一定の信頼性と妥当性を確保できたと自負しています。
社内外のステークホルダーとはどのようにコミュニケーションされましたか。
当社ではあらゆる面で「対話」を重視することを平素からポリシーとしています。そこで、ステークホルダーヒアリングにおいても日程を調整し、可能な限り会話形式でのヒアリングを実施しました。
社外ステークホルダーとしては、顧客、投資家、AIガバナンス専門家、サステナビリティ専門家などを対象に幅広くミーティングを設定し、意見を伺いました。社内においても、役員との会議の実施に加え、サステナビリティ&インパクト本部や従業員へのアンケートを通じて意見を収集し、全社横断的にヒアリングを行いました。
その後、ヒアリングした結果をうまく反映するところにも工夫しました。ステークホルダーの皆様からいただいた膨大な論点を当社の戦略とも整合させながら、総合的に考慮する必要がありました。これにはチームメンバーとのコラボレーションと集中が必要であると考え、プロジェクトメンバー全員で当社京都オフィスに集まり、1日合宿という形で試行錯誤しながら完成まで仕上げたことは良い思い出になっています。
| スタートアップがマテリアリティを定めた理由
スタートアップとしてマテリアリティを特定した背景や効果を教えてください。
事業環境の変化が速いスタートアップにとっては、成長機会とリスクを早い段階で見極め、経営資源をどこに配分するのかを明確にすることが重要です。その判断を支える枠組みとして、当社ではマテリアリティの特定に取り組みました。
また、当社は企業と投資家をつなぐサステナビリティデータ・プラットフォームを提供する立場でもあります。こうした事業特性を踏まえ、自社においてもサステナビリティを経営の意思決定に組み込み、持続可能な経営の推進に積極的に取り組むことが重要であるということも、背景にあります
さらに、効果の一つとしてシェルパで働くメンバーそれぞれに対するポジティブな影響があったのではないかと考えています。例えば従業員ヒアリングでは、マテリアリティに関する率直な意見が数多く寄せられましたが、
このプロセスを通じて、従業員それぞれがサステナビリティについて、さらには働くことの意味について改めて考える契機になったと感じています。他にも、自分たちの意見が実際に会社の決定事項に反映されているという「実感」を持ってもらえたのではないかと考えています。
同時に、従業員の声、特にサステナビリティへの関心や働く環境に対する思いを経営陣に届ける機会になったことも、今回得られた良い副次効果であったように感じています。
今回、特定された最重要課題(マテリアリティ)とビジョンとの関連はどのようなものでしょうか。
当社は「利益とサステナビリティが融合した世界を実現する。」というビジョンを掲げています。これは、企業活動や金融活動が自然に環境・社会の改善と結びつき、持続可能な価値創出が当たり前となる社会を目指すものです。
このビジョン自体がサステナビリティ志向を強く示しており、企業と投資家をつなぐプラットフォームを構築することで、日本企業への投資を後押しする情報や基盤を提供していくことが、今後の重要な役割だと考えています。
実際にヒアリングの場でも、CEOの杉本氏は、5年後の姿としてそのような方向性を描いていると語っていました。こうした考えを踏まえ、サステナビリティ活動を後押しするプロダクトやサービスを提供することこそがシェルパの存在意義であると位置づけ「サステナビリティデータ・プラットフォームの提供」を最も重要なマテリアリティとして定めました。
このように、今回は「サステナビリティデータ・プラットフォームの提供」を最重要課題として位置づけていますが、その継続的な提供を支える基盤として、あわせて5つの重要課題を設定しました。
具体的には、「健全で先進的なガバナンスの確立」「働く人のウェルビーイングの実現」「システムの安定稼働」「顧客情報の保護」「AIの倫理的な活用」です。これらの課題はビジョンと直接的に結びつくものというより、プラットフォーム事業を持続的に推進するための土台となるものです。
一方で、この5つの課題は、各部門における日々の取り組みがどのように会社のビジョンや最重要課題とつながっているのかを理解するうえで重要な役割を果たしています。ビジョン、最重要課題、そしてその他のマテリアリティを体系的に整理することで、それぞれの業務の意義や位置づけを把握しやすくなりました。例えば開発本部のエンジニアがシステムのセキュリティ対策のタスクをしている時、これがシステムの安定稼働に結びつき、さらにサステナビリティデータ・プラットフォームの提供、そして当社のビジョンに不可欠であることが分かります。
最後にメッセージをひとことお願いいたします!
私自身、長年サステナビリティ分野に携わる中で、持続可能な社会の実現には大きな資金の流れを生み出す仕組みが不可欠だと考えてきました。今回のマテリアリティ特定を通じて、経営陣と従業員が改めて「利益とサステナビリティを融合」させていく会社の方向性を共有できたのではないかと思います。
今後は、このマテリアリティを共通の軸として、経営陣と従業員が一体となり、ビジョンの実現に向けた取り組みを進めていきたいですね。
マテリアリティ特定を行ったことで、当社のサステナビリティ推進はやっとスタート地点に立ったところだと考えています。今後も、試行錯誤が続くと思いますが、シェルパらしく対話を重ねながら施策や開示を進めていきます。そして、他のスタートアップにも参考にしていただけるような取り組みを進め、共有していければよいなと考えています。
参考情報:シェルパのマテリアリティ
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