【ESG 企業開示事例⑳】独自のROESG指標を中計の経営指標に!明治ホールディングスのESG・サステナビリティ経営
こんにちは!ESG Journal編集部です。
本記事はESG / SDGsに力を入れて取り組んでいる上場会社の事例を取り上げるシリーズになります。
第20弾として、今回は明治ホールディングス(以下、明治HD)を取り上げます。明治は今年発表した新中計より経営指標に「ROESG」を取り入れました。エーザイに続き、国内でROESGを大々的に標榜した2社目の会社となります。またROESGの算出には明治独自の考え方が随所にみられ、中期経営計画や統合報告書も本指標の策定に伴って大幅にアップデートされました。本コラムではそんな明治の取り組みを掘り下げていきたいと思います。
明治ホールディングス株式会社
2009年4月に明治製菓と明治乳業の経営統合により設立。ヨーグルト、牛乳等の乳製品、菓子ではチョコレートが主力。子会社で医薬品事業も展開。海外事業では中国・米国での収益力強化とその他アジアでの事業拡大を図る。
出所:SPEEDA、会社公表資料より作成
CSR/ESGにおける主な対外的評価
「DJSI ASIA」:2019年、2020年選定
「SNAMサステナビリティインデックス」:4年連続で選定
「CDP」:2020年に気候変動と水において上位ランクであるA⁻の評価を獲得
GPIFの運用機関が選ぶ「優れた統合報告書」:1運用機関選定
GPIFの運用機関が選ぶ「改善度の高い統合報告書」:1運用機関選定
中期経営計画の発表と統合報告書の大幅な改善
明治HDは2021年7月、2021〜23年度の中期経営計画の発表を行いました。そして新中計を反映した統合報告書2021も9月6日に発表されました。
まず2020年度と2021年度の統合報告書における冒頭の川村社長CEOのページを見比べてみましょう。
出所:統合報告書2020(P.20~21)
出所:統合報告書2021(P.10~11)
1年間で見せ方が大幅に変わっています。2021年度の統合報告書ではROESG・サステナビリティをタイトルに打ち出し、会社のパーパスとして創業の精神の一つである「栄養報国」を挙げています。また「健康にアイデアを」というパーパスに紐づくスローガンを策定したことを報告しており、事業報告を中心とする2020年の内容とは大きく異なる、しっかりとしたストーリーテリングがなされています。
「明治ROESG」本格始動
明治HDは2021~23年度の中期経営計画で、独自の経営指標として「明治ROESG」を打ち出しました。ROESGとは自己資本利益率(ROE)とESGを組み合わせた指標になりますが、用語の詳細に関しては以下記事をご覧頂ければと思います。
ROEとESGの両立が日本企業の生きる道?今話題のROESG経営とは – ESG JournalROEとESGの両立が日本企業の生きる道?今話題のROESG経営とは
また「明治ROESG」は通常のROESGの考え方とは異なり、①ROE、②ESG指標目標達成、③「明治らしさ」の目標達成の3つでポイントを算出します。
②のESG指標目標達成は、外部評価機関4社(MSCI・DJSI・CDP・FTSE4Good)による5つのESG格付けによって測られます。例えば2020年度のDJSIの評価は80%(52点)でしたが、2023年度までには90%(75点)を目指します。
最終的には5つの目標を達成すると1.2x、4つ達成だと1.0x、3つ以下の達成だと0.8xがROE数値に乗算されます。これに明治が大きく貢献できるとする社会課題に「明治らしさ目標」を設け、目標達成毎に1点を加算します。
2020年度のROESG実績スコアは9ポイントでしたが、2023年度の目標は13ポイントとしており4ポイントの上積みを目指すと共に、結果と役員報酬を連動させて取り組みの実効性を確保すると発表しています。
出所:統合報告書2021(P.20)
競合他社とのROE・PBR比較
明治のROEや株式市場からの評価はここ数年でどのように変化してきたのでしょうか。直近3年間は売上高が伸び悩むも、積極的な設備投資を行ったことで総資産が膨らみ、効率性が悪化したことでROEの水準が13%から11%まで下がっています。PBRも2018年度の2.5xから2020年度は1.7xまで下がってしまい、海外競合のNestlerとは大きく水をあけられ、国内でもキッコーマンやヤクルトよりも低い水準に位置します。機能性ヨーグルトなど、国内市場では安定的な地位を掴む一方で、海外におけるプレゼンスなど将来成長の期待が見えていない、というのがPBRや株価の低迷の大きな要因になっているとみられています。
出所:SPEEDAから抽出(直近3事業年度のROEとPBR)
ROESGに「明治らしさ」を加えて勝機を見出す
今後明治はどのような戦略でROESG経営を進めていくのでしょうか。ここで鍵となるのが、ROESG指標に独自で織り込んでいる6つの目標「明治らしさ」かもしれません。より一層明治が強みを出せる分野(ワクチン・タンパク質など)での目標をROESGに加えることで、企業価値のさらなる向上を目指す狙いがあります。
明治らしさ
①健康寿命の延伸
②タンパク質摂取量
③インフルエンザワクチン接種率
④従業員エンゲージメントスコア
⑤健康商品の売上伸長率
⑥新型コロナワクチンの開発・供給
特に6項目の中でも2項目を占めたワクチンについて川村社長CEOはインタビューでこのように述べています。
「ROESG導入を考え始めた方が先で、コロナ自体は後から訪れた環境変化でした。まずESGについては、そのKPI(重要業績評価指標)自体の活動を深めようとする側面があります。当初はこの取り組みを通じて社員に社会課題への認識や理解度が進むことを期待していました。それが新たな事業のシーズ(種)になるかといえば、すぐには難しい印象もありました。
出所:DIAMOND Online 2021.09.10「明治ホールディングス・川村和夫社長インタビュー」
ところがパンデミックを経て、社会課題解決型ビジネスはとてつもないパワーがあることを改めて思い知らされました。例えば、ワクチンがこんなに大きなビジネスに変わることは、パンデミックが訪れるまでどの会社も認識していなかったのではないでしょうか。当社もワクチンに関しては、数年前にKMバイオロジクスを傘下に収めた時点で、大きな事業の一つとなりました・・・(中略)・・・パンデミックが始まってからの流れを見ると、社会課題解決型を目指す企業の場合、ESGが新たな事業シーズを追いかけることに直結するのではないかという点を痛感しました。」
ROESGの本格的な導入を考える中でコロナを経験し、社会課題解決の重要性を社長自らが痛感したことが今回の明治独自のROESGに結びついたのだと思われます。結果として、中期経営計画・統合報告書共に、利益と持続可能性の二兎を追うという姿勢が全面に押し出されています。
設備投資にESG投資額300億円を織り込む
また財務戦略に置いては、2021年度の統合報告書において食品・医薬品のESG投資として計300億円を盛り込むことを発表しました。資金の一部はサステナビリティボンドで調達することも表明しており、具体的なサステナビリティの強化と企業価値向上施策が打ち出されています。
出所:統合報告書2021(P.17)
最後に
明治HDのサステナビリティ・ESGへの取り組みをまとめましたがいかがでしょうか。統合報告書の内容も2020年度から大幅に変わり、よりストーリー性が高まったことに加え、「明治ROESG」という独自の価値指標も加えることで、サステナビリティ経営の推進によって企業価値を向上させる、という強い意志が窺えます。「企業間競争のルールは明らかに非財務情報の重視などへと移ってきている。この競争の勝者となるためには、いかにルール変更を自分たちのものとして、そこに向かった活動をできるかどうかだ。」とインタビューでも語った川村社長CEO率いる明治HDの今後の取り組み・成長戦略に引き続き着目したいと思います。
ESG JournalではNRI以外にも多くの企業の事例を取り上げていますので、お時間ある方は是非こちらからご覧ください!前回は野村総研(NRI)について取り上げました。
【ESG 企業開示事例⑲】ESG説明会の実施やTCFDへの段階的な対応に注目!野村総合研究所のESG・サステナビリティ経営
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次回も上場企業のESG開示やESGの最新トレンドについて、詳しく紹介していきたいと思います。
それではまた!