こんにちは!ESG Journal Japan編集部です!
近年、生物多様性の喪失に対する国際的な危機感が高まっています。2020年1月、世界経済フォーラム(WEF)は世界全体のGDPの半分以上が生物多様性に依存しており、過去に人類が経験したことのない生物多様性の喪失によってこれらの経済価値がリスクにさらされていると指摘しました。
こうした危機感の高まりを受けて、先進的な企業や金融機関は、生物多様性の問題を経営や投融資に取り込もうと動き始めています。後編では、国内企業の生物多様性に関する開示事例や直近の生物多様性にかかわる開示のグローバル動向などを紹介します。(前編がまだの方は是非以下リンクよりご覧ください。)
【前編】2022年のESG注目トレンド!生物多様性の最新動向を徹底調査!(前編)
国内企業の生物多様性方針と開示事例
味の素株式会社
味の素は、2012年に生物多様性に関する行動指針を策定しています。
1.生物多様性に関する問題と、気候変動、水資源の減少、廃棄物処理などの他の環境問題とは相互に密接にかかわり合っており、分けて考えることはできません。この相互の関係性を考慮し、生物多様性の保全や生物資源の持続可能な利用への取り組みと、温室効果ガスの排出抑制や資源の有効活用、廃棄物の削減などの他の環境負荷低減への取り組みとが相互に効果的となるように取り組みます。
2.グループの事業活動と生物多様性との関わり、すなわち、グループの事業活動が生態系や生態系サービスにどのように依存しているか、また、どのような影響を与えているかを把握します。
3.その上で、事業活動の影響のネットポジティブ化*を意識し、事業活動が生物多様性に与える影響を減らし生態系の持つ再生産能力や物質循環能力の範囲内で行われるように改善していくとともに、生態系の回復にも寄与することを目指します。
4.生物多様性に関する国際的な規則や取り決めを遵守します。
また味の素は、生物多様性や価値創造能力に実質的な影響を及ぼすマテリアリティ(重要課題)として「持続可能な原料調達」「フードロスの低減」などを挙げており、前者に関しては2030年度までの持続可能な調達比率100%を、後者に関しては2025年度までに原料受け入れから顧客への納品までに発生するフードロス率50%(2018年度対比)を目指しています(製品ライフサイクル全体で発生するフードロスは2050年度までに50%削減を目指す)。
出所:統合報告書2021
株式会社ブリヂストン
ブリヂストングループは持続可能な社会の実現に向け、「自然と共生する」「資源を大切に使う」活動を重視し、生物多様性の保全への貢献や商品やモノづくり全体を通じた資源生産性の向上、水資源の有効活用などに継続的に取り組む方針を掲げています。
出所:統合報告書2021
また2050年以降の長期を見据え、「生物多様性ノーネットロス」や「100%サステナブルマテリアル化」という明確な目標を掲げています。ノーネットロスとは、事業活動が与える生物多様性への影響を最小化しながら、生物多様性の復元などの貢献活動を行うことによって、生態系全体での損失を相殺するという考え方です。具体的なアクションとして、事業所周辺の生態系の保全・復元や、生物多様性に関する環境教育に取り組んでいます。
出所:環境長期目標(2050年以降):生物多様性ノーネットロス(貢献>影響)
2019年には「自然と共生する:生物多様性貢献活動推進プログラム」を開始し、各拠点の生物多様性貢献レベルを評価すると共に、活動事例を共有することで貢献活動をさらに促進しています。(2020年は138の生産拠点が本プログラムに参加。)
積水ハウス株式会社
積水ハウスではESGの重要テーマの1つとして「人と自然の共生社会」、マテリアルな項目として生物多様性を特定しており、中期経営計画にも生態系保全を含むESGが組み込まれています。
また長期的な目標である「サステナビリティビジョン2050」において目指す姿の一つとして「人と自然の共生社会への貢献」を掲げ、2030年目標として生物多様性の主流化をリードすること、地域生態系に配慮した植栽提案「5本の樹」計画に基づく植栽本数年間100万本規模の持続(下図参照)、木材「フェアウッド」調達100%、2050年のチャレンジ目標として事業を通じた生態系ネットワークの最大化を掲げています。
出所:統合報告書2021
イオン株式会社
イオンでは、事業活動が自然の恵みなしには成立しないという認識のもとで、マテリアリティの一つとして「生物多様性の保全」を掲げ、以下の生物多様性方針を掲げました。
事業活動全体における、生態系への影響を把握し、お客さまや行政、NGOなどステークホルダーの皆さまと連携しながら、その影響の低減と保全活動を積極的に推進します。わたしたちは、「生態系」について事業活動を通じ
1. 「めぐみ」と「いたみ」を自覚します。
2. 「まもる」「そだてる」ための活動を実行します。
3. 活動内容をお知らせします。
上記の方針に基づき、テンポや商品を通じて、顧客やサプライチェーンとともに様々な取り組みを実施しています。
生物多様性方針の取組例:イオンふるさとの森づくり、トップバリュグリーンアイ(PB商品)の販売とその生産現場でのエコ農業体験プロジェクト実施
持続可能な調達原則の取組例:MSC・ASC認証の水産物の販売、FSC認証の商品の販売と、建築資材での活用
出所:イオン生物多様性方針
生物多様性に関する直近のグローバル動向
EFRAGとGRI、生物多様性基準作成に向け協働
2021年12月1日、欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)とGRIは、それぞれの新しい生物多様性基準策定を目的に協働を発表しました。EFRAGは2022年6月中旬にEU基準ドラフトの欧州委員会への提出を、GRIは2022年後半に生物多様性基準の更新をそれぞれ目指しています。
CDSB、生物多様性に関する新レポート「Biodiversity Application Guidance」を発行
2021年11月30日、気候変動開示基準委員会(CDSB)は生物多様性に関する最新のレポートである「Biodiversity Application Guidance」を発行しました。本レポートの目的は、投資家が生物多様性に関する重要な財務情報を評価するための開示支援です。また、投資家が効果的な資本配分のために必要な生物多様性関連情報を確実に受け取ることで、持続可能で強靭な経済への移行の促進も支援します。
CDSB、生物多様性に関する新レポート「Biodiversity Application Guidance」を発行
WBA、「自然・生物多様性ベンチマーク」に対するパブリックコメントの募集を開始
2022年1月、SDGs推進国際NGOのWorld Benchmarking Alliance(WBA)は「自然・生物多様性ベンチマーク」の原案を発表し、パブリックコメントの募集を開始しました。同ベンチマークは、22業界にわたる最も影響力のあるグローバル1,000社を対象に、適切なガバナンス・生物多様性・環境管理体制を構築し、安定的で強靭な生態系の維持に貢献しているかどうかを評価する予定です。
WBA、「自然・生物多様性ベンチマーク」に対するパブリックコメントの募集を開始
TNFD、CDP・SASB・GRIなど新たなナレッジパートナーを発表
2022年1月、自然関連財務開示タスクフォース(TNFD)は、自然関連の統合的なリスク管理と開示のフレームワークを開発するナレッジパートナーを発表しました。ナレッジパートナーにはCDPやSASB、GRIなど、サステナビリティに焦点を当てた国際的な基準設定、企業報告、サステナブル・ファイナンス機関など、幅広い分野で活躍する以下の企業・団体が含まれています。
TNFD、CDP・SASB・GRIなど新たなナレッジパートナーを発表
グローバルキャノピーとUNEP FI、TNFDのフレームワーク策定を支援する報告書を発表
2022年3月、グローバルキャノピーと国連環境計画金融イニシアチブ(UNEP FI)は、TNFDのフレームワークの実用化に向けた報告書を発表しました。今回の報告書のベースとなったパイロット調査は、大豆のサプライチェーンで事業を行う企業、あるいはそれらの企業に融資を行う金融機関を対象に実施され、①ハイレベルなフレームワークだけではなく詳細なガイダンスを提供する必要があること、②フレームワークに合わせるために段階的なアプローチを実施すべきであること、③情報開示の中にリスクへの具体的な行動を組み込ませること、④自然関連リスクに対するより詳細な研究が必要であること、の4点が明らかになりました。
グローバルキャノピーとUNEP FI、TNFDのフレームワーク策定を支援する報告書を発表
最後に
後編では生物多様性の国内事例やグローバルの最新動向を中心に取り上げましたがいかがでしょうか。TNFDのフレームワーク策定など、2022年は生物多様性元年になると言われています。現状国内では、生物多様性に関して開示を行っている企業は少ないものの、気候変動におけるTCFDがここ数年で急速に広まった背景を考えると、TNFD策定後は生物多様性に関する企業・金融機関の取り組みが急速に加速する可能性が非常に高いです。ESG Jouralでは生物多様性に関する国内外の最新動向を定期的に配信しますので、今後の生物多様性関連の記事も是非ご覧頂ければと思います!